番外編 拡散の結果
それを見て、続くツイートを読んで、ワシは本当にびっくりした。
『おい! これ、お前のツイッターのアカウントか!?』
ワシは、祟ってる奴が仕事中なのも忘れてタブレットを見せに行った。祟ってる奴は嫌な顔もせず、「ああ、うん」とうなずいた。
「俺のだよ。そのツイート、狭山さんにRT頼んだんだ」
その言葉の通りで、狭山先生のアカウントがRTしたので、こいつのツイートが見られたのだった。
『これ……これ、お前の父親だよな、本当か!?』
祟ってる奴の父親が、コロナのワクチンに反対して商売してるくせに、自分はコロナワクチンを打っていることの告発だった。それ以外にも、インスタグラムってところでやってることが、ほぼ全て他の人のパクリなんだって。
祟ってる奴は苦笑した。
「本当のことだから、そうやってまとめて、狭山さんに拡散頼んだんだよ。狭山さんいい人だよね、あんまり自分のアカウントにそぐわない話題なのに、RTしてくれてさ」
『…………』
ワシは、なんと言っていいか分からなくて、立ち尽くしてしまった。こいつの父親がパクった中に、こいつの仕事もあったそうだ。それで、怒ったのかな、こいつ? あんまり怒るところが想像できないけど、傍から見てそう見えないだけで、本当はすごく怒ったのかな?
狭山先生は、それからもこいつの告発に関するツイートをたびたびRTして、こいつのアカウント(フォローした)もいろいろRTして、それで、ワシは祟ってる奴の告発が結構な激震をもたらしてることを知った。
祟ってる奴の父親に懐いてた奴らはすごく混乱していて、「何を信じていいかわからない!」となったり、「これは和泉先生を貶める陰謀!」となったりしていた。それ以上に、今回の件で初めて事実を知った人たちが、祟ってる奴の父親を非難したり、祟ってる奴の母親も面白おかしく揶揄したり、母親の方のツイッターやインスタグラムに見つけた矛盾をあげつらったりして、大騒ぎしていた。
ツイッターのツイートをまとめるトゥギャッターと言うサイトに、そういう反応がまとめられていて、ワシは今回の件で初めて、ツイートがそういうサイトでまとめられることを知った。
三日くらい経った時、祟ってる奴のアカウントが発言した。
「皆様、拡散ありがとうございます。人の噂は七十五日、ネットの噂は七十五時間と言ったところですが、大体七十五時間くらい話題にしていただいて、とてもありがたく思っています」
「私が小学校の頃から、両親はこうでした。私は小学校の頃、母親の望むように小さな狂信的アロマセラピストとして動いて、勧誘をしていました。そして、友だちのお母さんを母親の信者にしてしまい、友達の家庭を壊しました」
「今、大人の私は、責任を取る行動をすべきだと思いました。と言っても、こんなことしかできませんでしたが」
「両親の信者にされた方々には、この事実は受け入れがたいでしょう。ただ、この事実を広めることで、今後、両親が新たな信者を獲得することは大変になったと思います」
「私が持っている情報は全てwixのまとめサイトにあげたとおりです。それ以上のものは、逆さに振っても出てきません。これ以上のことは、今回の事実を知った人たちの監視の目に任せたいと思います」
「両親を力ずくでも止められなかった私に、幸せになる資格は無いのかもしれませんが、自分の費やせるエネルギーに限りがある以上、そのエネルギーは私の祖母や大事な人のために使わせてほしいです」
「そういうわけで、お問い合わせをいろいろ頂いておりますが、よほどのことでない限りお答えできません。申し訳ありません」
それ以降、祟ってるやつのアカウントは、両親の件に関するツイートをしなかった。
祟ってる奴は、家では何もなかったみたいにずっと仕事していて、全然両親の件には触れなかった。
「千歳、あのさ、おばあちゃんと今度LINE面会できるんだけどさ、千歳にもこないだの恰好で、少し面会に出てもらってもいい?」
『あ、うん』
ワシはうなずいた。
……そういえば、なんか、「祖母と大事な人のためにエネルギーを使いたい」とか言ってたな、こいつ。あれ? 大事な人ってお祖母さんのことだと思ってたけど……もしかして、他にも大事な人がいるのか? 誰だ?
こいつに彼女なんていないし、友達もいないし……仕事関連以外で人と話してるのほとんど見ないし……誰だろう?
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