悪霊探しを頼みたい

 スマホを手に取る。金谷さんからだった。俺たちの担当からしばらく外れるって話だったのに、どうしたんだ?

「もしもし!? 今よろしいですか!?」

「大丈夫です、どうしたんですか、金谷さんしばらくお休みって話じゃ」

「すみません、私じゃないと対応できないことはやってて、それで、今回は私がお話したほうが早いので連絡させていただきました」

 金谷さんは、いつも通り言葉遣いは丁寧だが、なんというか、口調が慌てているような、あせっているような感じがある。

 彼女は言葉を続けた。

「その、結論を先に言いますと、千歳さんに協力していただきたいことがあるんです。とても強大な悪霊が出現したかもしれなくて、対処に非常に苦労する可能性があって、でも、まだ居所がつかめないんです……」

「え、そうなんですか!?」

「それで、その、千歳さん関係でなくても、和泉さまにも関係がある話でして……」

 金谷さんは事情を説明してくれた。強大な悪霊の気配が、複数の行方不明者の家や最終目撃地から探知されたこと。悪霊は、その強大さから、おそらくはたくさんの霊の複合体であること。共通点のある霊だと結びつきやすいことと、行方不明であり、悪霊の被害者と思しき人物たちの活動から、新型コロナの死者の霊が関係している可能性が高いこと。各所に残された気配だけでも強大さがうかがい知れるが、その割に本体がまったく見つからないので、打つ手がないこと。

 それで、探知の意味でも、除霊の意味でも、千歳の協力がほしいということ。

「それで、行方不明者が複数いるんですが……その中に、和泉さまのご両親が含まれています」

「え」

「それでですね、その他の行方不明者も、和泉さまのご両親をリーダーにして、新型コロナに関して積極的に情報発信を……主に、反ワクチンとか、民間療法でワクチンを解毒とか、そういう活動をしていた人たちばかりなんです」

「…………」

 俺は言葉を失った。両親が行方不明であることだけでなく、思い当たった、あの不気味なTwitterのアカウントについて。

 @WeCatchYouAll。

「すみません、少しお聞きしたいことがあるんですが」

 俺はスマホを耳に当てたまま、こたつから出て、作業用の机にどけていたノートパソコンを開いた。ブラウザで開いていたままのTwitterから、@WeCatchYouAllのアカウントに飛ぶ。

「すみません、その行方不明になった人たちって、今から読み上げる名前の人たちじゃありませんか?」

 @WeCatchYouAllのツイートしている人名は、さっきより増えていた。ツイートを遡って時系列順に読み上げる手間も惜しく、上から順に読み上げる。今の時点で二十人以上はいた。

 電話の向こうから、息を呑む気配がした。

「どうしてわかるんですか!?」

 驚きの声。行方不明者と、俺の読み上げた人名が、ある程度は一致したのだろう。

 俺は、簡単に事情を話した。きっかけがあって、今の両親のSNSでの活動を調べていたこと。両親のシンパらしいアカウントもまとめてチェックしていたこと。その中で、@WeCatchYouAllの存在を見つけたこと。両親のシンパは、おそらくは毎日更新が奨励されているアカウント群なのに、ここ数日更新が止まっているアカウントが多いこと。先ほど、@WeCatchYouAllが人名のみのツイートを突如として始め、その人名のアカウントはすべて更新が止まっていること。

 金谷さんは言った。

「……関連があると考えたほうが、自然ですね。複数の方面から手を回して、そのアカウントについて調べます」

「わかりました」

「あと、今後の被害を防止したいので、そのご両親のシンパと言う人達のSNSアカウントの一覧を、まとめて送っていただくことは可能ですか?」

「すぐ送ります、パソコンでもLINEできるようにしてあるんで」

 俺はパソコンの方でLINEを開き、監視用インスタアカウントのURLを送り、Twitterの監視用非公開リストの名前を「被害可能性リスト」に変えて公開リストにし、そちらのリストのURLも送った。

「今送りました、何かあったらまた言ってください」

「ありがとうございます、それで、繰り返しになってしまうのですが、千歳さんにご協力いただくことは可能でしょうか?」

「えーと、多分大丈夫だと思いますが、経緯を千歳に説明して、オーケーもらったら折り返し連絡する形でいいですか?」

「わかりました、お願いします」

 俺は、ひとまず電話を切った。ただ事じゃない内容を話していたので、千歳(女子大生のすがた)は目をまん丸くしながら、電話の内容を真剣に聞いていたようだった。

『おい、なんか大変なことになってないか、ワシなんかしなきゃいけない感じか?』

「うん、金谷さん、千歳に協力してほしいって。悪霊探しとその除霊に困ってるんだって」

 俺は、できるだけ正確に伝わるように注意しつつ、金谷さんから聞いた事情を千歳に話した。

 予想通り、千歳は協力を快諾した。

『いいぞ、金もらってるし、その分ちゃんと働くぞワシ』

「じゃ、オーケーって言っておくよ」

 俺は、金谷さんのLINEに千歳が協力する旨を連絡した。連絡を終えて、スマホから顔をあげると、千歳が心配そうに聞いてきた。

『なあ、それで……金谷ってやつの話も少し聞こえたけど、お前の親行方不明なのか?』

「……うん」

 そういえば、ツイートで見たときもそうだったが、俺、びっくりするほど両親に心配の気持ちがわかないな……心配しても、もうどうしようもない相手だと、この間のパクリ発覚で心が冷えたせいかもしれないが。

 俺は、千歳に、Twitterの@WeCatchYouAllのアカウントについても詳しく話した。さっき聞いてほしかったことは、これだということも。

 すると、千歳は、すこし考え込む顔をしてから言った。

『なあ、インスタグラムってやつとか、ツイッターのアカウントっていうやつは、その持ち主は普段からそれをたくさん使ったり、それについて考えたりするよな』

「うん、まあ、使用頻度にもよるけど、そういう人は多いと思うよ」

『……だとするとな……。そのアカウントは、アカウント使ってる人に縁があるものだから、あとはその人がいる大体の位置というか、方角が分かれば、ワシがお前のお祖母さんの夢繋いだみたいに、何かその人に干渉できるかもしれない、と思う』

 使い込んでるSNSのアカウント、縁のあるもの判定なの!? いや、更新頻度とか使い込み具合とかにもよるだろうけど、使ってる人はめちゃくちゃ使ってるし、縁がないと考えるほうがおかしいか……。

「じゃあ、やっぱりあのアカウント、悪霊に関係してるのかな?」

『そうでもおかしくないんじゃないか? 霊によってもできることとか得意なこと違うし、なんか、縁のあるものがあって、その人のいる大体の方角が分かれば、完全にその人を探知できるとか、あるかもしれん』

 俺は思い出す。確か両親も、そのシンパも、大まかな居住地をプロフィールとかbioに書いてあった。多分、それも毎日更新と同じで、奨励されているんだと思うけど。

「あの、金谷さんに、今の千歳の考え伝えていいかな?」

『うん、早めに言え』

 俺は、あわてて金谷さんにLINEした。

 すぐに、その方面でも調べますと返事がきた。それに続いて、迎えに行くので、明日の午後に悪霊の気配が一番残っている場所、和泉和漢薬に来てもらえないかと連絡があった。

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