熱とか怖いし助けたい

一回目では腕がものすごく痛かった。二回目では三日熱が出て寝込んだ。今回は交差接種だ。先行して受けた人々の反応を見るに、三回とも同じワクチンで打つ場合より副反応がひどくなる可能性が高い。

「今のうちにちゃんと言っておくけど、俺、今日の夕方から調子崩すと思うし、三日はがっつり寝込むと思うし、自律神経がゴミなことを考えると、一週間は微熱がひかない可能性があるから」

新型コロナワクチン三回目の接種券を鞄につっこみつつ宣言したら、怨霊(女子中学生のすがた)がビビった顔をした。

あんまりこの姿の怨霊を連れて歩きたくないのだが、前に怨霊がこの格好だった時に連れて行った、かかりつけの病院でしかワクチンの予約が取れなかったし、怨霊は当たり前のようについてくる気だし、俺も普段から自律神経がイカれてる以上、出先での体調不良が心配で付き添いがいるとありがたいしで、いろいろと仕方がない。

『いや、なんでそんなもん打つんだ、やめろ、行くな』

怨霊が俺の腕をつかんだ。

「そういうわけにもいかないんだよ……副反応が強いワクチンなのは否定しないけど、新型コロナはかかると死ぬ事があるし、死ななくても症状がものすごく重いし、治っても後遺症が怖いし」

『後遺症?』

「血管がボロボロになって、心疾患とか脳出血とかのリスクが上がるんだって。あと、疲労とか倦怠感とか集中できないとか……認知症と同じ現象が起きるとも言われてる」

体がだいぶダメなのに、頭までダメになったら本当に終わりだ。細々とは言え頭脳労働で食べているし。

怨霊は呆れた顔になった。

『お前、普段からふにゃふにゃなのに、そんな後遺症になったらどうなるんだ?』

「そんな後遺症になったら、控えめに言って最悪。だから調子崩すってわかってても打たざるを得ないんだよ。一応、寝込んでもいいように、この一週間は受ける仕事少なくしてるし、稼げない分は、この間もらったクリーニング代である程度補填できるし」

『五万も包んでくるとは思わなかったな』

「びっくりした。今月分の食費に使ってもまだ余る」

金谷さんとは連絡先を交換したので、こんなにはいいですと伝えたのだが、「非礼だったのはこちらなので! こちらも大変助かったので受け取って頂けるとありがたいです。また改めてお話できると嬉しいです」と返ってきたため、受け取ることにした。

「まあ、そういう訳なんで、寝込むけどそんなに心配しないで。喉が腫れるわけじゃないから、普通の食事で大丈夫だと思う。いつも通りに作ってくれると助かる。でも食欲なくて残したらごめん」

『わかった、残ったらワシが食う』

怨霊はうなずいた。たぶん汗をかなりかくから水分補給も考えておかないといけないが、インスタントコーヒーばかり飲んでいたら怨霊が麦茶を作ってストックしておいてくれるようになったので、それを頼ればいい。布団から動けなかったら枕元まで持ってきてもらうこともできるし。介護されてるみたいで情けないから、できるだけ自分で起きて飲むけど。

「あの病院は解熱剤も一緒に出してくれるし、できる対策はしたかな。じゃあ行こう」

別に診察室までついてくる必要はないのだが、怨霊は三日寝込むレベルの注射がどんなものが見たいと診察室までついてきた。主治医に「付き添いの方は打ってないんですか?」と聞かれて言い訳に困った。

『あんな小さな注射でそんなに熱が出るのか?』

待合室に一緒に戻ってきた怨霊は不思議そうだった。

「従来とは違うワクチンだからね。それに俺は二回目でけっこう熱出たから、三回目もほぼ確実に熱出る」

『そんなもんなのか』

帰ったら案の定猛烈にだるくなり、夕飯はなんとか食べたが、早々に布団にもぐった。

『熱出てるのか?』

心配しなくていいとは言ったが、怨霊(黒い一反木綿のすがた)は落ち着かないらしく、布団の周りをうろついていた。

「……んー、ニ回目と同じなら深夜辺りだけど、もう出ててもおかしくないかな……」

『薬飲むか? 水持ってくるか?』

「今のうちに飲んでおこうかな……」

解熱剤を枕元に置いておいてよかった。介護されてるみたいで情けなかったが、怨霊の言葉に甘えて水を持ってきてもらい、カロナールを飲み下してまた寝た。

眠くなる薬ではないが、副反応のだるさは眠気も運んでくる。あと、解熱剤を飲んでも高熱時のひどい悪夢は変わらないらしい。元から悪夢ばかり見るけれど。

そのまま眠ったが、俺は怨霊がずっと枕元にいることに気づかなかったし、悪夢のひどさに比例して自分の寝言がひどくなることも知らなかった。

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