番外編 朝霧緑の思うこと
怨霊を生み出したのは、朝霧家の所業のせいだったんだろうと思っている。
〈そういう〉素質のある家は、悪霊、怨霊、神仏その他の存在に何百年単位で対応するために、家を残すこと、血を残すことが大事だ。
「孕むことも孕ますことも出来ない」とみなされた存在。江戸時代、文化文政時代の朝霧家でどういう扱いをされたか、想像に難くない。
本人に何の罪咎もないのに、ずっと異形と呼ばれて閉じ込められていた存在。都合の良いときだけ使われて、ある日いきなり用済みだとみなされて、反撃しようとしたら殺された存在。そりゃ、死んだら怨霊にもなる。
私自身、ずっと子供を作れないことで役立たずとみなされ、周囲からプレッシャーを掛けられ続けた人間だ。子宮と卵巣を摘出した時、十年子供が出来なかった理由の一切合切をぶちまけたのは、確実に子供を作れなくなってしまった私が、このままだとどんな扱いを受けるかわからない、というのがある。
子供はそりゃかわいいし大事なものだけど、いなくたって、それなりに人生楽しくやっていけると思う。好きな飲み物、友達、自分を慕ってくれる人、仕事、面白い本、きれいな景色。それらが、さまざまに人生を彩ってくれると思う。
……怨霊は、祠に封印されるまでに、何十人もの人間を殺傷している。けれど、和泉豊を祟り始めてからは一人も殺めていない。人助けと言えることまでしている。
和泉豊は、いい意味で、ごく普通に怨霊に接している。そして、多分、怨霊のことをとても大事に思っている。
狭山くんが、初めてあの二人と会った時、和泉豊がまず最初にしたのが、怨霊をかばうことだったと言っていた。二人を温泉に行かせた時も、彼が怨霊にごく優しく接しているのが、盗聴した会話から感じ取れた。
たった一人優しくしてくれる人がいたら、それで大人しくなってしまう怨霊。誰一人として優しくしてくれなかったから、何十人も殺してしまった怨霊。
誰一人として優しくしなかった朝霧家にも、相当責任がある気がする。
優しくしてくれる人がいて、それで穏やかに暮らせているなら、二百年以上閉じ込められていたのだから、もう、おだやかに幸せに暮らしていてほしい、と思う。
……そう、そういう境遇の怨霊で、素直で無邪気で、かわいい子だった。会った時の印象が間違っていなかったら、今回のことで、怒り狂って暴れることはないと思う。
ただ、悲しませてしまう、とは思う。
……ごめんなさい。本当に、ごめんなさい。
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