第37話 来訪者との外出①
「まぁ、こんなもんかな」
妹である真弥が部屋に上がり込んでからほどなくして。晴也の部屋は劇的な変化を遂げていた。乱雑していた服や日用品は整頓され、今や広々と部屋の広さを実感できている。
(……最初は不安だったけど、真弥のやつ、成長してたんだな)
晴也が高校生になって一人暮らしを始める前。3つ歳下の妹は掃除はおろか、家事の一つも出来ていなかったため、何かと晴也は手を焼かされていたのである。
それが今や、晴也の助力なしにここまで部屋を綺麗にしたため、唖然とするのも無理はなかった。
「……晴也、掃除してる最中に思ったんだけどこんな服、普段着てるの? なんかイメージない」
「……いや、友達とのノリで買っただけ」
一瞬、服のことを触れられドキッと心臓が跳ねたが、さすがに自分の趣味で買った、とは言えなかった。真弥が知っているのは、晴也の表の顔だけであって、裏の顔は一切知らないでいるからだ。
生意気な妹、真弥のことである。馬鹿正直に、お洒落に目覚めた、などと溢せば揶揄われるのがオチだろう。
内心、服のことでもっと追求されるかと晴也は不安になったが、真弥は『ふぅん』と返事をしただけで特に何か言ってくるわけではなかったので、ホッと胸を撫で下ろす。
「真弥、一応ありがとな。押しかけてきてびっくりはしたけど部屋片付けてくれて感謝はしてる」
「まぁ全然いいよ。晴也にはこの後、対価を請求するし」
「対価って……お前なぁ」
思わず呆れ顔を浮かべてしまうが、強くは反論できない。実際、妹のおかげで部屋が綺麗になったのは事実であるため責めようにも責めれなかったのだ。
押し黙り、その対価の内容を促すと、真弥はピンと人差し指を立てる。
「この街、観光したいからさ。案内してよ」
「えっ」
「なに嫌なの?」
概ね、お金を請求してくるだろうと踏んでいたため晴也は真弥の予想外の要求に変な声を漏らした。真弥の唇が尖りじーっとジト目を向けてくる。
「いや、さっきは俺のことなんかほっといて一人で観光したいって言ってたからさ」
「んー、まぁそうなんだけどやっぱり晴也みたいなのでも土地勘ある人がいた方が心強いかなって」
「まぁ、実家と違ってこっちはそれなりに都会だしな」
「そういうこと〜」
晴也の実家は、田舎地域に位置しているというわけではないのだが……この地域と比べれば見劣りしてしまうのは疑いようのない事実である。土地勘のない真弥が迷子になる可能性は否定が出来なかった。
(生意気な妹ではあるけど、一応兄なわけだし)
乗り気にはなれないものの、迷子になる可能性に気づいておきながら放っておくのは良心が痛むし、何より兄失格であろう。
「分かった。準備終えたらこの辺案内する……部屋掃除してくれたお礼としてな」
「うむ、くるしゅうない」
「………」
ない胸を張って偉そうな態度をとる妹の姿に半ば呆れながらも、晴也は身支度を整えて二人家を出た。
普段、外出する際はお洒落を心がける晴也だがこのときは———表の顔、つまり学校にいる時の冴えない風貌で外に出ている。
妹の目を気にしていることもあるが、それよりも——。
(……S級美女に出会うのが怖いんだよなぁ)
沙羅、結奈、凛。
この三人の顔を思い浮かべるだけで、ゾッと身のけがよだつ晴也。
顔を下に向けながら、なるべく目立たない様に振る舞っていると、真弥が横から口を挟んできた。
「……晴也。挙動不審でキモいからちょっと私、晴也の後ろにいるから」
関係者、ましてや身内だなんて知られたくない、と真弥は溢しそっと晴也から距離をとる。
オススメの場所があるなら着いていくから、そこまで案内しろということなのだろう。
もはや完全な便利屋扱いの晴也である。
「……まぁ、さすがに大丈夫か」
今は、あのときとは容姿が大分異なっているし彼女たちの誰かしらと出会うなんてことはきっとないだろう。
そう言い聞かして、晴也は前を向いて、挙動不審をやめた。
———ところが、である。
「晴也、この人たちすっごく美人だしめっちゃ良い性格なんだけど!?」
その晴也の期待が裏切られたのは、真弥と道中ではぐれ、再会した時のことだった。
晴也の視線の先には、凛、沙羅、結奈のS級美女三人が映っている。
(嘘だろ………おい)
晴也は思わず一人頭を抱えた。
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