外出相談進めたい

「千歳、悪いんだけど、俺近いうちに一週間くらい寝込むかも」

朝食の席でそう言うと、怨霊(幼児のすがた)(命名:千歳)は箸を取り落としそうな顔になった。

『え、なんでだ!? どうした!?』

そうか、そりゃいきなりじゃびっくりするよな。

「いや、コロナの四回目ワクチンをそろそろ打ちたくてさ……接種券、もう届いてるんだ」

オミクロン対応ワクチンが打てるようになったのはありがたい。引っ越しだのなんだので後回しにしていたが、本当は早めに打つべきなのだ。俺の場合、副反応がひどいから、仕事の調整が大変だけど……。

『あれ、四回も打たなきゃならないのか?』

「抗体がそんなに持たないからね。今度のは、コロナの新株に対応してるワクチンが打てるから、まあ寝込むとしても打っておきたいんだ」

『お前、前打った時よりは体良くなってると思うんだが、それでも一週間寝込むか?』

「うーん、副反応って免疫が働いてなるから、健康になると、免疫力も健康に働くかもしれないし」

『そうか……一筋縄じゃいかないんだな……。うーん、どうしようかな』

千歳は腕組みをした。

『あのな、星野さんに、近いうちにお昼一緒に食べに行かないかって言われててな。星野さん、四回目打って少したったし、今感染者も減ってるし、もう少ししたら娘さんが里帰り出産だしで、今がちょうどいいんだって』

「ああ、カツカレー食べに行きたいんだっけ?」

前にカレー屋を調べてほしいと言われた覚えがあったので、そう聞くと、『うん!』と千歳はうなずいた。

『お前が寝込んでる時に外に食いに行く気にならないしな。かぶらないようにできるか?』

あ、俺が寝込んでたら、なるべく家にいてくれるんだ。前に副反応で寝込んだ時もいてくれたけど、弱ってる時に誰かいると本当にありがたいんだよな……。うなされても起こしてもらえるしさ……。

「ありがとう、えーと、ワクチンの予約まだちゃんと調べてないんだ、いつ取れそうか調べてから話進めていい?」

『うん』

というわけで、食べ終わって食器を洗ってから、スマホで調べてみる。行きつけの病院はまだオミクロン対応ワクチンを取り扱っておらず、集団接種に行くほうがいいらしい。

集団接種会場を調べる。一番空いている会場は……。

……俺はげんなりした。一番空いている会場は、よりによって俺の実家の最寄り駅にあった。近寄りたくないんだけどな……。

でも、接種しに人の多いところ行って感染する可能性は低くしたいし、空いてる会場の方がいいのは確かなんだよな。空いてる方がいつでも予約取れて、千歳との予定の折り合いもつけやすいし。

とりあえず、実家の最寄り駅会場ならいつでも予約できそうなので、カレー屋を調べる方に移る。

「千歳、ワクチンの予約は割と自由効きそうだからカレー屋の方調べるけど、なんか外せない条件とかある?」

千歳は食後のなた豆茶をすすりつつ答えた。

『えーと、カツカレーが食えて、あと平日の方が空いてそうだから平日行けるところで、星野さんの車で行くから駐車場があって、あと、食べたあとゆっくりお茶できそうなところ!』

要望が明確なのは、選ぶ方にとってもありがたい。

「じゃあ、それで調べてみるよ」

カツカレーがメインなら、インドカレーやネパールカレーじゃなくて、日本式カレーが食べられるところがいいんだろうな。

調べてみると、この間千歳が映画を見に行った方の駅のレストラン街にちょうどいいカレー屋があった。日本式カレーいろいろ、カツカレーあり、カツ以外にもエビフライや唐揚げにコロッケ、その他トッピング多数あり。お茶ができるかというと微妙だが、同じフロアに和風喫茶とコーヒーの喫茶店があるので、そこで代用できないだろうか。

「千歳、こないだ映画見に行った駅の方にいい感じのカレー屋があるんだけど、どう?」

『どんなカレー屋だ?』

「カツカレー食べれて、エビフライとか唐揚げとかいろんなトッピングができて、大盛りもできる所。お茶はできるかどうか微妙だけど、同じフロアにあんみつが食べられる喫茶店と、コーヒーとお菓子が食べられる喫茶店があるから、気分で選べるよ」

『えーと、じゃあ、星野さんに聞いてみて、大丈夫だったらそこがいい。ラインってやつ星野さんにしてくれ』

「おっけー」

早速、星野さんに詳細をLINEしてみる。すぐ既読が付き、承諾の返事とともに「あんみつ食べない? って千歳ちゃんに聞いておいてください、できれば金曜がありがたいです」と返ってきた。千歳にその返事を見せる。

『じゃ、あんみつ食べようかな! 金曜日に行こうって返事してくれ』

「わかった、あのさ」

俺はもう一度集団接種会場のページを開きつつ言った。

「人少ないだろうし、俺も集団接種会場に平日に行きたくてさ。だから、金曜日、千歳がご飯食べてる間に行こうかと思うんだけど、それでいいかな?」

『え、お前一人で遠出平気か?』

千歳は目を丸くした。まあ、遠くに行くときはだいたい千歳についてきてもらってるからな。朝の散歩までついてきてもらってるし。

「距離的には遠いけど、バスと地下鉄乗ってばっかりで歩くのはちょっとだし。それに、おかげさまで、体良くなってきてるしさ」

『ふーん、ならいいが……』

「多分千歳が帰る前に帰ると思うけど、金曜は一応スペアキー持ってって」

『わかった、金曜はお前の分の昼飯作って冷蔵庫に入れとくな』

「ありがとう、助かる。楽しんできなよ」

そういう訳で、俺は集団接種会場に予約を入れ、金曜に珍しく二人別々に出かけることになった。

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