お前の性癖調べたい 上
※作者注:少し前の閑話「えっちな本とチョコミント」を踏まえてお読みください
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『大丈夫か? 途中で腹減って倒れないか?』
人間ドックの朝である。バリウムを飲むために朝ごはん抜きなので、怨霊(黒い一反木綿のすがた)(命名:千歳)に心配された。
「まあ、水は飲んでいいって言われてるし、大丈夫だよ。別に千歳、俺に気にしないで朝ごはん食べな」
『作るのめんどくさい、お前に食わせるんでもないのに』
千歳は鼻を鳴らした。
「じゃあ、いいけど」
『病院まで、結構かかるんだろ? 付き添ってやろうか?』
「うーん、検査の間中ずっと待たせちゃうし、バス乗っていけばそんなに歩かないし、いいよ」
俺は首を横に振った。
『じゃ、家で待ってる』
「うん、お昼には帰ってこれるからさ、お昼ごはんよろしく」
『よし、朝食えない分、たくさん作っといてやるからな』
千歳は胸を張った。
「ありがとう、楽しみにしてる」
『まあ、量多いだけでいつもと変わんないけどな。あ、でもそう言えば、お前半日くらい留守か……じゃあ、家探しとか……』
「家探し?」
俺は首を傾げた。
『あ、ええと、いや、その、お前のいない間、家ひっくり返して大掃除しようかと思ってな』
「あ、そう? ありがとう、いろいろ」
そういう訳で、俺は白湯を一杯飲んでから身繕いをして、てくてく歩いてバスに乗って予約した病院に行き、身体検査されたり、レントゲンを取られたり、バリウム飲んでぐるぐる回されたりした。詳細な検査結果は後日もらえるそうだが、体重が学生の頃に戻ってたり(ブラック企業で落ちる一方だった)、100を切ってた血圧が102になったりしてたので、結構健康になってるのではないかと思う。何もかも千歳のおかげだ。
人間ドックが終わって、かなり空腹だったが、千歳がお昼を作ってくれているのでまっすぐ帰った。
「ただいま、お腹すいた、もうお昼食べられる?」
『お、おう、お帰り、今仕上げするから、手とか洗ってこい』
千歳(女子中学生のすがた)が和室から出てきて、なんか目を泳がせながら言った。どうした?
洗面所で手洗いうがいをして、部屋着に着替えて戻ると、千歳が食卓に親子丼と煮込みうどんとサラダを並べてくれていた。
「わー、いっぱい!」
『多いけど、食えるよな?』
「食べられる、おいしそう、いただきます」
食卓について、今日最初の食事に舌鼓を打っていると、千歳(子供のすがた)が箸を置いて『あのな』とボロい封筒を出してきた。
『部屋整理してたらさ、スーツのポケットに二万円入ってたぞ』
「え!? 二万円!?」
思わず箸を置いて、封筒を手に取る。見覚えのある封筒だ。そういえば、退職直前に職場近くのコンビニでお金下ろして、でもその直後に体調崩して、いろいろ放っておきっぱなしだったような。
「うわー、見つけてくれてありがとう、完全に忘れてた」
『まあ、お前のだし、好きに使え』
「貯金すると思う」
『つまんない奴だな……』
千歳は鼻を鳴らした。さっき目が泳いでたのって、これか?
食べ終わって、食器を洗って、なたまめ茶を飲んでいたら、千歳が聞いてきた。
『なあ、今日お前、休みの日にするんだよな?』
「うん、もう今日は休む」
仕事の調整ができたので、今日の午後は休みにした。明日からまた頑張らないと仕事の納期に間に合わないけど、英気を養うのも大事ということにしよう。
『あの……それならな……折り入って話というか……聞きたいことがあるんだけどな?』
千歳は、やたら真剣な顔になって言った。小さい子の顔で深刻な声を出されると、なんかドキッとするな。
「ん? 何? どうした?」
なにか困ったことでもあるのかと思って、俺は思わず居住まいを正したが、千歳が口に出したのは思ってもみないことだった。
『お前……その、もしかして……女にまったく興味ないのか?』
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