番外編 祟り続けるということ
最近思うが、ワシが祟ってる奴、ひょっとしたらかなりいい奴なのでは?
かき氷機買ってくれた時、割といい奴だと思ったが、それからもチョコミントとかお菓子ちょくちょく買ってくれる。温泉に行った時も、めったに食べれないおいしいもの分けてくれた。一人で出かけたら、ちょっとしたお土産買ってきてくれた。ミントミルクティーおいしかった。
……それに、刺されてバラバラになった時、閉じこめられてる所まで迎えに来てくれた。中にいる奴らも、あいつが呼びかけて集めてくれたらしい。
あいつが祠壊したの、転んでぶつかったせいだし、別に壊そうと思って壊すような奴ではないんだよな。まあ痛かったし腹が立ったし、他にやることもないから祟るけどさ。
引っ越しは、業者の人間がどやどや来て、あっという間に荷物を運び出して、新しい部屋であっという間に荷物を配置して、けっこう早く終わった。
祟ってる奴が嬉しそうに言う。
「予定より早く終わったね、千歳の家具配置図あって本当に良かったよ」
こいつが家具配置をワシの好きに決めていいというので、新しい部屋の見取り図を紙に書いてそこにいろいろ書き込んでいた。そしたら、こいつがそれを見て「これ引越し業者さんに見せたら指示する手間が省けるから、コピーしに行ってもいい?」と言ったのだ。朝コンビニでコピーしたのを引越し業者に何枚か渡したら、すごく喜ばれて、確かに荷物を運び込むのが早く進んだ気がする。
『ワシ、よくやっただろう?』
いい気分になって言ったら、祟ってる奴は笑って「うん、すごく助かった」と言った。
「じゃあ、お疲れ様ってことで、少し早いけど駅前のサイゼリヤ行こうか?」
『こないだ投票しに行った方の駅だよな?』
「うん」
戸締まりをチェックしてから部屋を出て、前の部屋より少し近くなったバス停まで行った。すぐバスが来たので乗る。
『頼むデザートもう決めてあるんだ!』
「何にするの?」
『ティラミスと、トリフアイスクリームってやつ』
「ああ、どっちも評判いいね」
そんなことを言っているうちに駅についた。駅のどこにサイゼリヤがあるのかよくわからないが、祟ってる奴はわかるらしいのでついていく。Food Styleとでかでかと書いてある建物に入ったら、開けた明るい空間に椅子とテーブルがたくさん置いてあって、マクドナルドとかケンタッキーとか、うどんの店とか餃子の店とか、いろんな店があった。ここもフードコートってやつかな?
物珍しくてきょろきょろしていたら、祟ってる奴に「サイゼリヤはこっち」と手招きされて、一角が仕切ってあって、少し落ち着いて座れそうな店に連れて行かれた。祟ってる奴が店員に声をかける。
「すみません、二人でお願いします」
「では、こちらのお席までどうぞ」
奥の方の席に案内されて、メニューを渡された。大体スマホで見たのと同じ内容だが、メインのメニューはまだどれにするか迷っているので、もう一度じっくり選びたい。
「俺はとりあえずドリア頼むけど、千歳は決まってる?」
『うーん、ちょっと待て、スパゲッティにするのは決めてるんだが、カルボナーラにするかイカスミパスタにするかで、迷ってるんだ……』
どうせ外食するんだから、普段使わない材料を使った普段食べないものを食べたい。でもそれで行くと、カルボナーラもイカスミも捨てがたい。
祟ってる奴が、本人に配られたメニューをめくった。
「イカスミパスタって、これか……。じゃあさ、俺、イカスミパスタも頼むから、千歳がそれ半分食べるのはどう?」
ワシは目を丸くした。
『え、半分もいいのか!?』
「いいよ、俺、ドリアだけじゃ物足りないけど、スパゲッティまるまる一皿つけると多いし」
『じゃあそれがいい!』
「じゃ、注文メモに書いて店員さんに頼もう」
祟ってる奴は卓上の紙に注文する品を書き込んで、ベルで店員を呼んで、取り皿も頼んだ。わくわくしながら待っていたら、スパゲッティは割とすぐに来た。
「口つける前に取り分けちゃうね、はいこれ千歳の」
祟ってる奴が取り皿にイカスミパスタを盛ってこっちにくれた。……なんか、半分より多くないか?
でも、祟ってる奴は大きい方の皿を自分の方に持って行って「いただきます」と食べ始めてしまったので、まあいいか、と自分もいただきますをした。うわ、イカスミってすごくうまみがあるんだな……。いっぱいもらえてよかった。
ていうか、こいつ割とワシに食べさせたがるんだよな。ワシも食事するようになって、最初はつまむ程度に食べればいいかと思って少しずつ自分用におかずを取り分けてたら、いざ食事する時、こいつやたらおかず分けてくるし。まともなもの作っても量食べなきゃ意味ないだろと思って、ちゃんと二人分作って均等におかず盛ってみたら、そんなに分けずにちゃんと食べるようになったけど。
ワシに食べさせる理由も必要もないのにな。金ないのに食べさせてくれるんだよな。
……こいつ、友達も趣味もないつまんない奴だけど、根はいい奴だな。こないだはごまかされたけど、大事な人とかもちゃんといるみたいだし、その人に見せるためと思って子孫づくりがんばってくれないかな。
いや、でも体悪いなりになんとか仕事してるし、体力つけようって少しだけど毎日運動してるし、がんばってるか。
いい奴だし、努力もできる奴だし、金がなくて体悪いのがなくなれば、女は見つかるよな。いい女だといいな。
カルボナーラの上の温泉卵を崩してよく混ぜて、フォークにたくさん巻き付けて頬張りながら、ワシは決心した。
よし、明日からまたがんばって祟ろう! もっとこいつの身体よくして、たくさん金稼げるようにさせよう。そしたら、女作らせて子孫繋がせられるよな? こいつの子々孫々まで祟れるよな?
今日の夕飯は野菜がないから、明日の朝飯は野菜多めにしよう。帰りに寄るスーパー、安い野菜あるかな?
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