第10話 S級美女の体育
「沙羅ちん……どうしちゃったの!? 3ポイントシュートなんか決めちゃって」
「あの沙羅が……」
体育館でのこと。4限の女子体育はバスケであり、運動音痴なはずの沙羅がチームに貢献していたのだ。沙羅のことをよく知るS級美女の二人、結奈と凛は特にぱちぱちと瞳を
「特訓の成果です……」
「特訓!? なにそれ、聞いてないんだけど沙羅ちん」
「でも、驚いた……。ここまで、成長してるなんて」
ポンコツで、極度がつくほど運動音痴な沙羅。何より、なにもない床で躓いて転ぶほどの才能を持っているのだ。その沙羅がバスケで活躍している事実に結奈は素直に関心していた。
「秘密の特訓ってやつ……?」
「は、はい……」
結奈が聞くと沙羅は分かりやすく顔を赤らめ下を俯く。どう見てもその反応は恋する乙女がするものだった。身体はもじもじとさせ、落ち着きがないし何より口元がニヤついている。
「……はぁ、分かりやすすぎるって沙羅。それじゃあ———」
『凛に食いつかれるよ?』と結奈が助言しようとした途端のことだった。凛が瞳を輝かせて沙羅に詰め寄ってくる。もう手遅れだったようだ。
「えぇ、沙羅ちん……その反応だともしかして!?」
「……は、はい」
結奈は言わんこっちゃないと頭を抱えるが、恋バナ大好きな凛に食いつかれた以上もはや手遅れ。"秘密の特訓"とは言ったものの、こうなった以上"秘密"ではなくなってしまうのだ。
「じ、実は……この前、あの方が私のバスケ練習に付き合ってくださって」
「えぇ!? ちょ、めちゃ距離近づいてるじゃん! どういう状況、それ!?」
「……偶然にしては出来過ぎてるね」
沙羅が思い返すのは、あのバスケ特訓。晴也は少しだけ教えるつもりでいたものの、何だかんだでみっちり日が暮れるまで教えていたのだ。その成果も相まって、沙羅は飛躍的に上達していた。
だが、沙羅にとって重要なのはここから。勿論、彼女自身、バスケがある程度出来る様になって嬉しくないわけではないのだが、もっと嬉しいことがあったのも事実。
琥珀色の瞳をうるうると潤ませて、彼女はそのことを凛、結奈に共有しだした。
「あまり
「え、えぇ……詳しく詳しく!?」
「もう私なに聞いても驚かないかも……」
凛と結奈はそれぞれ違った方向性で反応を示した。興味津々な凛に対して、絶句する結奈。
先んじて『このことはあまり広めないでください』と前置きして沙羅は語り出した。
晴也が着ていたジャージが、自分の高校と同じ物であったことを。
沙羅があまりこの件が広まってほしくない理由。それは、自分で彼を見つけに行きたいからに他ならなかった。
(……絶対、私から会いにいきます)
♦︎♢♦︎
4限の体育で女子がバスケをしていた頃——。
晴也達、男子は同じ体育館でバドミントンをしていた。
体育館は女子、男子が公平に使える様、中央にネットが敷かれ分割されているのだ。
基本的に体育はニクラス合同で行うため、かなりの人数がこの体育館にいることになる。
空き時間が出来れば、女子は男子を、男子は男子で女子を見つめる、それが体育のあるある事情だ。
「おぉ! 姫川さんがシュート決めたぞ! すげぇ」
「やっぱりS級美女はオーラが違うよなぁ」
クラスの男子達はネット越しに、女子を見てはざわめきといった興奮の声を漏らしている。
いや、女子といっても一部のといった修飾語が前につくのだが。
晴也はそんな男子達のざわめきなどいざ知らず、のうのうと一人壁打ちに耽っていた。
理由は単純かつ明快なこと。バドミントンは二人一組でするものであるが、晴也には相手がいなかったのだ。そのため、一人ですることがなく壁際でただ壁打ちするしかなかったのである。
「相良君……スマッシュ決めて!」
そんな中、女子達は女子達でネット越しに一人の男子に注目していた。彼女らが示す視線の先には晴也と同じクラスの
晴也と和良に接点などあるはずもないが、和良はイケメンと名高く、文武両道を体現している男子だ。そのうえ、一年のくせしてサッカー部を率いるエースであるため女子受けは最高な模様。先程から、黄色い歓声が相良に降り注がれていた。
他の男子達は唇を尖らせ、何とか相良に美味しい想いをさせないように振る舞っている。
中には、体育シューズで床を蹴り面白くないと言わんばかりの反応を示す男子もいた。
「こっちは、相良……向こうはS級美女……俺らの出る幕はないな」
無心というよりかは、少女漫画の妄想に耽りながら壁打ちをしていると横で一人の男子がそう声を掛けてきた。晴也の隣の席の男子、風宮佑樹である。
「みたいだな」
「いや、心底興味なさそうなのは流石というか逆に関心するよ」
「実際、興味ないからな」
「だから、一人浮くんじゃねーの? 知らんけど」
「………別に困ってないから問題ない」
それは、正論であるため晴也は強く返すことが出来ない。佑樹はケラケラと笑うと相良の方へと視線を移した。
「俺……今、手が空いたからさ。良かったら組んでくれない? 赤崎」
困惑というよりは呆れた顔をする佑樹を見て晴也も少しの間だけ、相良の方へと視線を移した。すると、そこには『相良を止める!』と言わんばかりに沢山の男子が群れており、スマッシュを打たれては撃沈する光景が目に映った。
「……馬鹿なのか? あいつらは」
「ははっ、単純な奴らが多いみたいだからな」
「みたいだな」
佑樹に釣られて晴也も呆れ顔を浮かべてしまう。相良を活躍させない様に振る舞っておきながら、逆に活躍させてしまっているのだ。
晴也には理解ができない、という感想しかでてこない。
「一人で壁打ちも飽きてきただろ? 赤崎、一緒に組んでくれって」
「分かった。一緒にやるか」
「おうよ!」
というわけで、目立たない体育館の隅っこの方で晴也と佑樹はバドミントンをすることになった。
授業終わり。思った以上にバドミントンを楽しめたため、『ペア組んでくれてありがとう』と晴也が感謝を伝えると、佑樹に『お前、結構可愛いところあるな』と零され、ぞっとする晴也であった。
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