サイゼで夕飯食べてみたい
お昼にキャベツとツナのペペロンチーノを食べていたら、怨霊(幼児のすがた)(命名:千歳)が引越し日の予定を聞いてきた。
『なあ、土曜は午前に荷物運び出して、昼はさんで午後に荷物新しい部屋に入れる感じだろ?』
「うん、それで合ってる」
『その日の夕飯と次の日の朝飯、どうしようかと思ってな。冷蔵庫空だし、夜は作る暇があるかも分からないし……土曜の朝は作れるし、昼は残り物タッパーに詰めて弁当にできるんだが』
千歳はスパゲッティをもぐもぐしながら頭をひねる。
「あ、そうか、そうだね……考えとかなきゃな」
一番楽なのはコンビニで買うことだけど、二食もコンビニだと高いし、千歳の料理に慣れると、コンビニ飯が続くのがわびしく思えてしまう。
値段的にはそんなに変わらないだろうし、少し贅沢してUberでも頼んでしまうか?
「後で調べとくね、部屋まで何か届けてもらうのもできるかもしれないし」
というわけで、食べ終わって食器を洗ってから、スマホでいろいろ調べた。Uberでレストランかコンビニか……それともネットスーパー頼んでおくか。
……いや、Uber割と高いな。配送料だけじゃなくて品物にも値段が上乗せしてある。ネットスーパーは二食分の食材だけを配送してくれるか心もとないし、これも多分近所のスーパーより品物が高い。
いろいろ見て、バス代を含めても、Uberで頼むのと、駅ビルがある方の駅まで出てそこでレストラン探して食べるのと、そう費用が違わないことがわかった。あの辺で安くておいしいファミレスとなると、サイゼリヤか。
サイゼリヤに絞って調べてみるが、店頭に行ったほうが、明らかにUberより品揃えがいい。デザートもいろいろあるし、千歳が喜ぶかもしれない。俺も久しぶりにミラノ風ドリア食べたいし。
駅前まで出るなら、駅前のスーパーは遅くまでやってるし、そこに寄れば日曜の朝ごはん分もなんとかなるだろう。
「千歳、土曜の夕ごはんと日曜の朝ごはんだけど、夜に駅前のサイゼリヤに食べに行って、帰りに駅前のスーパーで朝ごはんの食材買うのはどう?」
タブレットを見ながらゴロゴロしていた千歳(黒い一反木綿のすがた)は不思議そうな顔でこっちを見た。
『サイゼリヤ? どんな店なんだ?』
「あ、知らない? イタリアンのファミレスで、安くておいしいところ。メニューはこんな感じ。ほら」
スマホでグランドメニューを開いたものを千歳にわたす。
『へえ、確かに割と安いな。うまそうだ』
「パスタも肉もいろいろあるよ、デザートもたくさん。メインひとつ、サブメニューひとつ、デザートひとつまでなら奢れるよ」
そう言うと、メニューを見る千歳の目が真剣さを増した。
『うーん、迷うな……うまそうだな、どれも……』
本当は、「何でも好きに食べていいよ!」 くらい言いたいんだけど、千歳は食べようと思ったらものすごく食べるから、常識的な量に留めといてほしい。ごめん。
でも、千歳が来てから、奨学金がチャラになったり、仕事の値上げできたり、体が良くなって働ける時間が増えたり、金谷神社からのお金が入ったり、臨時収入が増えたりで、経済的には余裕が出てきてるんだよなあ。明日をも知れぬフリーランスだから、そういう余裕はなるべく貯金に回してるけど。
千歳がスマホのメニューから目を離して、こちらを見た。
『なあ、サブメニューなしにする代わりに、デザートふたつはダメか?』
千歳、本当に甘いもの好きだなあ。俺は微笑ましい気分になった。
「いいよ、好きなの選びな」
『……お前、何ニヤニヤしてるんだ?』
「え、そんな笑ってる?」
俺は思わず自分の顔を触った。遅れて、ちょっと、いやかなり頬が緩んでることに気づいた。
まあ、なんていうか……。一緒に暮らしてる人が楽しいと、自分としても割と楽しいしな。
「いや、うん、たまに外食行ける程度には経済的に潤ってきたなあって思ってさ」
事実ではないが、嘘でもない程度の理由でお茶を濁すと、千歳が食いついてきてしまった。
『いい調子じゃないか! もっと元気になってもっと稼いで、女見つけて子孫繋げよ!』
「そうトントン拍子に行くかって言うと、また別の問題だけど……」
出会いとか、まったくないしさ。
まあ、でも、これから引っ越す先は今よりずっといい部屋だし、できる範囲で頑張って稼いで、少しずつでいいから、いい暮らしになりたいな。
そこに千歳もいれば、俺はもう言うことはない。
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