後のフォローはしときたい
いつも通りに朝ごはんを食べて、コーヒー片手にパソコンに向かったが、気になることがある。
千歳が昨夜、狭山さんに何かしたっぽい。『DM送りたいからフォローしてほしい』と千歳が狭山さんにリプ飛ばしたのは確認した。で、昨夜の千歳の慌て方からして、狭山さんとのやり取りは俺に知られたくないっぽい。
そんな事考えてたら、スマホが震えて狭山さんからLINEが来た。
「おはようございます。あの、僕、在宅仕事の人と交流するDiscordやってて、和泉さんも在宅仕事なんで、よかったら来ませんか?」
……千歳、絶対に狭山さんになんか頼んだな。
俺は、誘いを受ける受けないの返事の前に、こう送った。
「すみません、昨夜、千歳が何かそちらにしませんでした?」
すぐ既読がつき、しばらくしてから返事が来た。
「あのですね、和泉さんと友だちになってくれ、って言われましたけど、いろいろ話して、頼むのはやっぱりなしということになりました」
あー、やっぱり……。え、でも結局頼まなかったの?
「千歳、頼むのやめたんですか? それなのにどうしてそんなDiscord誘ってくださったんですか?」
「あのですね、千歳さんの意図としてはですね」
狭山さんは、千歳とのやり取りを詳しく話してくれた。千歳、俺に楽しいこと増やしたいの? 俺が友達作ってそこ経由で結婚相手見つけてほしいんじゃなくて? あ、俺の状態はそれ以前の問題すぎるってこと?
狭山さんは最後に付け加えるようにLINEしてきた。
「そのですね、千歳さんのことがなくても、和泉さんのこと、うちのディスコ鯖に招待したいと思ってたから誘いました」
……狭山さんいい人すぎるだろ……千歳の頼みに「それは誰も幸せにしない」と指摘するだけじゃなくて、千歳の発言力に釘刺すのまでしてくれたなんて……。
「すみません、千歳が迷惑かけまして、本当にいろいろありがとうございます」
「いえ、こんなのは全然。あの、一応和泉さんの耳にも入れておこうと思うんですけど、千歳さん、核の朝霧の忌み子は数えで十六歳で死んでるんですよね。満年齢なら十四か十五です」
「中学生くらいですか?」
千歳の核については、本人にあんまり聞いてない。あんまり覚えてなさそうだし、覚えてたとしても、きつい話を何でもない顔でされたら、どうしていいかわからないし。そうか、中学生くらいで死んじゃってたのか、千歳……。
「中学生ですね。千歳さんの好みとか性格はほとんど核のものなので、なんていうか……千歳さんと話してても思ったんですけど、千歳さん、ちょっと幼いところがあるかもしれません。話せばすぐわかってくれたから、素直だし地頭も悪くないんですけど」
ちょっと幼いところがあって、でも素直……。俺が千歳に持っている印象は、無邪気で素直で明るい、だけど、それとだいぶ一致する。そうだよな、中学生だもんな……しかもあんなところに閉じ込められて、ろくに人生経験積んでないだろうしな……。
ため息をついていたら、狭山さんからまたLINEが来た。
「でも、和泉さんなら友達いないなんてことないでしょう? 千歳さんがそう誤解してるだけじゃないですか?」
全然誤解じゃないんだよなあ。
「誤解じゃないですね、本当に友達いません」
そう送ったら、驚く猫イラストのスタンプがすぐ来て、それからまたLINEが来た。
「いや、和泉さん、かなり付き合いやすい人だと思うんですけど……」
「そうですか? 陰キャですよ」
「そりゃ陽キャな感じではないですけど、穏やかで礼儀正しいし、話しやすいし、けっこうハイコンテクストなやり取りも通じるし」
うーん、まあ、狭山さんはTwitter廃人だから、Twitterやってる人ならすぐわかりそうな言葉をあえて使ったりはあったけど。それがわかる俺もTwitterに浸かり過ぎだけど。いや、だって東日本大震災の時にTwitter触れてたら、情報を得るツールとして手放し難いだろ……。
しかもなんかすごく褒めてもらって、どうしていいかわからなかったけど、とりあえずこう返信した。
「まあ、かまってくれる人とはそれなりに話しましたけど、中学から自分で仲良くしようとするのしなくなっちゃって、そしたら見事に友達がいないですね」
「厨二病ですか?」
うーん、厨二病だったら、大学くらいで寛解してておかしくないんだよなー! 大学だけでもう少しまともに人間関係やってたら、俺、今やり取りする友達くらいいたんじゃないかなー!
別に話さなくてもよかったんだけど、なんだか抱えきれなくて、つい書いてしまった。
「小学校の時に、私は母親にママ友へのアロマの勧誘やらされてたんですけど、小六の時にそれを仲良かった友達のお母さんにやって、そのお母さんをおかしくしちゃって、そのせいでその友達と絶交されて、それ以降、自分に友達作る資格なんてないんじゃないかって思っちゃって、自分から友達作らなくなっちゃいました」
送ってから冷静になって、重い話すぎたな、取り消そうか、と思ったけど、即、既読がついてしまった。
どうしようかと思ってたら、なんか連打でLINEが来た。
「ごめんなさい」「すみませんでした」「厨二病なんて言ってごめんなさい」「本当に申し訳ない」
慌てて返信する。
「いや、ぜんぜん! なんなら唐和開港綺譚のネタに使ってもいいですよ!」
「やっていいこととよくないことの区別くらいつきますよ流石に!」
まあ、ネタとして料理しにくい事柄はあるよな……。
またLINEが来た。
「友達作るの、今もしたくないですか?」
ドキッとした。
俺は、千歳が来てから、誰かと親しく話すことの幸せさが身に沁みていて。
俺に友達作る資格、今もないと思う。でも、千歳と会ってから、誰かと親しく話すことはとてもいいことだと、身を持って知ってしまった。だから、弱くなってしまった。もう、一人ぼっちでいることは出来ないと思う。
「作る資格はないと思ってるけど、でも、ほしいです。千歳が来てくれてから、もう、一人でいるのが出来ないくらい弱くなっちゃいました」
体はかなり健康になったけど、何ていうか、一度幸せを知ってしまったから、もう一人ぼっちに戻れないくらい弱くなってしまった。なんかの漫画でチラ見したから覚えてるだけの言葉だけど、人間強度が低くなるって、こういうことなんだろうな、つまり。
「人間強度が低くなるって、こういう時に使うんですかね?」
「西尾維新通ってる方ですか?」
「そっちはあんまりで、でも京極夏彦は一時期すごく読みました」
狭山さんなら、多分どっちも詳しいんだろうけど。
「僕も京極夏彦のほうが原点です」
少ししてから、またLINEが来た。
「いや、でも、それだったら、うちのディスコ鯖どうですか? 別に僕とでなくても、楽しくて信用できる人ばっかりですし、最近ちょくちょくマダミスやってるから、そういうのでも他の人と親睦深めやすいと思いますし」
……俺は、狭山さんともっと仲良くなれたら嬉しいし、狭山さんが信用できるって人たちなら、多分安心して付き合えるだろうな。
俺は返信した。
「入らせてもらいます。人がいっぱいいるサーバー初めてなんで、変なことしたらすみません」
「全然大丈夫です! 大した決まりとかなくて、眺めてるだけでも十分なので!」
そういうことで俺は狭山さん主催のDiscordサーバーに入り、自己紹介チャンネルで簡単な自己紹介と、慣れてなくて変なことしたらすみませんと書いてみた。
わ、即狭山さんからリアクションついた……てか、他の人からも結構付くな!?
他のチャンネルやスレッドも見てみる。雑談からマダミス、進捗報告に運動報告、いろいろあるけど、どれも楽しくやってる雰囲気だ。
……もう少し様子見て、そしたらちょっとずつ参加させてもらおう。参加したこと、友達作りに一歩踏み出したこと、ちゃんと千歳に伝えて、安心してもらおう。
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