第2話 編入初日の大爆発
「では、新しい仲間を紹介する」
そういうと先生は、入るように促す。
そしてドアが開いた。
漆黒の瞳と、それに合わせるように深い黒色の髪。
がたいが良く筋肉質なその体は、一朝一夕で得られるものではないだろう。
「では紹介を」
「ニファ・アルフォン。よろしく」
「……もっと何かないかな?色々自分の事とか」
「……自分の事あまり教えてこなかったので……仕事上……」
最後の方は完全に声が小さく、誰も聞き取れなかった。
だがその返答に先生も困った顔をし、気を遣って生徒にこんな事を言った。
「じゃあ何か質問とかあるか?」
「はーい!」
その提案に一人の女子生徒が食いついた。
「じゃあ、ネージャ」
「彼女いますかっ!」
ザワザワッ。
クラスが急に騒めいた。だがその様子にニファは首をかしげる。
(何でそんな事聞くんだ?まさか、リーリの存在を知ってる奴か)
「ほほう、踏み込むね。で、どうなんだアルフォン」
先生も興味津々で聞いてくる。
リーリは彼女ではないが、こちらの素性を知っていないとは限らない。
だが、ニファは特に困った様子もなく答えることにした。こういう時、当たり障りのない答えにニファは自信があった。
「いました」
「過去形……!って事は!」
ネージャは嬉しそうにニファを見て、顔を赤らめる。その反応にニファは肯定するように首を縦に
「はい、死にました」
シーン……
クラスが静寂に包まれた。そして何より、ネージャは俯きながら汗を伝わせる。
「あ……ごめんなさい」
反射で謝られた。
おかしい……何故こんなに気まずそうなんだ。居た方がよかったのだろうか……。
そう思いながらニファは先生に理解を求める視線を送るが……
「ごめんな、アルフォン。悪気は無かったんだ。許してやってくれ」
そう言ってニファの背中を摩った。
ニファは終始理解できないまま、自分の席へ案内された。
ニファは一応、左右の生徒に挨拶をする事に。
「これからよろしくな」
「あ、ああ……その何だアルフォン」
「んあ?」
「大丈夫だ、俺たちがついてるからな」
「……どうも?」
どうらや、掴みはバッチリ。
手応えを確信したニファはそう思った。
「リーリ・メルキア!みんなよろしくね!」
一方、リーリも自己紹介を終え、元気に席に着いた。
元々、学校に行きたがっていたのはリーリの方だ。それからなのか、ウキウキで授業を待っていた。
「ねぇねぇ、リーリちゃん」
隣の席の女子がリーリに話しかけた。
「ん?なーに?」
「私ミク、よろしくね!」
「うん!よろしく!」
リーリは元気に挨拶すると、その反応にミクも嬉しそうに話を始める。すると、ここでも
「ねぇ、リーリちゃんは気になる男子いる?」
その質問に周りの生徒も一斉にリーリを見た。だがリーリは嬉しそうに、平然と答えた。
「いない!だってもういるもん!」
「えっ!?」
ザワザワッ!
ニファの時よりも大きくどよめき、ミクはゴクッと喉を鳴らしながら追って質問をした。
「ど、どんな人なの……!」
「ニーニ!一緒に学校に入ったの!」
「もしかして高等部のあの人!?いやいやリーリちゃん、それはなんでも……」
「そうよそうよ!意地張らなくていいの〜!」
周りも完全に冗談と受け取り、各々自分の会話を始める。
「でも、あの高等部の人もかなりイケメンだったよね……!仮に本当ならリーリちゃんもすみには置けないな〜」
ミクは笑いながら、リーリを見る。
「……本当なのに」
そして授業が終わり、少し疲れを感じたリーリ。だが休む間もなく、リーリの前に一人の男子が来た。
中々に美少年だ。きっとクラスでもそれなりにモテるだろう。そんな男子がリーリに甘く話しかけてきた。
「リーリちゃん、君の事をもっと知りたいな。どうだろう、このあと一緒に学食でも」
他の生徒はニヤニヤ、ドキドキ。そんな空気で二人を見た。
青春を求めて学校に来たリーリ。
憧れのシチュエーション。リーリーは即答した。
「え?やだ……」
「なっ……!」
「リーリちゃん!?」
リーリは見たこともない顔で嫌そうにそう言った。
ミクはすかさずフォローする。
「そ、そうだ!『やだ、ありえない。嬉しい』って意味だよね!?言葉が足りなかったんだよね、リーリちゃん!」
「違う……私ニーニと食べるし」
「リーリちゃぁぁぁん!!!」
完全に否定した。
何より一番恥ずかしいのは美少年の方だ。
自分の自信があった反面、リーリの冷たい反応に少し涙ぐんでいた。
なんとかこの場を収めようと、ミクも奮闘する。
「リーリちゃん言い方!ほら、ロゼ君も気を遣って誘ってくれたわけだしさ!仲良くなってからまた……!」
「毎日ニーニと食べるもん。あーんとか色々したいなぁ」
「自分の世界に入らないで!戻ってきて!?リーリちゃん?リーリちゃん!?」
「やぁ、アルフォン君!」
「げぇっ、イグナ!」
ニファの隣の席の生徒がそんな声を上げた。
イグナと呼ばれたその生徒は、ニコニコしながらニファに近づいてくる。
「なんだ?」
「君と仲良くなりたいと思ってね!君、思い人が無くなって悲しんでると思うから、元気づけようと思ってさ!」
「大丈夫」
「いやいや、遠慮しないしない!」
ニファの話を半分に受け流し、何やら嬉しそうにニファを見続ける。
するとついには、机に手をついた。
「僕の宝物を見せてあげよう!」
「宝物?」
「そうだ!宝物だ!!!」
「始まったよ……」
何やら周りの生徒がずらかり始めた。
ニファもその空気に少し不安を抱くが、最悪爆発物でもなんとかなるだろう。
少し身構えたニファだが、イグナはサッととあるものを出した。
「これだ!!!」
「……写真?」
「ふっふっふ、ただの写真じゃない!これは愛する我が妹!この学校でもいい成績を収め続けている自慢の妹さ!!!」
そこに映るのは、水色の綺麗な髪でクールな印象を受けるリーリと同じくらいの少女。
自慢するだけあって美人だ。リーリといい勝負だろう。
だが周りの生徒にコソコソ話が聞こえてきた。
「出たよシスコン」
「あれはもう発作だよ」
「また窓ガラス弁償だよ」
ニファはその声に納得した。
イグナの鼻息は荒く、どうだどうだと促してくる。
ニファも流石に答えないとと思い、すぐに返答する。
「いい妹だ、きっとお前もいい兄貴してるんだろうな」
「ほう!君とは仲良くできそうだ!ほら、特別にもっと近くで見たまえよ!」
そう言って写真をニファに渡してきた。
「ダメ!ニファ君!」
瞬間、ネージャがそう叫んだが、遅かった。ニファは写真を受け取る。
——パリィィィン!
窓を突き破り、何かがニファ目掛けて飛んできた。ニファは吹き飛ぶ。
「ふむ、見えないように写真を渡したつもりだったのに流石は妹」
そう言ってダッシュで割れた窓ガラスまで行き、イグナは叫んだ。
「おーい、マーラ!!!お友達に自慢してただけだよーーー、やめなさーーい!!!あと愛してるーーーー!!!」
だが、窓の外には誰もいない。イグナだけがその存在を知るかのように叫んだあと、急いで吹き飛んだニファに視線を向ける。
「大丈夫か、友よ!悪いね、妹はシャイなんだ。ま、そんなところも可愛いんだが」
「イグナ!何でこんなことするの!」
ネージャはイグナに鋭い声で怒る。
だが、イグナは困った顔で首を振った。
「誤解だよ。僕はただ妹を自慢したかっただけなんだ。久々に話が合って興奮してしまったのは謝るよ……大丈夫かい、ニファ君」
「ああ……」
教室の端、吹き飛んだニファはそれだけ答えた。
「マジかよ……」
生徒たちは驚愕する。
たしかに皆おかしいとは思っていた。いつもなら、吹き飛ぶことはないはずの光景に、珍しくニファは吹き飛んだのだから。
その理由はニファの右手にあった。
「写真を矢で打ち抜くなんて凄いな。それも写真の顔の部分を的確に……危なかった」
そう言ってニファは矢を捨てた。
左手の写真は無事だった。その光景に皆は安堵し、ニファは立ち上がる。
そして写真をイグナへと渡す。
「ああ、なんて……君はなんて……!」
「宝物だろ?ホラ」
イグナは叫んだ。
「なんて事してくれたんだぁぁぁぁぁ!!!」
「ああ!?」
イグナは鬼のような形相でニファを睨み付ける。
周りの生徒もこの反応に困惑する。
「妹の天使の矢をっ……!受け止めるなんて!それを受け止めていいのは、兄である僕だけだァァァァァァ!!!」
「なんだコイツ、めんどくせぇ!」
鬼のような形相。否、彼の額にはツノが生えていた。そのツノは伸びていき、やがて元の彼とは似ても似つかなかった。
「おいアルフォン!死なねぇようにだけしろよ!」
「それ殺さないように、あっちに言ってくんね!?」
武器がない。ニファにとってそれは致命的だった。
「やべぇな」
魔法の使えない殺し屋と天才少女の学校編入日記 ルテン @PPKZ
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