おんなじ人は見逃したい
……うめき声が聞こえる。複数。人がたくさんいる……?
目を開ける。体の感触から、何かに巻き付かれて拘束されているのがわかった。ままならない体であたりを見回すと、薄暗いながら、どうやら同じように拘束されている人がたくさんいるようだ。黒い触手たくさんに蓑虫のように拘束され、顔だけ出して吊り下げられた人たちが鈴なりになっている。うめき声はこの人たちだ。
見覚えのある顔をいくつか見つけた。Twitterやインスタのアイコンで見た顔。悪霊に捕まった人たち? 俺も悪霊に捕まって……。
黒く不定形、としか言いようのない空間。ここは、夢の世界?
よくわからないけど、俺も悪霊に苦しい目に遭わされるんだろうか。そうだろうな、恨まれてるだろうしな。この具合だと苦しんだ上に殺されてもおかしくないな……。
「おまえ」
くぐもった声がした。地面から生えたような大きな黒い塊がゆっくりとこちらに近づいてきていた。白く大きい目がふたつ、ぎょろりとこちらを見る。
何かされるのか、痛い目に遭わされるのか、と、俺は思わず身を固くした。
黒い塊は俺を上から下までじっくりと見て、言った。
「おまえ みち おしえなかったやつ」
「……え?」
「おまえの なか みる」
黒い塊は触手のようなものを俺に向かって伸ばした。触手の先端が割れ、手指のようになってから俺の頬に触れる。
それは、しばらく俺をなでていた。なんというか、俺の中を探っているような触れ方で、少しぞわぞわする感じはあったが、嫌な感触ではなかった。
黒い塊は、もう一度言った。
「おまえ みち おしえなかった わざと」
「え、えっと」
道を教えなかった、と言われて直近では一人しか心当たりがない。とっさのことですぐ頭にしみ込んでいなかったが、そう言えば千歳がその後の気配を悪霊と同じだと言っていた。この黒い塊、悪霊で、あの子?
黒い塊は、俺から手を離して、言った。
「おまえ ゆるす だしてやる」
……え?
黒い塊は、上下に伸びたり縮んだりしながら言葉を繋いだ。
「いま こわいの おいかけてくる にげて おちついたら だしてやる」
「え、え、何で、どうして、俺のこと、恨んでるんじゃ」
俺は混乱して、思わず黒い塊に聞いた。
黒い塊は、何でもないように言った。
「おまえ わたし おなじ おかあさん おかしくなった」
その直後、地響きと、ものすごい衝撃が走った。
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