第24話 結奈の決意
胸の高鳴りというのは、中々収まってくれないものだ。
一度、高揚感を自覚しだすと止まることを知らないのか、身体全体から熱が発せられ
晴也の元から離れ自宅に着いた結奈はシワひとつないベッドに身を投げ出すと、そのことを痛感させられていた。
「……まさか、だよね」
表情には出ていないものの、ドクドクと心臓は脈打っていて、ほんのりと赤く染まる顔を枕にぎゅっと押し付ける。
運命を信じてみる、と沙羅や凛に豪語したはいいものの、本当にすぐ再会することになるなんて思ってもみなかったのだ。
晴也の顔を思い返すと、嬉しいことがあったのか結奈はほんのりと唇を弧の様に描いた。
「……あの制服、そして私のカマにかかったのを見る限り確定だよね」
バタバタと足を動かす音。そして、そんな結奈のクール気な声が一室に響く。
結奈の溢す、"カマ"というのは先ほどの晴也とのやり取りの中でのことだ。
『———それはそうと。制服のまま立ち寄りしちゃいけないんだから、気をつけた方がいいよ』
何気なく発せられたこの結奈の言葉にはカマがかけられている。
制服のまま立ち寄りしてはいけない、というのは晴也と結奈が"同じ高校"という前提条件がなければ成立し得ない要件なのだから。
このとき、内心では心臓の音が
今や、この部屋には誰もいないため緊張感が身体から抜けていた。
「バレてなかったよね……多分、だけど」
今更になって心配する結奈。自分の内面が表情に出ていなかったか。ドラッグストアで晴也を見かけた際、実は嬉しさのあまりその場ではしゃぎたくなっていたことが態度に出ていなかったか、思わず案じてしまっている。
「それにしても……同じ高校か」
加えて、晴也が自分の年齢の一個下であることを考慮すれば同じ学年だということまで絞れてしまう。
(………ホントにこんなこと、実際にあるんだ)
沙羅が運命的な出会いをした、と聞いたとき。正直に言えば、脚色してる気がしてならなかった。そんな"少女漫画"みたいなこと現実に起こるわけない———つい最近まではホントにそう思っていた結奈。
だからこそ、自身が身をもって経験すると浮き足だってしまうのだ。
「……まぁ、私の場合は沙羅とは違って"恋"じゃなくてどちらかと言えば初めての男友達って感じだから」
唇を尖らせぷいっとそっぽを向く結奈。ところが、他に誰もいない空間で取り繕ったところで意味はないのだ。
それに気づいたのか、ふっと鼻を鳴らし何やってるんだろ……と自分の頭をこてんと叩く。
らしくない自分を自覚すれば、浮き足だっていることもすぐに察しがつくもの。
(………っ)
再度、落ち着いてきたはずの身体に熱がともれば、結奈はベッドから起き上がり、ある少女漫画を手に取った。
———それは、晴也と出会うきっかけとなった少女漫画である。残り一冊しか在庫がなく、晴也に買うのを譲ってもらった物であった。
「……生意気、なんだから」
恐らく晴也は今の結奈の気持ちを知らないで今頃のうのうと帰路を辿っていることだろう。
普段クールなはずの自分の心を揺さぶられている結奈にとって、それは生意気と、こぼさざるを得なかった。
(……驚かせてやりたい。私の驚いた気持ちや浮き足だったこの気持ちを味わわせてやりたい、かな)
晴也が、驚きのあまり視線が泳いでいるのを想像するとわずかに口角が緩んだ。
(……向こうは私がまさか同じ高校だと思ってないはず。私から会いにいってやる……から)
言ってて恥ずかしくなるが、唇をきゅっと結んだ結奈の表情は覚悟に満ち溢れている。
キリッとした彼女の青い瞳はまるで絶対に見つけてみせる、と決意あるものだった。
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