スマホの操作に親しみたい
ここ最近、仕事以外のことでちょっと忙しかった。
千歳のマイナンバーカード受け取り。
マイナンバーカードを身分証明に銀行口座開設。千歳のお金を全部口座に振込。
マイナンバーカードと銀行口座を使ってスマホ回線申込み。
で、今日SIMカードが届いた。これを、すでに買ってある千歳のスマホに入れれば開通である。
千歳(黒い一反木綿のすがた)はわくわくして喜んでいる。
『そのちっこいカード入れるの、ワシやりたい!』
「気をつけなよ、落とさないで」
『舐めるなよ、説明書あればそれくらいできる』
千歳は説明書を広げ、真剣な顔でスマホにピンを差し、SIMトレイを引き出してSIMカードをそっと納めた。
『これで使えるのか? ラインってやつ、できるか?』
「まず千歳をラインに登録してからだね、とりあえず電源入れよう」
千歳がスマホを触りたがるので、俺は横であれこれ説明する形でLINE登録に導いた。
『自分の電話番号入れるのか、ワシこの番号も覚えなきゃなあ』
「覚えといたほうが便利だね。一応、スマホ使えればいつでも確認できるけど」
千歳がインターネットやデジタルガジェットの学習に積極的なのはありがたい。やらない人は絶対にやろうとしないからな……。
無事に千歳のLINEが完了した。千歳ははしゃいだ。
『これで星野さんといつでも話せる!』
「星野さんを友だち追加したらね。いつでもLINE送ると星野さんも返事が大変だから、ほどほどにしな」
千歳は口をとがらせた。
『スマホで文字打つのまだよくわからないから、まだあんまり出来ない』
「あ、そうか」
俺は普段息をするように使ってるから意識してないけど、スマホの文字打ち込みはタブレットとまた違うしな。ていうか、千歳はタブレットでも長文打ち込めないしな。
『お前に送るので練習させろ。友だち追加ってどうやるんだ?』
そうだよ、まず俺と繋がらなきゃだよ。もしもの時の連絡手段としてスマホ欲しかったんだから。
「えーと、俺がQRコード出すから、それ読み込んで」
俺はポケットに入れていた自分のスマホを取り出して、操作した。
『これにワシのスマホかざすだけでいいのか?』
「カメラ起動してからね」
そんなこんなで、俺と千歳はLINEで無事に繋がった。
「これで俺にLINE送れるし、ライン通話もできるから。よく分からなかったら、今教えた俺の電話番号に電話すればいいから」
『わかった! 説明書よく読んで勉強する!』
スマホの中の取扱説明書の見方を教えたら、千歳は真剣にスマホの画面を見つつ、ベランダに出て写真を撮ったり、お昼ごはんの写真を撮ったりしていた。こんなに積極的に触るなら、馴染むのも早いだろう。俺は俺で仕事に集中することにした。
お昼の時間までになんとか仕事を一段落させられて、一息ついた時に、俺のスマホが震えた。LINEが来てる。
千歳(女子中学生のすがた)がわくわくしながら台所から顔を出した。
『届いたか? 今頑張って送ったから見ろ!』
「あ、千歳のか。今見るよ」
千歳からの初のLINEは、今日のメニューの説明だった。
『昼 鳥チャーシュー乗せ野菜ラーメン
おやつ ノンオイルきな粉クッキー
夜 豚丼 きゅうりとシソの浅漬け 小松菜にんにく炒め 味噌汁』
「わー! すごい! ちゃんと変換も改行も使えてるじゃん!」
きちんとした文章を入力できている。
『飯もうまそうだろ?』
「うん、おいしそう」
『ラーメン、すぐできるからな!』
千歳はニコニコしながら台所に引っ込んだ。
お昼は、ラーメンをすすりながら、千歳のスマホ相談を受け付けた。
『撮った写真、Twitterに乗せたいんだけど、個人情報っていうの入ってないから大丈夫だよな?』
「料理とかなら全然大丈夫だよ」
『えっとな、ベランダに来たすずめの写真乗せたいんだ、すごく近くで撮れたんだ』
あー、部屋からの景色はちょっと怖いな、個人特定的な意味で。
「うーん、雀のところだけトリミングしようか?」
『トリミングってなんだ?』
千歳(幼児のすがた)はきょとんとした。あ、トリミングって昭和にはなかった言葉か。
「画像を好きに切り取ること。食べたら、やり方教えるよ」
ラーメンを食べ終わってから、俺は千歳の隣に行き、操作方法を説明した。千歳はちゃんとすずめの写真をトリミングできた。
『いい感じになった! これ、Twitterのアイコンってやつにしたい!』
「いいんじゃない? やり方教えようか?」
『今やってみるから、わかんない所教えてくれ!』
千歳の目はキラキラしている。
スマホ、連絡手段としてほしかったけど、千歳が楽しめるならそれはそれで嬉しい。でも、千歳にはそのうち、インターネットの歩き方もちゃんと教えないとな……。
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