お前の性癖調べたい 下

一瞬何を言われたのか分からなくて、俺は目を瞬いた。

「は? え? な、何いきなり?」

『だって! お前エロ本一冊も持ってないじゃないか! 家じゅうひっくり返して探したのに!!』

千歳(子供のすがた)は俺に飛びついてきた。

「なんでそんなもん探したの!?」

『お前の好みの女の格好になって、女抱く練習させてやろうと思ったんだ!』

そう言えば千歳が来たばっかりの時、そんなこと言いながらおっぱい見せられたな。あんまりびっくりしたんで詳細覚えてないけど。でも一瞬ながら、バッチリ見てしまった。

「まだ諦めてなかったの!?」

『ちっとも諦めてない!』

千歳はぼんと音を立てて女子大生の格好になり、シャツをばっとめくり上げた。

『ほら! 前より少し大きいだろ! どうだ!』

「ちょ、ま、抱きつかないで!」

今回もバッチリ見てしまった。サイズとしては普通だけど、抱きつかれるとふわふわぷるぷるがぎゅっと密着して、正気を保てなくなる。ほのかながら、すごくいい匂いするし!

どうしよう、こんなに積極的なら絶対最後までさせてくれるだろうけど、とんだところで童貞卒業できそうだけど、でも、でも。

千歳のことすごく大事だ、ずっといてくれたらと思う、でも今すでに、すごく好感をもってるこんな相手と、しかもかなり可愛い女の子の姿になれる相手とそんなことしてしまったら、もう千歳しか見られなくなって、結婚相手新たに探すとか俺もう無理だよ!

「お、落ち着いて、千歳、ちょっと待って」

腰が引けてるのをごまかせてることを願いつつ、俺はなんとか千歳を引き剥がした。

「あの、俺は人並みに女の子興味あるけど、それと千歳とそういうことをするのはまた別っていうか、その、千歳で練習はできないよ!」

『お前の好みの女になれるぞ?』

「そういう問題じゃなくて!」

『お前の好きなプレイも付き合ってやるぞ?』

「……い、いや、それでもダメ」

『今、迷ったな?』

千歳はにやりと笑った。

「頼むから隠して、それと落ち着いて俺の話を聞いて」

『なんだよ、もう』

千歳は口をとがらせたが、大人しく胸をシャツにしまった。俺は安堵のため息をついた。

「あのね、俺は人並みに女の子興味あるし、エロ本がないのは、そういうのは全部ネットで済ませてるから」

千歳が来て唯一困ってることとして、そういうことに使う時間が取りにくいことがあるくらいだ。

『え、インターネットってそういうのもできるのか?』

千歳は目をぱちくりした。

「画像も動画もわんさかあるよ、ネットはエロで発展したと言ってもいい」

『へえええ……』

千歳は普通に感心したようだ。

『じゃあ、お前のパソコン見せろ』

「絶対に嫌だ」

俺はきっぱり断った。千歳は眉を吊り上げた。

『なんでだよ!』

「そういうのはあんまり人に見せるもんじゃないんだよ! 少なくとも俺は見せたくないの!」

『そんなにマニアックな好みなのか?』

ムチムチ好きは普通だろ、いやそういう話ではなく!

「その辺は黙秘する。ていうか、マニアックじゃなくても見せない!」

『そんなにやりたくないのか? 気負うなよ、童貞じゃあるまいし』

「…………」

ど真ん中童貞である。言葉に詰まったら、千歳は何やら察したようだ。

『え、童貞なのか?』

「あっやべ、黙秘! 黙秘する!」

『なんでだよ! 美人の女社長にプロポーズされたくせに!』

「富貴さんとはそういうんじゃないから! ていうか……」

ここまでで、千歳の方に全く性行為に拒否感とか恥じらいがないのは何? いくら練習させたいって言っても、もうちょっとこう、何かあるもんじゃないの?

「あのさ、千歳、すぐ丸出しにするけど、恥ずかしいとかないの?」

『別に、ワシの中にいる奴らの格好だから恥ずかしくないぞ?』

「そんなのってあり?」

裏返して考えると、じゃあ、千歳自身の格好なら恥ずかしいのか?

「じゃあ、前ちょっとなってた、千歳の核の人だと恥ずかしい?」

千歳は飛び上がるほど驚いて、自分を抱きしめるようにした。

『あれでやるのは嫌だ! 絶対にならないからな!』

「いや、してほしいわけじゃないよ、ごめん!」

俺はあわてて謝った。

「まあ、その、俺は千歳とそういう練習とかはしたくないよ、千歳もさ、そういうことは好きな人とだけやりな」

『好きな人とだけって、童貞の発想だな』

鼻を鳴らす千歳。そりゃ、中に花魁とか陰間茶屋の中の人がいればそう言う発想になるのかもしれないけど。

「その、千歳が好きな人とそう言う事したいなら、俺は協力するしさ」

『お前に練習させたいんだよ! 別に好きな人いないし』

「いや、好きな人が出来たらって話だよ」

そこまで言って、俺はふと疑問に思うことがあった。

「あのさ、千歳は自分のこと、男とも女とも思ってないみたいじゃん」

『ん? うん、どっちなのか聞かれたら、困る』

「その……恋愛的な意味で好きになるのは、男と女、どっち? もしかして、両方?」

ちょっと突っ込んだ質問なので、怒られるかと思ったけど、予想に反して、千歳は首をひねって腕組みした。

『……わかんない』

「性別に関わらないってこと?」

『うーん……そういう意味で好きになるっていうのが、なったことないしよくわからん』

「あ、そうなんだ?」

『どっちにもムラムラしたことない。頑張れば、どっちともできると思うけど』

「頑張ってすることじゃなくない?」

したい気持ちが先にくるものじゃない?

千歳は眉を寄せながら言葉を続けた。

『うーん……その……ワシ、中にたくさんいるし、人が何にムラムラするかはわかるけど、自分がムラムラするかって言うと、別にしない』

「そうなんだ……」

千歳は、元々そういう人なのか? それとも、中学生くらいまで閉じ込められて育ったからその辺疎いのか?

中学生男子なら何もなくても猿みたいになるけど、中学生女子ならその辺疎くても不自然じゃないな……。ていうか、俺のところに来て一年くらい経つとはいえ、中学生くらいで死んでそのまま祠に閉じ込められた子と性行為って倫理的にどうなんだ。アウトだろ、いろいろ。

「その、まあ、セックスってさ、ムラムラしないのに無理にするもんじゃないと思うよ。俺が経験不足なのは事実だけど、無理しないとセックスできない千歳とはしたくないよ」

俺は、なんとか千歳としない方向に話を持っていった。

『お固い奴』

千歳はふくれた。

『お前の反応からすると、この女の格好でも結構行けそうだけどな』

「行かないで、お願いします」

『今日、風呂の時、この女の裸で背中流してやろうか?』

「勘弁してください」

俺は土下座する勢いで断った。

そんな恋人同士みたいなことされたら、もう千歳以外の人と一緒に暮らして子供作るとかできなくなっちゃうよ、俺。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る