絶対に見つかってはいけない晴也VS何としてでも見つけたいS級美女達

第35話 何故かS級美女達の話題に俺がよく上がるようになった件〜身に覚えのない捏造はやめてください〜

 点と点が繋がるのはもはや時間の問題であった。晴也が"S級美女"の一人、小日向凛こひなたりんの実態を知ってからは全ての真相にたどり着く。


 ナンパから助けて貰ったという姫川沙羅。

 同じ趣味を共有できたという高森結奈。

 そして、雨宿りしているなかで、ジャージを借して貰ったという小日向凛。


 S級美女達が"探している"男子というのが、自分のことを指していると晴也は、はっと気づいてしまったのである。


(まずい……あまりにまずすぎる)


 穏やかな高校生活。一人でのんびりと人間関係で悩まずに過ごしたいと思っていた晴也は内心で頭を抱えていた。


 今現在は、4限終わりの昼休憩。

 体育を終えたクラスメイト達は青春の汗を流し終え、好きな者同士達で集まり、弁当を食べている。

 そんな中、一人冷や汗を流していると、横からドンっと音が鳴った。


「今日、一緒に昼飯食べないか? 赤崎」


 もう慣れた物好き、というよりはやけに絡んでくる厄介的な存在が白い歯を見せていた。

 晴也の隣の席である佑樹は机をひっつけてはニヤニヤと含みのある笑みを浮かべている。

 いつもなら、『はぁ』とため息をつきながらも適当に受け流す晴也だが今はその余裕すらもない様子。

 ガチガチに身体を硬直させては苦笑いしか晴也は浮かべないでいる。


「さっきの体育から明らかに様子が変だけど大丈夫か?」

「ダイジョウブ。ダイジョウブ」

「片言すぎるだろ……」


 他愛のない会話を繰り広げていると、佑樹は固まる晴也の隣で弁当箱を広げてパクパクと口の中に食べ物を運んでいった。

 佑樹なりの気遣いなのだろう。明らかに様子がおかしくなった晴也を心配してか、いつもなら他の友達と食べにいくところを、このときは晴也の側にいることにした様である。

 最も、晴也からすればそっとしておいて欲しいというのが———本音ではあるのだが。

 

 終始、下を向きながらコンビニで買ってきておいた弁当を広げ、胃に食べ物を無理やり通していると——近くから聞きたくない話題が聞こえてくる。

 まるで、それは見せつけてくるかの様な話し声で……。


「ナンパから助けて貰って……それに、こう。

怒りを露わにされてて私、本当に嬉しかったんです」

「姫川さん、それで! それで!?」

「その後、再会したんですけど……そのときも助けていただいて……。歩幅も合わせていただいた上に食事のときも紳士的で……」

「何それ!? イケメンでその上、性格も完璧。それに運命の出会い! ホント伝説の男子って感じだね」


 4限の体育で大っぴらに、凛が晴也との出会いを語った時に続き、今度は沙羅が周囲の女子達に晴也との出会いを話込んでいた。

 沙羅だけではなく、結奈もまた晴也との出会いを語っており、クラスの女子達は黄色い声で室内をいっぱいに埋めつくしている。

 男子達はコソコソと話しては、聞き耳を立てており、ますます晴也の居心地は最悪になっていた。


 ……何より、


(怒りを露わにされてて? ぜんっぜん、違うんだが……。あのときは、ただビビり散らかしてただけだし。それに歩幅なんて気にも留められなかった。紳士的? とんでもない。逆に自分の不甲斐なさを呪っているところなのに……)


 事実が捻じ曲げられている事実に晴也は驚きを隠せない。がでっちあげられていた。

 それも、沙羅だけではない。


「高森さんはどうなんだっけ? 趣味が合う男子と出会ったんだっけ?」

「うん……凄い気遣いが出来て、まぁ……カッコ良い男子かな」

「あっ、高森さん顔赤くなった! ここまであの高森さんを思わせるなんて……その男子も激ヤバだね!」


(……気遣い? 逆に家上げて貰ってご馳走になって、その上再会した時も助言を貰って……いや逆です。逆。俺より彼女の方が気遣い出来てるから!)


 結奈もまたクラスの女子達に大っぴらに晴也との出会いをこの様に語っていたのである。

 結奈の語る内容は沙羅ほど脚色されてはいないものの、晴也からすれば充分なほどの捏造。

 いやいやいや! と内心では首を振りまくる晴也である。

 そして、結奈の次には……。


「小日向さん! 体育でしてた話の続き聞かせてよ!」

「そうそう!」

「えへへ〜、その前に私たちが探しているこの男子達。噂通り、この高校内にいる男子達の話なんだけどね! 話聞く感じだと皆、カッコよくて紳士的なんだ〜」

「それで、まだ正体分かってないんでしょ!? ホントに英雄ヒーローみたい」

「私もそんな出会いしてみたいなぁ」


 凛がほんのりと顔を赤らめながら、そんなことを言い出したのである。周囲の女子達はますます盛り上がり、男子達は男子達で固唾を飲んでヒソヒソと何かを話し合っている。

 その何か、というのは晴也の知る余地ではないが、それは本人にとって嬉しくないことであるのは間違い様のないことだ。


「ほとんど、流出してた噂通りだな。幻で伝説で英雄の男子が三人……それもこの高校で。一体、誰なんだろうな。その面、是非とも拝んでみたいものだ」


 隣で何とはなしにそう溢す佑樹であるが、晴也はS級美女達の顔をチラ見しては内心で頭を抱え込む。


(何でこうなる。この先の高校生活、不安しかないぞ……。それに、だ。これだけは言わせてくれ……)


 お前ら、身に覚えのない捏造はやめてくれぇぇぇぇ。

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