結奈パート
第12話 新たなS級美女との出会い
(……今日は、少女漫画の最新刊の発売日だ。胸の高鳴りが止まらないなぁ)
週末の日曜日。その日は、晴也のお気に入りの少女漫画の最新刊が発売される日であった。
数少ない趣味の一つとして、"少女漫画の収集"がある晴也にとって、この日は楽しみでしかなかった様子。口角を緩めては、お洒落も今まで以上に気合いが入っていた。
ワックスにピアス、アクセサリーも自分が一番気に入っている——"一軍"の物を使用しているあたり、晴也の機嫌が最高潮なのはよく分かることだろう。鏡の前で、満足のいく格好になったと判断すると、晴也は住んでいるマンションを一人、後にした。
(今日は……暑いな)
外に出るとまず日差しの強さを実感する晴也。天候がいいこと、それに加えて"日曜日"であることも影響してか、人通りの多さがいつも以上に多かった。だが、面倒ごとには巻き込まれたくない晴也はもう"裏ルート"を利用したくないのだろう。
裏ルートに向かおうとする足先をピタリ、と止めてすぐさま方向転換をする。
(……人混み、凄いけど突っ切るしかないかぁ)
遠目でうっすらと見えるデパートを眺めながら、晴也は重い足を目的地へと向けた。
♦︎♢♦︎
「やっと……着いたか」
歩くこと約数十分。目的地であるデパートに到着した晴也。彼の言う通り、デパートに辿り着いても人の多さが変わることはなかった模様。渋々ながらも、晴也は"人混み"に沿ってデパート内に足を踏み入れた。
デパートには行き慣れている晴也だが、どうにも"人混み"には身体が馴染んでくれずにいる。
顔の強張りを認識しながらも、デパート内に位置している小さな書店へと晴也は向かった。
人混みの多さに圧倒されながらも、書店に着くと思わず晴也は顔を弛緩させていた。書店特有の香りが晴也の鼻腔をくすぐったのである。
図書館もそうだが、あの書店の落ち着いた独特の雰囲気と香りが晴也にとってお気に入りの一つだったのだ。軽くなった足先で少女漫画のコーナーへとひっそり一人で向かっていく晴也。
"お洒落"をしているから、自分が"赤崎晴也"であるのがバレることはないと踏んではいるものの、やはり隠している趣味なだけあって周りの目は気になる様子。チラチラとあたりを見回しては、"少女漫画"が陳列された棚へと移動していくのだ。
だが、晴也の目から見て幸いにもその場に人はいなかった。ふぅと軽く息を吐いて自身が求めている——少女漫画の最新刊をゆっくりと棚を見ながら確認していくと、"一冊"だけ残っていたのを晴也は視認した。ピタリ、と視線を止めてしれ〜っとその少女漫画に手を伸ばしていく。
(……危ない。小さな書店なだけあって在庫数も限られてたんだろうなぁ。それに、俺の求めてたこの漫画はかなりマイナーなやつだし)
売り切れる寸前で来られてよかった、とホッとしつつ少女漫画を手に取ろうとすると、何やら自分以外の手が伸びていたことに晴也は気づいた。
「「あ————」」
どうやら、その人も同じ様で晴也と声が重なり、驚きの表情を浮かべている。
(いやいや、まじかぁ。何でこんなタイミングで……)
自分が手に取ろうとした"少女漫画"をお相手さんも買い求めていたのだろう。顔を逸らしては、気まずそうに彼女は振る舞っている。晴也はすかさず、フォローに回った。
「あ、あの自分は……大丈夫ですので良ければ」
「い、いや私の方こそ……」
唇を尖らせながら黒髪の触覚をいじり回す彼女。どこかで見たことがある様な気もするが、容姿は整っていると晴也は感じていた。実際、誰の目から見ても正対するこの彼女は美少女である。
光沢のある黒髪は腰にいたるまで伸びており、キリッとした瞳は透き通るような青みがかかっていた。『可愛い』というよりは『カッコいい』、
そのギャップに圧倒されながら、晴也は内心、落ち込みに落ち込んでいた。
(……新作、楽しみにしてたけど仕方ないかぁ)
♦︎♢♦︎
晴也の内情など、正対する彼女が知る余地もないが……彼女もまた彼女で焦っていた。
(嘘でしょ……なんで、こんなタイミングで。私が少女漫画好きなのは、沙羅と凛にも伝えてないのに……)
———そう。
『またまた、そんなこと言っちゃって。案外、結奈りんが一番、夢見てたりして……』
『そんなわけないでしょ?』
先日、凛からの指摘に対してまっぴら否定していた彼女であるが、実は……S級美女の一人、
(……やばい、どうしよう)
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