番外編 ともだち作戦 中

『なあ、お前、狭山先生に友達になってくださいって言え』

夕飯の時に祟ってる奴に言ってみたら、えらく戸惑った顔をされた。

「え、何、いきなり」

『お前さ、狭山先生と話してると楽しいだろ?』

「そ、そりゃ楽しいけど……」

『お前、友達いないけど、一人くらいいてもいいだろ?』

「まあ……いたら楽しいけど……」

『じゃあ決まりだ、狭山先生と友達になれ』

こいつにいなくなってほしくない。こいつに楽しいことがたくさんできたら、いなくならないんじゃないかと思う。楽しく話せる人と友達になれたら楽しいと思う。だから、狭山先生と友達になってほしい。

祟ってる奴は困り果てた顔になった。

「いや、うん……なんかさ、これまで自分から友達作らなかったの、よくないなとは思い始めたけどさ……この歳で新しく友達作るっていうのもさ、難しいんだよ……」

『でも、狭山先生もお前と話してて楽しそうだし、いいじゃないか。きっと友達になってくれるぞ』

「うーん、狭山さんと打ち合わせは楽しいけどさ」

祟ってる奴は、箸を置いて腕を組んで、沈思黙考のかまえになった。しばらくしてから言う。

「狭山さんいい人だし、いい人だから俺に楽しくやらせてくれてるだけかもしれないし……。仕事の関係だから、円滑にするために親切にしてくれてるだけかもしれないし」

『そんなこと言ってたら誰とも友だちになれないだろ! お前、仕事でしか人と話さないのに!』

グダグダ言わないで、友達になってくれって言えよ!

祟ってる奴は、少し暗い顔をした。

「それはそうだけどさ、無理に友達面して、内心で嫌われる方が悲しいじゃん。それだったら、楽しく仕事づきあいして、気持ちよく仕事終わらせる方がいい、俺」

『うーん……』

それもそうではあるんだけど、狭山先生もこいつと話しててちゃんと楽しそうだと思うんだよな、ワシは。

うーん……あ、じゃあ、狭山先生の方に、こいつと友達になってくれって頼むのはどうかな?

『お前さ、じゃあ、狭山先生に友達になって欲しいって言われたらどうする?』

「それは……」

聞いてみたら、祟ってる奴は意外そうに目を見開いた。

「……よろしくお願いしますって言うな、うん」

『よし!』

「何が『よし!』なの?」

方針が固まったからだよ! 狭山先生の方に、友達になってって言ってもらえれば、全部解決じゃないか!

というわけで、狭山先生に頼みたい。でも、祟ってる奴にそれがバレたら、うだうだ言われそうだから、秘密にしながら頼みたい。

うーん、人と連絡を取るのは、今は令和だからLINEあるけど……ワシやっと星野さんとLINEできるようになったばっかりで、狭山先生とLINEで友達になるやり方よくわからないし……。祟ってる奴は狭山先生とLINEできるけど、聞いたらバレるかもしれないし……。

Twitterで話しかけたらバレるかな? バレるよな、あいつもTwitterしてるし、世界中から見えるんだもんな……。なんか、Twitter使って秘密でやり取りできるやり方ってないのかな?

夕飯の後、調べてみたら、Twitterのダイレクトメールっていうのがいい感じに使えるみたいだった。でも、フォローしてる同士じゃないと使えないんだって。

ワシは狭山先生をフォローしてるけど、狭山先生はものすごくたくさんの人にフォローされてて、その全部はフォローし返してないし……うーん……。

フォローしてくださいって話しかけたら、フォローしてくれないかな? それだけなら、祟ってる奴に見つけられても多分バレないよな?

一生懸命考えて、個人情報はバラしちゃいけないって祟ってる奴に言われたのも思い出して気をつけて、Twitterのリプライっていうのを初めて狭山先生に送った。『こんばんは。狭山先生にダイレクトメールっていうのを送りたいので、フォローしてほしいです』って送った。

Twitterのリプライっていうのは、LINEみたいに既読がつかないから、読んでもらえてるかどうか全然わからない。そわそわしながら待っていたら、二十分くらいで通知が来て、狭山先生にフォローしてもらっていた。やった!

いや、これからが本番だ、ワシが怨霊の千歳だって名乗って、祟ってる奴と友だちになってくださいって頼まなきゃ。

頭を絞って文面を考えて、一生懸命文字を打って、でも書けたのは結局、『こんばんは、怨霊の千歳です。いきなりの頼みでごめんなさい、ワシが祟ってる奴と友だちになってくれませんか?』だった。

送ってから、さすがに言葉足らず過ぎたと思って、『あいつぜんぜん友達いなくて、でも狭山先生と話してると楽しいみたいなんです。狭山先生も楽しそうだし、だから、あいつと友達になってもらえませんか?』と、頑張って文字を打って送った。

ダイレクトメールって言うのは、リプライと違って既読がつくらしい。しばらくしたら送ったダイレクトメールにチェックがついて、「入力中です」と表示されたので、ドキドキしながら待った。

「千歳さんですか? 和泉さんと友達になればいいんですか?」

いけるかもしれない! ワシは、できるだけ早く返事しないとと思って、すぐに頑張って返事を打った。

『千歳です。あいつ、これまであんまり楽しいことのない人生だったみたいだから、友達作って、楽しいこと増やしてほしいんです。お願いします』

すぐ既読のチェックマークが付いて、入力中って出て、でもその入力中がすごく長かった。

やっと来た返事はこうだった。

「僕も、和泉さんと友達づき合いができるようになったら嬉しいです。でも、千歳さんの頼みで和泉さんと友達になるのは、たぶん和泉さんの楽しいことを増やしません」

え?

どういうこと?

なんで? 

ワシがいたら、あいつ楽しくないのか?

どうしよう、どうしよう……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る