事情はちゃんと聞いときたい 上

「うちの祖父、異様に面食いなんです。男女問わず」

「め、面食い?」

喫茶店にて司さんに言われて、俺は面食らった。俺の対面と斜めには安吉さんを除く金谷家の面々が勢ぞろいしている。茂さんがあわててフォローするように口を開いた。

「いえその、和泉さまの容姿がどうこうではなくて、ただ、昨日の千歳さんが美少女だったって意味です!」

「いや、その、自分の容姿の世間的な評価くらいわかるからいいですけど」

絶望するほどダメではないけど、希望を持つほどかっこよくはない。女の人に使う言葉だけど、十人並みっていうのが一番しっくりくるだろうな。

「えっと……話をまとめると、安吉さんは昨日の千歳が可愛かったからデレデレで、その分私には塩対応だったってことでしょうか?」

金谷家の面々は全員深くうなずき、牡丹さんが言った。

「一言でいうと、そうです……本当に申し訳ありません」

牡丹さんは詳しく説明してくれた。安吉さんは昔から顔のいい相手には甘い対応で、無駄に便宜を図っていたそうだ。それでも昔は容姿が劣る相手に妙な対応はしなかったけれど、年を取ってから顔が好みじゃない相手への対応がひどくなり、無視や塩対応になってきたということ。

「母が亡くなってからひどくなって。残り少ない人生だから好きにさせろっていうんですけど、ものすごく健康だからあと二、三十年生きると思うんですよ……」

「ま、まあ健康なのはいいことですよ……」

それ以外フォローのしようがない。牡丹さんはため息をついた。

「金谷家はこの業界の事務的なサポートに回ってきた家なんですけど、父は同世代の人達に事務的な面で恩を売りまくっていて、父がへそ曲げたらそちらにも影響するので、こちらも父が決定的に機嫌を損ねるようなことが出来なくて……あんなことをするなら、そもそも和泉様がいる席に出さなければよかったんですが、機嫌が悪くなるのでできなくて……」

「た、大変ですね……」

どの家族にも、いろいろあるんだな……。

金谷さん(あかりさん)がむくれながら言った。

「狭山さんの顔にも文句つけるんですようちの祖父! あんなに条件のいい人いないのに! 私が料理できないって言ったら「僕は家仕事だし、僕が家事メインでやるつもりですよ」って、五葷抜きの料理とか調べたり作ったりしてくれるのに!」

「そ、そうなんですか」

言っちゃ悪いけど、狭山さんも十人並みの顔だし、髪型や眼鏡やファッションがちょっともっさりしてるので、面食いには受けが悪いだろうな。

まあ、俺が安吉さんに受けが悪くても、千歳に優しくしてくれるならいいや。千歳が可愛くしてなきゃならないけど。

「えーと、そういうことでしたら、千歳には今後安吉さんに会う時はなるべく可愛い女の子になるように言っときますよ。顔が可愛いっていうのはあんまり意識してなさそうですけど、若い女の子になれば怖がられなくて親しまれやすいって言ってあの格好だったので、見た目を選ぶのはしてくれると思います」

牡丹さんが言った。

「その、父は男女問わず面食いなので、いわゆるイケメンでもあの対応になります」

「そ、そうなんですか……」

ある意味、筋金入りだな……。一応千歳にもちゃんと伝えとくか、イケメンでもいいよって。

「その、それよりも、千歳は当たり前に知ってるけど私が知らないことを教えていただけると聞いて、そちらのほうが気になるのですが」

俺は話を変えた。安吉さんに無視された理由は納得できたので、俺が知らないけど知っておいたほうがいい話があるなら、そちらをちゃんと聞いておきたい。

金谷さん(あかりさん)と司さんの目が少し泳いだ。牡丹さん夫婦が子どもたちの方を気づかわしげに見た。

金谷さんが口を開いた。

「あの、千歳さんがいる場だったのでああ言いましたけど……その、千歳さんには知られたくないけれど和泉さまに知っておいてほしいことがそれなりにありまして、そういうことを聞いておいていただきたいです」




―――――――――――――――――――

金谷安吉

美形なら老若男女問わず好みの七十歳。事務能力があまりにも高く、彼のサポートなしではやっていけない家が多かったので心霊に関わる業界の同世代は彼に頭が上がらない。心霊に関わる業界は、若年世代に千歳静観派が多く、老年世代に千歳打倒派が多かったが、金谷安吉がどちらかと言えば静観派だったのが妥当派の説得に大いに寄与している。

ここまでしっかり描写していないが、金谷あかりは割と可愛いので、安吉はあかりの顔でイケメンの婿を捕まえることを期待していた。

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