閑話 マイナポイントと中古スマホ
「千歳、ごめん、謝らないといけないことがある」
昼飯の後テーブルでお茶を飲んでいたら、祟ってる奴から真剣な顔で言われて、ワシはびっくりした。
『ど、どうした!? なんだ!?』
何かあったのか? でも、金がないとか仕事がないから金貸してくれって感じじゃなさそうだぞ?
「いや、その……前さ、マイナンバーカードに口座と保険証登録したら、マイナポイント二万円分もらえるって言ったじゃん」
『う、うん、言ってたけど』
そういえば、その金でこいつになにか一個好きなもの買ってやるって約束したな。
祟ってる奴は、心底申し訳無さそうな顔で言った。
「そのマイナポイントなんだけど……俺すっかり忘れてたんだけど、今年の二月までにマイナンバーカード申し込んだ人じゃないともらえなくてさ……」
『え、そういうもんなのか?』
じゃ、二万円はなし?
「期間限定なんだよね。戸籍が来るのが予想以上に遅くてさ、ごめん、期待させちゃって」
祟ってる奴はしょんぼりした顔で頭を下げた。
『いや、戸籍が遅かったのは役所の仕事が遅いせいだし……。え、悪い話ってそれだけか?』
「うん、マイナポイントのことだけ」
祟ってる奴は頷いた。
『じゃ、仕事ないとか金がないとか、そういうのは全然ないのか?』
「え、ないよ? 仕事は三ヶ月先までびっしりだし、それ以降も継続の取引先たくさんあるし。まあ稼ぎがいいかって言うと、たいしてよくないけどさ」
『ワシが金貸してやるほどじゃないか?』
「全然大丈夫だよ!」
そう言われて、ワシは胸をなでおろした。
『なんだ、深刻な顔で怖いこと言い出すからびっくりした』
「ごめん、変な心配させた」
祟ってる奴はまた頭を下げた。
「でさ、期待させちゃって悪いから、こないだのを代わりにしてくれないかと思ってさ」
『こないだの?』
話が見えない。ワシは首を傾げた。
祟ってる奴は、席を立って仕事机に行き、引き出しにしているカラーボックスを開けて何か取り出した。ボロい封筒には見覚えがあった。
「これ。こないだ千歳が見つけてくれた二万円。代わりにもらってくれないかな」
目の前に封筒を置かれて、ワシは二度びっくりした。
『お前のだろ!?』
「でもさ、千歳が見つけてくれなきゃ死に金だったし。マイナポイント楽しみにしてたみたいだからさ、代わりに使って」
『お前気前良すぎないか!?』
確かにマイナポイントの話を聞いたときは結構ウキウキしてたけど! 別に強請りたかったわけじゃないぞ!
でも、臨時収入の二万円……いや、こいつに貯金させたほうがこいつが助かるし……でもここまで言ってからくれるんじゃ、返しても受け取らなさそうだし……うーん、こいつの得になることでワシにも特になること、なんかないかな……あ、そうだ。
『えっと、そうだ、じゃあ、こないだスマホ買おうって話になっただろ』
「うん、いくつか目星つけてある」
『じゃあさ、この二万はスマホ代だ! お前も出してくれるって言ったスマホ代だ! 二万円より高い分はワシが出す!』
こいつワシにスマホ持たせたがってたし、ワシもタブレットのカメラよりいい料理写真撮りたいし。多分こいつのためにもワシのためにもなる。
割といい案だったみたいで、祟ってる奴はちょっと笑った。
「じゃ、そうしようか?」
『三万くらいだろ? あと一万は出す』
「んー、千歳の好み次第だけど、三万いかないのもあるからさ、目星つけてるの一緒に見ない? 二万円より高い分だけ払ってくれればいいよ、パソコンで見よう」
祟ってる奴は立ち上がって、仕事机からノートパソコンを持ってきてワシの隣に座った。
「カメラ機能重視、メモリも千歳が使う分には問題ないの選んでるんだけど、中古だから、見た目きれいだと高くて、逆に傷を気にしないならぐっと安くなるんだよね」
『んー、ちゃんと動くなら、多少傷あってもいい』
「じゃあ、これとか、これかな」
画面にいろんなスマホが映されて、ワシが読んでもよくわからないスペックとか言うのを祟ってる奴が丁寧に解説してくれる。たくさん調べてくれたのかなあ、いい奴だなあ。
あ、そう言えば、こいつにスーパーで何でもひとつ好きなもの買ってやるって言ってたの忘れてた。でも、それくらいなら、ワシの貯金でやってやるか。
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