第11話 S級美女から漏れ出る…"噂"

 バドミントンの一件以来、少しだけ晴也と佑樹の距離は近くなっていた。"稀に"話しかけてくる程度の仲から、"時々"話しかけてくる程度の仲へと発展している。

 佑樹の名前さえ覚えていなかった晴也であるが、ようやく名を認知した位にはなっていた。


「……なぁなぁ、赤崎。、どう思うよ?」

「どうした、風宮?」


 どうした、と言う割には晴也は気怠そうに振る舞っている。その理由は単純かつ明快。

 佑樹の出してくる"話題"は大体が晴也にとって興味のない物であるのだ。


(このニヤついた、風宮の笑み……申し訳ないけど、絶対どうでもいいことなんだよなぁ)


 そんな晴也の内情など、佑樹に知る余地はないが晴也がズレているだけ。クラスの男子なら誰もが食いつく話題に全く興味を示さない晴也が可笑しいのである。

 佑樹はわざとらしく、声をひそめてきた。


「S級美女の一人、姫川さんの好きな人……どうにもこの高校にいるらしいぞ」

「……その手の話題はもう聞き飽きた」

「あくまで"噂"の範疇らしいんだけど、その人が『相良じゃないか?』とかで騒がれてるらしい」

「いや、人の話聞いてた?」

「つれないなぁ……まぁ、ツンデレなの分かってるから赤崎は可愛いんだけど」

「誰がツンデレだ」


 愉快そうにケラケラと笑う佑樹を前に晴也は少し顔をしかめた。だが、興味ないと溢す晴也であるがその話題にだけは内心、ちょっとだけ関心があったのも事実。そのため、佑樹の指摘は当たらずも遠からずであり、強く否定が出来なかった。


(……あの女子の"運命の相手"というのは、少女漫画好きとしては見逃せないからなぁ)


 少女漫画好きであることは、誰にも打ち明けていない晴也の秘密。公言することはないものの、内情ではひっそりとその女子を応援しているのである。


「羨ましい限りだよなぁ……それにしても」

「案外、その"運命の相手"が風宮かもしれないから告白とかしてきたらどうだ?」

「え、俺? いや、そんなわけないだろ」

「確かにそんなわけないな」

「酷くね!?」


 先程ツンデレとか抜かしてきた仕置き、そんな感覚で晴也は佑樹を揶揄った。佑樹は突っ込みを入れた後、『さておき』と前置きしてから話を戻す。


「俺の話は置いといて……。真面目な話、あの姫川さん、全校生徒を見回ってるらしいんだ」

「一体、そんな情報どこから仕入れてるんだ? 本人から聞いたわけでもあるまいし」

「まぁ……本人から聞いたわけではないけど、姫川さんって……こう分かりやすいからな、見てて思わないか?」

「いや、申し訳ないけど……俺、クラスの女子とかまだ全然覚えられてないから。分からないんだよなぁ」


 普通ならあり得もしないことだが、晴也の言っていることに嘘はなかった。現に、先程から話題に出てくる『姫川さん』についても顔が出てこないでいる。ただ、少女漫画の様な出会いをしている女子程度の認知ではいた。


「正直、引くわ……まぁ、それが赤崎って感じだけど」

「…………」


 そこに関しては正論でしかないため、晴也としても押し黙る他ない。むっと眉を顰めていると佑樹は『悪い、悪い』と言ってから続けた。


「けどまぁ……その相手がひょっとしたら"自分かも"ということで告白しては撃沈する男子が増えているらしい」

「………単純すぎるなぁ」


 体育の一件でも思ったことだが、あまりにその男子の行為は単純であると晴也は感じる。同感なのか晴也はやれやれと言わんばかりの表情を浮かべていた。


「そこでだ。案外、赤崎も告白すればいけるかもよ? って話をしたかったわけ」

「どうすれば、そこまで話が飛躍するのかこっちが聞きたいな……」

「ははっ、冗談だけどさ。気にはなるよなぁ……姫川さんの"運命の相手"」

「……………」


 ぐぬ、と押し黙る晴也であるが内心では確かに気にはなる。


(恐らく……というよりかは十中八九、"相良"とかのイケメンタイプだろうなぁ)


 そう決めつけて晴也はふぅと軽く息を吐いた。


♦︎♢♦︎


 晴也と佑樹が教室の隅っこで話に耽っている頃———。


「沙羅ちん……大丈夫? もう良からぬというか"噂"が蔓延してるみたいだけど」

「最近、男子からの告白も増えてきてるらしいし私も心配……」


「……うぅ、私ってそんなに分かりやすいんでしょうか」

「ま、まぁ……」

「そ、そうね」

 一階の女子トイレでは、そんな密談が行われていた。S級美女達が集まっては、沙羅の悩みを結奈、凛が聞いているといった現状である。


「それで、結局見つかりそう? 沙羅ちん……その"運命の相手"って」

「いえ……それが該当する方を中々お見かけ出来なくて……」

「もしかしたら、他の学校って線もあるかも」


 顎に手を置いて、結奈が冷静に溢す。沙羅としては知りたくなかった情報なのか、ガクッと肩を落とした。


「あのジャージ、この高校の物だと思ったんですけどね……」

「まだ諦めるのは早いって! 沙羅ちん! 全校生徒、隈なく確認はまだ出来てないんでしょ?」

「……は、はい」

「なら、大丈夫だって!」


 不安がる沙羅を、この中で一番小さな凛が元気づけさせる。結奈はその光景を微笑ましく眺めていた。


「まぁ、確かに……まだこの高校にいる可能性も拭えないか」

「一体、どこにいるんだろうねぇ〜? 沙羅ちんの運命の相手。やっぱり私もそんな出会いした〜い。ねぇ、結奈りん?」

「そうだけど……私は凛ほどじゃないよ。ほんのちょっとだけだから」

「またまた、そんなこと言っちゃって。案外、結奈りんが一番、夢見てたりして……」

「そんなわけないでしょ?」


 結奈はクールに長い腰まで伸びた黒髪を靡かせて否定した。凛と沙羅はその結奈を認めると『違いない』と言わんばかりに笑うのであった。

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