第39話 来訪者との外出③

 妹である真弥に町の案内をしようとしていただけなのに事態は思わぬ方向へと動き出してしまった。気温が高く、皆が汗を流しているであろう中、冷や汗をかいているのは晴也、一人だけだろう。


 今現在、五人で近くのファミレスへと立ち寄っている晴也達だが晴也は帰りたい気持ちで胸がいっぱいいっぱいとなっている。


「ほんと、私が困ってるところを助けてくださってありがとうございました!」

「いえいえ、私の方もその迷子になってたので」


 沙羅が真弥に頭を下げると、続けて真弥もまた頭を下げ出した。どうやら晴也とはぐれてからのこと。迷子になってしまった真弥は偶々沙羅が一人、ナンパされているところを撃退したのだそう。何とも末恐ろしい妹である。


「ほんと……私の親友を助けてくれてありがと」

「ね〜。私たちが来る前のことだったから、凄い助かっちゃった」


 結奈、凛が続いて真弥に感謝の言葉を送った。妹のことを誇りたいと思うのと同時に何てことしてくれた、と非難したい気持ちで晴也は板挟みになってくる。


「なぁ……どうやってナンパしてきた奴を撃退したんだ?」

 声を細め、S級美女達に声が聞こえない様に隣に座る真弥に尋ねた。晴也の知る真弥からすれば、そんなナンパ野郎を撃退する姿が想像できないのだ。大方、警察を呼ぶハッタリをかましたとかそういうオチなのだろうと思って晴也は聞いたのだが———。


「ん? 普通に可愛がってあげたけど」

「可愛がった……ってお前なぁ」


 冗談はほどほどにしとけよ、と眉を細めて訴えたものの、真弥の表情は真剣そのもの。

 晴也が疑問に思い首を傾げていると、感嘆した表情を浮かべながら、S級美女達は会話を織りなしていく。


「それにしても、凄かったですよ! 赤崎さんの妹さん。軽くガラの悪いお方をあしらってらっしゃいましたから」

「……強いんだね、赤崎の妹って」

「え〜、私。その場面見て見たかったかも」


 正対するS級美女達の会話を聞くに、どうやら妹の発言は嘘ではないらしかった。晴也は驚き、まじか、と我が妹の変わり様に唖然としてしまう。


「皆さん、お褒めのところ嬉しいんですけど、私の兄はもっと凄いので」

(……は?)

 瞬間、声には出ないものの内心で呆けたツッコミを漏らす晴也。思考がおぼつかず、固まる晴也を無視して真弥はどんどん爆弾を投下していった。


「ナンパなんていざ知らず。周囲からは畏怖されるほどの"強い男"でその上、私の兄は優しいんです」


(いやいや……何言っちゃんてんの? このひとは?)


 あり得ない虚言に晴也は思わず、妹を叱りつけたくなった。だが、この場は状況が状況である。何と言っても自身の正体を知られてはならない"S級美女"達の前なのだ。声を出せば、気づかれる可能性が拭えないため晴也はぐっと堪えて声を押し殺した。


(……っ。何を狙ってるのか知らないけど、そんな嫌がらせは無駄なはずだ。だって普段の学校生活を知る彼女達ならそんな俺のイメージないはずだからな)


 客観的に見れば、うだつの上がらない学校生活を送っている晴也である。そのため如何いかに妹が身に覚えのない捏造をでっちあげようが意味がない、と踏んでいた。

 ところが、事態は思わぬ方へ進展することになるのだ。


「へぇ〜、凄いんですね! 赤崎さんって」

「そうなんだ……ちょっとイメージ変わったかも」

「案外、ちょっと弄ればイケメンに化けるかもね〜赤崎って」


 『いやいや、それは嘘でしょ』とS級美女達は否定してみせるどころか真弥の発言を信じ感嘆してみせた。

 三人の視線が、自身に降り注がれ晴也は内心『げっ』と眉を寄せてしまう。


「………ソンナコトナイデスヨ」


 晴也は思わず声を上擦らせそう否定してみせた。地声だとバレる恐れがあったため声を上擦らせたのだ。

 すると、S級美女達は———。


「……ちょ、ちょっと赤崎さん。何ですか、その声……。面白いこと言わないでください」

「……ふふっ。赤崎ってそんなボケも出来るんだ」

「今のはちょっと面白かったね、ウケる〜」


 何故であろうか。晴也の溢した声が面白かったのか、S級美女達はクスクスと三人とも笑ってみせた。ちなみに、隣に座る妹は親指を上げてグッドポーズを決め込んでいる。

 真弥の表情から"よくやった"とでも言いたいのだろうか。とにもかくにも、表の顔の晴也の評価がS級美女達の間で改善されてしまった模様である。


(………いや、何でこうなる。余計に正体バレちゃまずくなったじゃないか)


 隣の席に座る妹を恨むと同時に、晴也は再度頭を抱え込んだ。

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