閑話 財政状況
一度ちゃんと説明しておくべきだと思ったので、確定申告のデータを元にグラフを作って、パソコンを食卓に置いて千歳に隣に座ってもらい、俺の稼ぎ具合を説明している。
「まあこんな感じで、千歳が来てから長い時間仕事できるようになったのと、金谷さんからのお金もあって右肩上がりだよ。元がしょぼいから、上がってもそんなじゃないけど」
千歳(黒い一反木綿のすがた)は、ぱちぱち拍手した。
『生活はできる感じだな、お前の歳ならもっと欲しいけど』
「まあそれはね……フリーランスって保障全然ないから、それを考えても、もっと稼ぐべきなんだよな」
一説には、会社勤めの手取りの倍稼いでトントンだと言われている。それにはまだまだだ。
「ありがたいことに、仕事は途切れないでもらえてるから。まずは、もらえてる仕事をしっかりしたい。実績がある方が、仕事の単価アップの交渉もしやすいし」
萌木さんのところを筆頭に、複数の取引先と直接契約ができている。クラウドソーシングサイト経由の他の仕事を全部直接契約にできたら手数料分がまるまる稼ぎに入れられるけど、規約的になかなか難しい。
『今お前、どんな仕事してるんだ?』
千歳はパソコンの画面から俺の顔に視線を移して聞いてきた。
「いろいろだけど。化粧品の広告サイトの宣伝文、コラム、食品やサプリの広告サイト、あと最近は漢方とか薬膳が流行りだから、その辺の記事が割と増えてる」
Twitterで父親を炎上させて、役に立たない知名度がアップしてしまったと思った。けれど、あの炎上経由でまともな漢方薬局や薬膳系の食品メーカーからの仕事が来たので、本当にびっくりした。俺のこれまでの仕事やSNSの動きを見て話を持ってきてくれたようなので、この縁は大切にしなければならない。
『ふーん、男なのに化粧品の仕事なのかあ』
千歳的には、化粧品が気になったようだ。
「俺の経歴的にそうなりがちなんだよね、俺が前いた会社、化粧品の有効成分作って売ってるところだったから」
『あのブラック企業か?』
俺は苦笑した。
「その会社、サプリにも進出しようとしてたんだけどね。その仕事をパソコンもネットもできない部長とその下の俺一人に押し付ければ、そりゃブラックにもなるよね」
『仕事できない上司だったのか』
「うーん、パソコンもネットもない時代なら、わりとできた人なのかもしれないけど」
武勇伝だけは死ぬほど聞かされた。しかし残念ながら、今はIT社会である。
『まあ、今ある仕事をしっかりやるっていうのはいいと思うぞ。がんばれ』
千歳にぽんぽんと肩をたたかれて、俺は笑った。
「うん、がんばる。長い時間働けるようになったし」
千歳のおかげで、寝込まなくなったし、運動もするようになった。体力はないながら、病人から普通人になってきてる感覚がある。
「ちゃんと話してなかったけどさ、こないだの人間ドック、体重が健康な頃に戻ってたし、血圧も低血圧じゃなくなってたんだ。あと、最近お腹の調子がいい」
附子理中湯が緩やかに効いてきたわけだが、普段の食事が気を使った内容でなければ、こんなに良くならなかったと思う。
『え、そうなのか!』
千歳の顔がぱっと明るくなった。
『じゃ、多分人間ドックの結果、大丈夫だな! バリバリ稼げよ、飯ちゃんと作ってやるからな! そんで、早く結婚して子孫繋げよ!』
「か、稼ぐのは頑張るけど、結婚とかは長い目で見てください……」
千歳との生活が居心地良すぎて、ゼロから彼女作って関係深めてプロポーズして、子供作って育てるっていうのが全然現実味を持ってシミュレーションできないんだよな。それ以前に経済力がないけど。
まあ、当面は経済力をつけよう。でも人生をそれだけにするんじゃなく、たまには千歳においしいもの買ってあげたり、おいしいもの一緒に食べたりしたいな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます