第38話 来訪者との外出②

 ちゃんと真弥が着いてきているのか、後方を逐一確認するのが面倒で、怠っていたら真弥の姿が見えなくなってしまった。

 大方、目新しい建造物に目をとられ晴也の姿を見失ったというのが真弥の現状であろう。

 人通りの多さから、晴也としては探すのが中々億劫になってしまう。


(……目の前に目的地はあるっていうのに)


 晴也の眼前には、いつも利用しているデパートが映っているものの、この地域では有名なスポットの一つである。

 はぁ、と深めのため息をついて晴也はスマホを取り出し真弥の連絡先を開いた。

 そして、気怠げに着信するも————。


「………で、でない」


 何コールしても尚、真弥が電話に出てくれる気配は全くもって感じられなかった。厄介なことになったな、と頭を掻きながら晴也は位置情報を送りすぐさま向かう様、妹に促した。






 結局、妹と再会できたのは『ごめん、今すぐ向かうから』との連絡を受けてから20分ほど経ってからのことだった。それまでは、適当にデパートを一人、冴えない格好で彷徨うろついていた晴也である。デパート内を散策している最中、知り合いに出会ったら、との懸念が胸の中で渦巻いたが、それは杞憂に終わった様だった。空調の整ったデパート内から、もわもわした空気が蔓延る外へ出ると——すぐさま真弥の姿が晴也の瞳に映る。

 どうにも、真弥の他に三人ほどいる気もするが気のせいであろうか。不思議に思いながらも、真弥の元へと駆け寄ると——瞬間、晴也の背筋が凍りつく。


「あっ晴也。ねぇねぇ、この人たちすっごく美人だしめっちゃ良い性格なんだけど!?」


 瞳をキラキラと輝かし、真弥はその三人の中の一人に頭を撫でられていた。その光景を他の二人がほんのりと目尻を下げて見ていることから、妹がこの人たちにお世話になった、というのは晴也の目から見ても明らかなこと。


 そのため、妹がお世話になったみたいで、と普段の晴也なら、詳しい事情を知らずともすかさず挨拶をするのだがこの時は苦笑いを浮かべ固まってしまっている晴也である。

 無理もない話だ。何せ、晴也が今一番出会いたくない人達が目の前にいるのだから。


 一人は、桃色の髪に華奢な身体。

 一人は、黒髪に青い瞳を持つ女子。

 一人は、亜麻色の髪に琥珀色の瞳を持つ女子。


 最近、異性としてではなく自身の生活を守るためS級美女に関心を持っている晴也。

 見間違えるはずがなかった。女の子らしい服装を着こなしているS級美女達の姿を……。


(………う、嘘だろ。おい)


 思考がおぼつかなくなり、固まっていると不意にS級美女達の視線が真弥から自分に向けられたことに気づく。沙羅、凛、結奈の三人の視線が晴也に降り注がれていた。

 ドクドク、と高鳴っていく心臓の音を自覚しながら、首を縦に振ると真弥がむっと不快感を表す態度をしてきた。表情を見るに、眉がほんのりと寄せられている。


「私が迷子になってたところを助けてくれたのに……晴也、その態度はないんじゃないの?」


(……うるさい)


 実際のところ妹の指摘は、ご最もなわけであるが声を出そうにも声が出せないのだ。いくら身なりや格好が変わろうとも声帯までは変わらない。

 声をこんな間近で聞けば、彼女たちに気づかれるのではないか、と内心、晴也はヒヤヒヤとしているのである。


「そういえば……あんたって赤崎、だっけ」

「赤崎さん? すみません。誰でしょうか」

「あの〜、同じクラスの目立たない男子って感じの子だよ沙羅ちん」


 いざ、晴也と正対するとS級美女達は晴也についての情報を共有しだした。凛、結奈は晴也のことを知っている様だったが、沙羅だけが分からなかった様でこてん、と首を傾げている。


 晴也としては、覚えていてくれなくていい、というか覚えておかないでくれというのが本心であり、全身から変な汗が出てきてしまっていた。


「えー、晴也。同じクラスなの! 彼女たちと」


 驚いた、という表情を浮かべたと思えばその内、一転してニヤリ顔になる妹。

 何やらこっそりとスマホを取り出しては、一人メッセージを打ち込み出した。


 —————ピコン。


 スマホから音が鳴り、メッセージを確認するとそれは間近にいる真弥からのもの。


『良かったね、晴也。私のおかげで彼女たちと仲良くなれる機会できて! このあと、私がリードするからチャンス掴むこと♡』


 思わずスマホを握る手の力がぐっと強くなる。晴也からすれば余計なお世話、というか『やめてください、真弥様』と懇願するくらいには勘弁して欲しいことだった。


 ———どうやら、妹である真弥は"シンデレラのガラスの靴"となって晴也とS級美女達を繋げた様である。


(………いや、ほんと勘弁してくれ)


 今ここに、S級美女達にバレてはいけない晴也の闘いが始まろうとしていた。

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