最後に一度伝えたい

『緑さん、やっぱり朝霧家の人間だったのか……』

すべてを聞いて、千歳はしょぼくれた顔でつぶやいた。

「やっぱりってことは、もしかして、薄々感づいてた?」

緑さん、フルネーム名乗ったのに千歳が態度変えなかったの不思議がってたけど、千歳、気づいてはいたんだ。

千歳は困り眉のまま、ぼそぼそ言った。

『名前聞いた時に、あれっと思ったけど、あんまり普通に親切にしてくれるから、朝霧家だけど素質全然ない人なのかと思ってた。ワシのこと、怨霊ってわからないんだと思ってた』

「あー、なるほど……」

実際には朝霧家本家の嫁で、バキバキに霊感ある人で、でも千歳と会った時に限って状態異常だったわけか。

『そっかあ、ワシ、緑さんと友だちになったらいけなかったのか……』

千歳は、肩を落としてため息を付いた。

……そう言えば、緑さん、こんな事が起こって困ってる、はものすごく説明してくれたけど、千歳と今後付き合えないから繋がりを切ってくれ、ということは特に言わなかったな……まあ、あそこまで言われたら、言外に、千歳とつき合うの無理だからなんとかしてくれ、と言われてると理解すべきだけど。

千歳はうつむいた。

『ワシさあ、緑さんにさあ、LINE慣れてきたから調子乗っちゃってさあ、教えてくれたお菓子うまかったとか、手作りできるイギリスのお菓子あるかとか、たくさん送っちゃった……。緑さん、気に入ってくれて嬉しいって言って、いろいろ教えてくれたんだけど、本当は困ってたのかなあ……』

それは……緑さんのしがらみ的には、困っただろうけど……。

ただ、緑さん、すべての先入観を捨てて千歳と会って話した今回、千歳のことを、明るくて素直でかわいい子、って感じたんだよな。そりゃ、いろんなしがらみがあるのは事実で、千歳とはもう付き合えないんだろうけど。でも、始まりは純粋な親切だったし、純粋に仲良くなれたのに、その関係を悲しい気持ちで終わらせるの、つらいよな。

俺は少し考え、こう言ってみた。

「……あのさ、友達にはなれないし、連絡もすべきじゃないんだと思うけど、最後にもう一回だけ、LINEするくらいはいいと思うよ。友だちになれないのはわかったけど友達になれて嬉しかったとか、今まで付き合ってくれてありがとうとか、そういう感じなら、緑さんも困らないと思う」

千歳が緑さんの事情をちゃんと理解して、その上で、別に怒っていないし遺恨もない、親切に感謝している、という内容なら、伝えても問題ないと思う。

『…………』

千歳は、俺を見上げて、その目が少し潤んでいた。

『…………うん。最後に1回だけLINEする。ちゃんと、ごめんなさいって言う』

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