第40話 来訪者との外出④
夕方を迎えた現在。日はすでに西の空へと沈もうとしており、茜色の夕焼けがそこかしこを照らしている。どうやら、S級美女達とファミレスで過ごすこと、数時間が経過していた様である。
「いや〜、真弥ちゃんって凄く面白いね。私たちと馬合うし」
「そうですね! 真弥さんとここまでお話で盛り上がるなんて思ってもみませんでした」
「コミュ力、高いんだ……真弥って」
凛、沙羅、結奈の順番で続くこの発言。それはどれもが妹、真弥に対しての褒め言葉である。晴也としてはありがたい話だが、ファミレスでは終始、女子同士で話を盛り上がらせ、晴也は途中から空気と化していたのだ。
たまに、『私の兄は〜』と思ってもないことをつらつらと述べ、"S級美女達の晴也に対する評価"を真弥は上げようとしてきたけれども。
(余計なお節介だっての)
非モテな兄のために、とでも思っているのだろう。やめてくれ、と内心冷や冷やしていた晴也だが、S級美女達からの評価が上がったからといって特にそのことを言及されることはなかったので本人としては安堵していた。
(……それに、いつの間にか全員"真弥"呼びになってるしなぁ。恐るべし、妹のコミュ力)
結奈も溢していたことだが、真弥のコミュニケーション能力には目を見張る物がある。
S級美女達を相手に多彩な話題を提供しては、時に聞きに徹し相槌を打ったりと誰とも分け隔てなく仲良く出来そうなスキルを真弥は持っているのだ。話し上手な上に聞き上手。"コミュ力お化け"と表現せざるを得ない晴也である。
「褒めてもなにも出ないですって。あっ、私の連絡先くらいは出ますけど」
お茶らけた雰囲気を醸し出しながら、真弥は舌を出してスマホを取り出す。S級美女達はくすっと笑うと、それぞれがスマホを取ってみせた。もはや銅像かの様に固まり、空気と化していた晴也は何とはなしにその光景を見ていたのだが———。
途端、妹とS級美女を含めた四人が一斉にこちらの方へと視線を寄越してくる。
「なに、ぼけっとしてんの? ほら、お兄ちゃんも連絡先交換しなきゃ」
「これも何かの縁ですしね! 赤崎さんも是非」
「そうだね〜。何か赤崎って失礼かもだけど無害そうだし」
「ま……真弥のついでにはなっちゃうけどね」
真弥の発言に続きS級美女が次々にそう言ってきた。四人の視線が晴也一点に集中している中、この状況を打開できそうな雰囲気はない。
(……連絡先くらいなら、大丈夫か?)
頭の中で整理し、自問自答をする。知られてはいけない一面の晴也と、普段の高校生活で見せている一面の晴也。
連絡先一つで、S級美女達に同一人物であるとバレてしまうということはない様に思われた。
(ここで断るのも感じが悪くなるしなぁ……)
出来るだけリスクは取りたくないため、渋々といった感じで晴也はスマホを取り出す。
顔をなるべく見られない様に、俯きながら、女子達の輪の中に入っていくと甘い香りが鼻腔を刺激してきた。
「えーっとお兄ちゃん、じゃあスマホ貸して」
妹である真弥は近づいた途端に、ぴゅいっとスマホを取り上げてくる。もはや「貸して」という単語が機能していなかった。
慣れた手つきで女子達は連絡先、追加の画面へと移行するとすぐさま追加をしていく。
その結果、ものの数十秒で晴也の連絡先には"S級美女達"が加わることになった。
「え、赤崎って……家族以外の連絡先入ってなかったんだ〜」
不意に、晴也のスマホ画面を覗いたであろう凛が淡々と溢す。続いて『ホントですね』『そうなんだ』と特段興味なそうに沙羅、そして結奈は溢すものの、真弥からはやけに嫌な視線を感じ取った。
「へへっ、私達で連絡先童貞卒業ってことじゃん。良かったね〜赤崎」
ニヤリと悪びれ顔を浮かべ、凛は晴也を揶揄いだした。
「……カ、カゾクガハイッテルカラ」
「ははっ、だから何その声。ウケるんだけど。家族はノーカウントだからね〜」
声を上擦らせてみれば、再び凛には笑われてしまう。小悪魔気質のある凛からすれば"揶揄い"というのは軽いスキンシップのつもりなのだろうが、晴也としては正体がバレない様に振る舞うだけで精一杯なのだ。
「……凛揶揄いすぎ」
「赤崎さん、その連絡先が童貞? 童貞っていうのはどういう意味なのか分からないのですが、例え童貞であったとしても気にしなくていいですからね」
沈着冷静な結奈がジト目を凛に向けたと思えば、沙羅は爆弾発言をかましてくる。"童貞"を気にする晴也ではないが、それでも彼女の発言には気を向けざるを得なかった。
(……ナニイッテルノカナ? コノコハ)
唖然とし固まり思わず呆けてしまうと、凛そして結奈はクスクスと同時に笑い出した。
「ははっ、赤崎……めっちゃ動揺してる〜」
「どう返答しよう……って態度から滲み出てたね、今のはちょっと面白かった」
もうなにも言うまい、とS級美女達の反応を見て晴也は決め込んだ。何せ目立ってはいけないのに今や目立ってしまっているのだから。
不意に真弥と視線が合えば、よくやった、と言わんばかりに満遍の笑みを向けられる。
(……もう、帰りたい)
すくざま晴也はこの場を立ち去りたくなった。
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