秋の味覚を楽しみたい
まだ、朝に目が覚めたあと「ここどこだ?」となるけど、新しい部屋は本当に住み心地がいい。広いし明るいし、湯船も一回り大きくなった。電気・水道・ガスもトラブルなく開通し、ネット回線も問題ない。後は転居届その他の手続きをするだけだ。
怨霊(命名:千歳)も料理その他問題なく新しい家でできているらしい。『冷蔵庫がスカスカで落ち着かない!』と買い物に行ってしまったが。
まだパソコンの位置が微妙にしっくりこないのでいじって、ついでにネット回線の速さを確認して日曜を過ごす。
『ただいま!』
千歳(女子中学生のすがた)が玄関を開けた。
「おかえり、たくさん買い物できた?」
『いろいろ買ってきた、あと秋だから焼き芋も買ってきた、お前も食べろ!』
「え、ありがとう」
焼き芋とか久しぶりすぎるな、最後に食べたのいつだろう?
その日の昼ご飯で、焼き芋一本を千歳と半分こしたが、千歳は割った焼き芋の断面を見て目を見張った。
『え、全然ホクホクな感じじゃないぞ、なんかすごくねっとりしてる!』
俺は心当たりがあった。
「ああ、今は蜜芋が流行りだから、その焼き芋だな、多分」
『蜜芋?』
不思議そうな顔をする千歳に、俺は説明した。
「ホクホクな感じじゃなくて、水飴なんかと同じ成分の麦芽糖とかができやすくて、蜜でねっとりしてる品種があるんだ。昭和の頃にはまだ出回ってないんじゃないかな」
『へー、うまいのか?』
「うーん、俺ちゃんと食べたことないからなんとも言えないけど、人気なのは確か」
『ふーん、まあ食べないと味はわかんないな……』
千歳は焼き芋を一口かじり、目を丸くした。
『うわ、甘い! すごくねっとりしてる! これもう芋ようかんじゃないか!』
「気に入った?」
俺も焼き芋をかじる。確かにねっとりした口当たりで、蜜が滴るのではないかというくらい甘い。
『うん、うまい。でもやっぱりホクホクのも食べたいな、牛乳と一緒に食べるのがいい』
そう言えば、食卓には珍しく牛乳パックがあった。
「この焼き芋だと、牛乳合わない?」
『うーん、合わないわけじゃないけど、芋が喉に詰まりそうなのを牛乳で流し込むのがいいんだ。どうしようかな、牛乳買ってきたけど、料理にでも使おうかな』
すでにコップに注いでしまった牛乳をにらみ、千歳はぼやいた。
牛乳を使う料理と言っても、俺はシチューくらいしか思いつかない。どんな料理にするのかなと思っていたら、夕飯にはキノコがたくさん入ったミルクスープが出た。
『いろんなキノコ入れたから、うまいぞ!』
一口すすると、確かにたくさんのキノコの香りとうまみと、あとなんとも言えないコクがある。これはすごい。
「うわ、すっごいおいしい、これ味噌かなにかも入ってる?」
『コンソメも入れた。うん、いい味だな』
千歳(幼児のすがた)も一口すすってうなずく。
「いやー、秋の味覚だねえ、めちゃくちゃおいしい」
『キノコまだ残ってるから、明日は炊き込みご飯でも作るな』
「わー、楽しみにしてる!」
毎日こんなに手をかけて料理するの、もし俺が健康で丈夫でも絶対に無理だから、それだけでも本当にありがたい。
これからも、毎日千歳のご飯を千歳と一緒に食べられたら、すごく楽しいだろうな。
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