いらないものは減らしたい
「薬、減らしましょうか。少なくとも、グランダキシンはもういいと思いますよ」
行きつけの病院で主治医にそう言われて、俺はあごが外れそうになった。
自律神経失調症と過敏性腸症候群を見てもらってる病院に来ている。「新型コロナの扱いが変わったので、そんなに電話診療は受け付けられない」と言われて、千歳(女子中学生のすがた)と一緒に病院に行って、診察室で最近の調子を説明したら、さっきのセリフを言われたのだ。
俺はものすごくびっくりして、千歳も『ええっ』と目をまん丸くしていた。
「え、え、減らしていいんですか!?」
「微熱なくなってしばらく経ちますし、睡眠も改善してますし。いらない薬を漫然と飲み続けるのは、よくないですよ」
医師は、俺をたしなめるように言った。
まあ、それはそう……。どんな薬も副作用あるし……。メリットがないなら、副作用しかなくなるし……。
それに、薬減るなら費用が減るし、薬飲む手間が減るし、いいこと尽くめなんだよな。
『薬なくていいのか!? こいつもう元気なのか!?』
千歳が、椅子から立ち上がりかける勢いで医師に聞いた。
「いきなり全部なくすわけじゃないですけどね、自律神経失調症の薬はもういいと思います。過敏性腸症候群の、ポリフルってお薬と附子理中湯はまだ出しますが、今後の調子次第では、これも少しずつ減らしていいと思います」
『そ、そっか。でも、よくなってるんだ』
「よくなってますよ」
医師は、マスク越しでもわかる笑顔になった。
そう言う訳で、俺は薬が減り、多少ながら医療費が減る計算になった。
『よかったなあお前、医者が言うくらい良くなったんだなあ』
会計を待ってる間、千歳がにこにこしながら言う。
「よかったんだけど、俺、びっくりのほうがすごくて、まだ喜ぶ感じになれないな……」
千歳が来るまで、はっきり言って、ずっと体調が悪かった。自律神経失調症も過敏性腸症候群も、なかなか治らない病気だし、薬で誤魔化しながら生きてくしかないんだと思ってた。一人ぼっちで。
それが、「よくなってますよ、薬減らしますよ」と言われる日がくるなんて。
医師には、「薬の調整は対面じゃないと難しいので、今後もなるべく来てくださいね」と言われたので、少し大変だけど、全体的にはすごく喜ばしい。
そう、体調、明らかによくなってる。微熱は収まったし、悪夢は見なくなったし、寝込まなくなったし、多少の低気圧でも仕事できるようになったし……。
病人から、一般人を名乗れる程度になった気がする。いや、まだ飲まなきゃいけない薬あるけど。理想体重より10kg痩せてるガリだけど。
なんでこんなによくなったかって言えば、それはすべて千歳のおかげで。
家事炊事してくれてすごく助かってる。いつも俺の体を考えていろいろしてくれて、本当にありがたい。でも、それだけじゃなくて、なんていうか、いつも割と機嫌がよくて、元気で明るい存在が、何くれとなく俺にかまってくれて、毎日一緒に食事できるのが、すごく嬉しい。
千歳の望む、俺が結婚して子供を作るっていうのはなかなか難しいけど、健康にしてもらった分、頑張って稼いで、千歳の好きなものいつでも奢るくらいはできるようになりたい。
千歳がいなかったら、今の俺はなかった。
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