あいつを絶対助けたい
早くあの悪霊の体がいそうな住所に行きたいけど、方角がわからない。唯一、その住所がわかるのは運転手の狭山先生だ。ワシは車の後ろの席から先生を急かした。
『先生、早く、早く連れてってくれ!』
「い、急いでます! でも法定速度っていうものがあるので……!」
言葉通り、車はかなり速度を出している。でも、もっと早くしてほしい。ジリジリしながら待って、ワシが方角だけ教わって車から出て飛んでいったほうが早いんじゃないかと思った時、感知した。あの悪霊の気配だ。
『いた! 近くに出た! もうわかる、ワシ飛んでく! 先生、車から出してくれ!』
「え!?」
金谷も、悪霊の気配に気づいたらしくて言った。
「今、いきなり出てきました! ビンゴかもしれません!」
「と、とりあえず車停めます!」
車は悲鳴のようなブレーキ音を立てて急停車し、ワシはすぐに車のドアを開けて外に飛び出た。
ごつい男の姿から、飛びやすくて、いろいろやりやすい黒い姿に変わる。
『ワシ、悪霊のところに行く! 先生たちは教わった住所の、悪霊の体の方なんとかしてくれ!』
ワシはすぐに空へ飛び上がり、悪霊の気配のする方へ一目散に飛んでいった。
悪霊を捕まえて、あいつを助けなきゃ。助けなきゃ。
あいつがあんなこと考えてるなんて思わなかった、ずいぶん長くそばにいたのに、なんにも気づかなかった。
あいつはワシが祟ってるんだから、生きるのも死ぬのも全部ワシのだ。ここでいなくなるなんて絶対に許さない。全部、ワシのだ!
悪霊の気配は、車が目指していた方向とそう変わらない。もしかして、教わった住所と同じところに出てきたのか、と思ったとき、目でも悪霊が見えた。
住宅街の一軒家をまるまる抱える、大きくて黒いもの。白く光る眼がふたつ、ぎょろりとワシを見た。ワシは、思わず叫んだ。
『返せ! あいつを返せ! あいつはワシのだ!』
悪霊は、戸惑ったように少し浮き、次の瞬間一目散に飛んで逃げ出した。速い。
『待て! 返せ!』
ワシはそれを追って、全速力で住宅街の空を駆けた。
追いつくまでしばらくかかったが、飛びながらワシの伸ばした手は、悪霊をつかんだ。ワシは悪霊に負けないくらい大きくなって、悪霊を両手で捕まえ、下にあった適当な空き地に思い切り叩きつけた。
悪霊を地面に押さえつけて、つかんだところから悪霊を引きちぎる。引きちぎるごとに、悪霊が融合していた数多の霊が、バラけて外に出ていく。悪霊は少しずつ弱体化していく。
引きちぎった悪霊の中から、倒れた人たちがボロボロと出てきた。目を閉じてぐったりしているが、うめいたり顔をしかめたりしてる。生きてる。
悪霊を引きちぎるごとに、次々と人が出てくる。でも、あいつがいない。どこにもいない。
ワシは、悪霊を引きちぎりながら殴りながら叫んだ。
『出せ! あいつを出せ!』
助けてやりたいのに、あいつを助けてやりたいのに、どうして助けてやれないんだ!
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