第30話 S級美女との会話(凛)

「えっ……凛もそんなことあったの?」

「ホントに運命みたいですね!」


 沙羅と結奈が凛の家に上がってからのこと。

 メッセージのやり取りを終えて、30分ほどすれば二人は凛のお見舞いに来れた様である。

 凛の部屋に伺い、軽く看病をすると——二人は凛からの話題を振られていた。

 話を聞くに、どうにも凛の探したい男子というのは"同じ高校"の男子であるらしい……。

 壁に吊るされた"ジャージ"が同じ高校だということを明確に示している。


「それにしても、凛もかぁ……」

「その男の人早く見つかるといいですね。私も早く見つけたいですし」


 感嘆の声を漏らしながら、じっくり考え込む結奈と目をキラキラと輝かせている沙羅。

 凛はそんな二人の反応を伺い寝転がりながらも、口では少し否定してくるのだ。


「……私は二人とは違って"恋"してるわけじゃないけどね〜」


「嘘でしょ。凛の場合は完全に恋してるじゃん。それを言うなら私の方。私は……その友達って感じだから」

 顔をほんのりと赤らめながらも、くるくると黒髪を指で巻く結奈。


「結奈ちゃんも凛ちゃんも恋してる反応ですよ! 私は好ましく思ってる方なので早くお会いしたいのですが」


 真っ直ぐな沙羅とは違い、少し天邪鬼な凛と結奈。純真無垢な沙羅を見れば二人とも素直になることにした様子。

 『会いたい』という部分には僅かに頬を薔薇色にしながらも同意を示した。


「けど、探してる方ってなかなか見つからないものですよね……。同じ高校のはずなのに」

「そうね、私なんて学年まで絞り込めてるのに全然見つからないわ」


 沙羅と結奈はいくらなんでもおかしい、と首を傾げているがそれは至極当然のこと。なにせ、二人が知っている晴也は普段、彼が学校生活で見せている姿ではないのだから。


「そういえば、沙羅の探している男子の特徴ってどんな感じなの?」

「えーと、ピアスに無造作に整えられた黒髪でしょうか」

 顎に指を当てて、そう答える沙羅。

 彼女の溢す情報に結奈と凛は同時にピクッと眉を顰める。


「私も同じなんだけど———」

「それって、私も」


「え、ほんとですか?」

「ええ……」

「うん」


 おそらくそんな馬鹿な話あり得るわけないだろう、と思いながらも探している男子の特徴が同じであるため結奈は冗談まじりに溢す。


「もしかしたら、同一人物だったりして。………ってそんなまさかだけどね」


 一瞬だけ、室内は沈黙に包まれたがやがて沙羅が口を開いて沈黙を破った。


「いくらなんでも、それはないですよ。結奈ちゃん」

「そうだね〜。偶々なはずだよ」


 だって、と重い上半身を起こしながら凛は続ける。


「そんなこと本当にあったとしたらさ、何か気まずくなるじゃん〜? きっと偶々容姿が似てるだけなんじゃないかな?」


 冷静に分析し、押し黙る結奈に詮索は止めるように凛は促す。

 定かではないことを邪推したところで意味はないのだ。沙羅もコクリと首を縦に振ると結奈は罰が悪くなったのか『そうね』とだけ返事をした。


 少し空気が気まずいものになってしまうが、途端——沙羅はポンと手を叩いて新しい話題を振るのだ。


「もしもの話ですけど、私たちがその男の人を探して見つけられた時———トリプルデートするとかはどうでしょうか?」


「トリプルデート、デートって……。私とあいつはまだそんなんじゃ」

「あはは。私も恋って感じでないんだけどな〜」


 照れ隠しをする様にそっぽを向く凛と結奈だが、これはあくまでも仮の話である。

 沙羅が『もしもの話です』と強く言えば凛と結奈は楽しそうだと恥ずかしげに答える。


 こうして、約2時間ほど妄想を膨らませ三人は恋バナならぬ女子会をしていくのだ。


 ———凛の看病のはずが、共通の話題で盛り上がり三人は晴也の話で室内を埋めつくしていた。

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