番外編:怨霊発奮
ワシは必死で悪霊の手を引きちぎった。次々と出てくる手を引きちぎって、悪霊の半分近くはバラバラにしたと思う。
でも、悪霊の手が出てくる速さに引きちぎるのが追いつかなかった。祟ってる奴はあっという間に悪霊に飲み込まれて、悪霊が出てきた虚空に連れて行かれてしまった。
ワシは、虚空の先を感じ取って叫んだ。
『あいつ、誰かの夢の中に入った! 夢の中を通っていろんなところに出てるんだ!』
夢の世界は、寝てる人がいれば入れるし、その人の夢を伝わっていろいろなところに出られる奴がいてもおかしくない。今は昼間だから寝てる人が少ないけど、夜だったらもっといろいろなところを行き来できるだろう。
それと。
『あの悪霊、ものすごくしぶとい、多分あれの核、生霊だ!』
そう言うと、金谷が目を剥いた。
「え、な、生霊!? 生きてて、なおかつあのレベルの悪霊ですか!?」
『あれは生きてる根っこのある奴のしぶとさだ、体の方見つけて叩いたほうが早いかもしれない、はやくあいつを助けないと』
「そ、それはそうです、和泉さんまで標的になるなんて……」
狭山先生が車を操作しながら言った。
「と、とにかく司さんに連絡しないと、大変ですよこれは」
その時、ぴりりりと携帯の鳴る音がした。狭山先生の胸元からだった。
「司さんだ!」
狭山先生はあわてて携帯に出た。携帯から、金谷の兄貴の声が漏れ出てきた。
(すみません、あのTwitterアカウントの発信地がわかりました、和泉和漢薬じゃなくてそこに行き先を……)
「そ、それどころじゃなくて! 和泉さんが悪霊に今、さらわれたんです!」
(和泉さんも!?)
ワシは携帯にも届くようにでかい声で言った。
『あの悪霊、核が生霊だ、生きてる体をどうにかしたほうが早いと思う! その発信地に連れてってくれ!』
(わかりました、LINEに住所送ります、ただ一筋縄ではいかないかと……いきなり家に入れろと言っても、我々には押し入る権限がありません)
『こっちは目の前で人さらわれてるんだぞ!』
(……我々の方でも合法的に家に入れないかやってみます、ひとまず送った住所に向かってください!)
「じゃ、じゃあ行きます!」
狭山先生は電話を切り、携帯を見ながらカーナビに住所を入れた。
『ここから遠いのか!?』
「三十分くらいかかるみたいです!」
『なるべく急いでくれ!』
……悪霊を引きちぎっていた時、悪霊のせいで祟ってる奴とワシの境界が曖昧になってたんだろう、あいつの考えてることが流れ込んできた。
あいつ、あんなこと考えてたなんて。
生まれてこなきゃよかったなんて、そんなこと、考えてたなんて。
あいつを助けなきゃ。なんとかして、助けなきゃ。
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