お前は縁から逃げられない

 午後には金谷さんが狭山さんの運転で来て、車内でいろいろ話を聞かせてくれた。

「今回はありがとうございます。悪霊の気配はたくさんの所にあって、和泉和漢薬はその中でも気配が強いところなのですが、同じくらい強いところもいくつか見つかったので、もしよろしければ他にもお付き合いいただけないかと」

 金谷さんが言う。怨霊(ヤーさんのすがた)は頷いた。

『うん、いいぞ、夕飯下ごしらえしてきたし。こいつの親も探したいしな』

 俺を指差す千歳。俺が落ち込んでるの、親が行方不明だからだと思ってるらしい。金谷さんは俺たちに頭を下げた。

「ありがとうございます。和泉様もありがとうございます、親御さんが行方不明ということで、ご心配されてると思いますが……」

 ……心配する気持ち、全然湧いてこないんだよな。コロナで亡くなった人の霊に呪われたなら、自業自得とすら思う。俺、冷たいのかな。人でなしなのかな。

 車内で、事態の背景を軽く説明された。悪霊の気配とともに消えた行方不明者はここ数日に限るそうだ。行方不明者の中に、密室から煙のように消えた人がいたので、回り回って心霊関係の人達の耳に入り、彼らが調べたら悪霊の気配があるとわかったらしい。

 行方不明者たちが無事かどうかは、現時点ではまったくもって不明だそうだ。

 金谷さんは言った。

「あの、自分で言うのもなんですが、私かなり素質はある方なんです。特に探知に優れてるんですが、それでもたどれないんです。ポツンポツンといた痕跡はあるんですが、そこから移動した跡がまるでなくて、どこかにワープでもしてるみたいで」

 それを聞いて、千歳は少し考える顔になった。

『……なんか、その悪霊が得意なことが、気配消すのに関係してるとかありそうだな。少なくともその霊、ツイッターとかのアカウントから人を探せるみたいだし、他にも何か得意なことあるかもしれん』

「そうですね、でもそれ以上類推する手がかりがなくて……」

 千歳は俺の肩をたたいた。

『な、お前そんなに落ち込むなよ、ちゃんとお前の親見つけてやるからな』

「……ありがとう」

 俺、親がこのまま見つからないほうが世のためだと思ってしまうんだよな。実の親なのに。人でなしだ、俺。

 狭山さんの運転は、カーナビがあるとはいえなかなかスムーズで、車窓の風景は俺が高校まで過ごした町並みに変わっていった。

「もうしばらくしたら、和泉和漢薬着きますよ。司さんが手を回してくれてて、中にも入れるようになってます」

『あー本当だ、なんだか気配が……』

 そう言いかけた千歳の顔が、急に固くなった。そして、なぜかいきなり俺の腕をつかんだ。

『……お前、ワシから絶対に離れるなよ! 悪霊、お前も狙うかもしれん!』

「えっ?」

『お前が前にくっつけてきた気配と同じ気配がする! お前がワクチン打って帰ってきた時と同じ気配だ!』

 千歳がそう叫んだ瞬間、何かが俺の足首をつかんだ。見ると、真っ黒くて大きな手が車内の虚空から生えて、俺の足首をがっちり握っていた。

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