閑話 おうち温泉宿 上
「おわった……! やっと終わった……!今から明日いっぱいまで休み!」
ノートパソコンを閉じ、マウスを脇にやって俺は宣言した。お昼前のことである。
フリーランスとして、仕事があるのはありがたいことだが、どれもこれも引き受けていたら、まとまった休みがずっと取れなかったのだ。
『何だ? やっと終わったのか?』
台所にいた千歳(女子中学生のすがた)がやってきた。
「おかげさまで……もう明日いっぱい何にも仕事しない……」
机に突っ伏してうめくと、千歳が肩をもんでくれた。
「あー、ありがとう、助かる……お昼の後全身もんでくれたら嬉しい……」
『もむけどさ』
千歳は俺の首ももみながら言った。
『おまえ、ずっと休みらしい休みなかったじゃないか、暇な時もワシのマイナンバーカード取りに行くのに付き合ったりさ、大丈夫なのか?』
「うーん、夕飯の後はのんびり出来てるから大丈夫だと思ってたけど……休めるとなると脱力しちゃうな……」
会社泊まり込み当たり前、二十四時間働けますかなブラック企業勤め時代に比べたら天国みたいな労働環境なわけだが、よく考えたら労働基準法の一日八時間以上はきっちり働いており、そりゃ疲れるのも当然である。
「休める時はさ、お金あったらまた温泉旅行とか行きたいんだけどさ、今からは流石に無理なんだよな……」
いつか千歳とまた旅行行きたい。温泉旅行は一つの候補である。そのためにお金に余裕持ちたいし、稼ぐ動機の一つになってる。でも、今から滑り込める温泉宿なんてないし、あるとしても探して行く気力ないし……。
『…………』
俺は突っ伏したままだったのだが、頭上から千歳が考えている気配がして、それからこう聞こえた。
『じゃあ、お前、今から明日いっぱいまでここは温泉宿だと思え』
「え?」
『朝風呂昼風呂入れてやるし、洗濯物しまうのも食器洗うのも今から明日いっぱいまで全部やってやる。飯もちょっといいもの作ってやる。お前は食って寝て遊ぶだけしろ』
「え、そんなにしてもらっていいの?」
俺は体を起こした。千歳は俺の背中をポンポン叩いた。
『たまにはな。お前さ、ここんとこ、朝飯食ったらすぐ仕事始めて、ちょっと散歩行く以外は六時くらいまでずっと仕事だろ? 普通の会社員より働いてるぞ、たまにはちゃんと休め』
「あー、確かに、九時五時よりは働いてるのか、俺……」
『じゃ、とりあえず昼飯な。昼飯は普通だけど、夕飯以降は少しいいのにしてやる』
「ありがとう……」
『昼飯の後は、もっとちゃんとマッサージしてやるからな』
「ありがとう、本当に……」
お昼にはスクランブルエッグのサンドイッチとポテトサラダのサンドイッチ、サラダにスープが出たのでありがたく食べ、その後全身マッサージしてもらった。マッサージ後、ゆるみすぎてがっつり昼寝していたら、その間に千歳は食材を買い足して来たらしく、夕飯には、刺し身だのちらし寿司だのが出た。
『今日はワシのおごりだぞ! なんかひな祭りの日の献立みたいだけど!』
「いや、本当おいしそうだよ、ありがとう」
長く昼寝したから夜眠れるかなと思っていたが、少し長風呂したらすごく眠くて、風呂から出たら即寝してしまった。
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