あなたがいいなら付き合いたい
『何も知らなくて、迷惑かけてごめんなさい。もう友達でいてほしいって言わないです。本当にごめんなさい。やさしくしてくれてうれしかったです。ありがとう』
千歳は緑さんへのLINEへそう書いて、俺に『これでいいかなあ』と了解を求め、俺の「全然問題ないと思う」を聞いてから、緑さんに送った。
千歳は、大きくため息を付いた。
『……悪いな。お前仕事忙しいのに、ワシのせいで時間食って』
「いや、全然千歳は悪くないよ! 誰も悪くないよ、巡り合わせは良くなかったけど、それだけだよ!」
誰も悪くないことだった。そりゃ千歳はがっかりするだろうけど、でも、罪悪感持ってほしくない。
『…………。昼飯作ってくる。悪い、昼飯、ちょっと遅くなる』
「大丈夫大丈夫、待ってる、仕事してる」
俺はノートパソコンを立ち上げて、少し仕事をした。それから、遅めのお昼を食べつつ、しおれたままの千歳を慰めたり、ついでなので緑さんに関わる朝霧家事情も教えたりした。
『緑さん、そんなことあったのか……』
「まあ、十年前の話ってことだけど。今は元気だってさ、千歳がバラバラになった時も、バリバリに働いてたし」
『そうかあ、そういや、その時もワシ世話になってたのか……』
千歳(幼児のすがた)は肩を落としつつ、萌木さんからの明太子製たらこスパゲッティをもそもそ噛んでいた。
本当に誰も悪くないんだし、いくらだって千歳を慰めてあげたいけど、うまい方法が思い浮かばない。どうしようかと思いながら、食べ終わって、食器を洗っていたら、千歳のスマホが鳴った。千歳は食後の麦茶を前にスマホを手に取り、そして、目玉が飛び出るかと思うくらいびっくりした顔をした。
『み、緑さん!?』
「え、どうした!?」
緑さんから、返事?
千歳は、スマホ片手にこっちにすっ飛んできた。
『どどど、どうしよう、見るの怖いのに通知でちらっと見ちゃった、会いに行ってもいい? って書いてあった気がする!!』
「会いに来るの!?」
『見るの怖い!』
「お、落ち着いて、俺見ていいなら代わりに見ようか?」
『見てくれ!』
千歳はスマホを差し出してきた。俺は食器を放りだして、手の泡だけ洗い落としてスマホを受け取った。
たしかに緑さんからのLINEで、それには、こう書いてあった。
〈会いに行ってもいい? こちらも本当にごめんなさい、私達はずっとあなたへの対応を間違ってきた気がするの〉
スマホが震えて、また緑さんからLINEが来た。
〈いつなら会いに行ってもいい? 私だけでも、あなたと普通につきあいたいの〉
これは、ガチで千歳に会いたい人のLINEだ。え、付き合いダメなんじゃなかったの? でも、対応を間違ってたってことは、今後見直すってこと? 普通に付き合うって、普通に友達付き合いするってこと?
でも、とりあえず、千歳が怖がるようなLINEじゃない、と思う。
「千歳、何も怖がらなくていい、大丈夫だよ」
俺は、千歳にLINEの内容を伝えた。伝えて大丈夫そうだったので、LINEそのものも見せた。
「会える日時、教えてあげたらいいんじゃないかな、これ、緑さんすごく会いたがってるよ」
『う、うん……』
スマホがまた震えて、また緑さんからラインが来た。
〈私車あるから、どこでも行けるし、予定も調整するから〉
『え、ええと、ワシ、とりあえず今日午後割と暇だけど……』
「じゃあ、そう送ってみる?」
『う、うまく書けない! びっくりしすぎて、うまくできる自信ない!』
俺は、千歳の手が震えているのに気づいた。
「えーと、じゃあ、俺が代理に打とうか? 俺が代理で書いてますってのも、ちゃんと書いて」
『う、うん……』
千歳は、おろおろしつつも頷いた。なので、俺は緑さんにこう送った。
〈和泉です。千歳が驚いてうまく打てなくなってるので、代わりにお返事させていただきます。ひとまず、千歳は今日の午後空いてるそうです〉
送って、すぐ返事が来た。
〈今、そちらにお邪魔してもいいですか? 玄関先で済ませるので〉
『ええっ!』
千歳は飛び上がった。
「早いな……」
『ど、どうしよう、ワシ、どうしよう』
右往左往する千歳。
「うーん、千歳が会いたくないなら断っていいと思うけどさ、これ、緑さん、千歳と普通に友達付き合いしたいよってことだよな」
『えっ!? あ、でも、そうか……』
千歳はとりあえず立ち止まり、両手を開いたり握ったりしだした。
「会う? どうする?」
『……会う』
千歳は、覚悟を決めたような、キリッとした表情になった。
「じゃあ、俺、そう送ろうか?」
『……ワシ、自分で送る。頑張る』
「そっか」
俺は、千歳にスマホを返した。
千歳は、すぐ会いたい、とLINEを送り、すぐ行く、と返事が帰ってきて、三十分しないうちに、うちの玄関チャイムが鳴った。
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