事情はちゃんと聞いときたい 中
金谷さん(あかりさん)は、慌てたように付け加えた。
「その、和泉さまには重大な話には聞こえないかもしれないんですけれど。一度和泉さまにはお話しておきたかったことが多少あってですね」
なんだろう、俺が知っておけば千歳のためになることだったらいくらでも聞くけど。
「何でもお聞きします、お聞かせください」
「大体ふたつありまして。ひとつは、私どもが和泉さまを和泉「さま」と呼んで、千歳さんのことを千歳「さん」と呼ぶ理由です」
「はい?」
あ、そういえばそうだったな。意識的に呼び分けてたんだ? 理由があって?
確かに、この人たちにとっては俺より千歳のほうが重要なわけで、千歳が「さま」付け、俺が「さん」付けのほうが違和感がない。理由があって逆にしてる?
「言われて気づきましたが、そういえば逆のほうがおかしくないですね」
牡丹さんが口を開く。
「決して、千歳さんを軽んじているわけではないんです。私ども、神道なので、亡くなった方はすべて御霊……神様として扱います。ですが、どれくらい格が高い神……強い神になるかというのは、周りの扱いでも変わってきます。例外もありますが、基本的に、敬えば敬うほど強い神になります。ただ、強い神だからといってご利益がある神になるとは限らないんです」
「はい」
まあ、祟り神とかいるしな。
「仏教では亡くなった方は仏様ですが、敬うほど強い存在になるのは同じです。それで……千歳さんは今の段階で非常に強い存在なので、皆、これ以上強くならないでほしいと思っています。ご利益がある存在になるとは限らないので」
なるほど、なんとなく話がわかってきた。
「えーと、つまり、千歳を「さま」つきで呼ぶと、今より強くなる可能性があって、強くなると厄介ということでしょうか?」
金谷家の面々は全員うなずいた。司さんが言う。
「ご明察です。千歳さんは、以前と違って名前がついたので、対象を明確化しやすくなっていて、そうすると我々の千歳さんへの扱いがこれまでより影響しやすくなっています。我々は千歳さんを決して軽んじるわけではないのですが、必要以上に敬うことも避けたいのです。なので、私ども……「そういう」業界の者で、考えなしの人間や情報が遅い人間以外は、千歳さんを「さん」付けで呼ぶと思います」
「はあ、なるほど……」
まあ、ものすごく重大なことじゃないけど、俺は知っておいた方がいいことではあるな。別に千歳が知っても怒らないと思うけど、金谷さんたちが千歳本人に面と向かって言いづらいのもわかる。
「教えてくださってありがとうございます。ひとつ目は、千歳の呼び方に関することと言う理解でよろしいでしょうか?」
「はい、ひとつ目はその話です」
司さんと牡丹さんがうなずく。
「では、ふたつ目はどういうことでしょうか?」
金谷さん(あかりさん)が口を開いた。
「あの、それは私が一番詳しいので私からお話します。と言っても、ふたつ目はかなりいろいろあって、ちょっとまとまらないところもあるんですけど……主に、朝霧家と、私の師匠で上司の、朝霧緑についてです」
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