第2話 S級美女達の会話

 翌朝、晴也が女の子を助けた次の日のこと。

 晴也の通う高校のクラスでは、とある女子達が会話で賑わいをみせていた。


「ねぇ、結奈りん。まーた告白されたんだって? 今度はあのサッカー部キャプテンの男子から」

「うん、だけど断った」

「えーーーなんでぇ!?」

「なんていうか、下心すけすけだったし……」


『結奈りん』と呼ばれ、少しだるそうに返答するこの女子、高森結奈たかもりゆなは腰まで伸びた黒髪を靡かせながら返答した。


「えーそうだったの!? けど、なんか勿体ない感じするー。結奈りんも、沙羅ちんも彼氏作んないのぉ?」


 一人、ブー垂れて桜色の唇を尖らせるのは恋バナ大好きな女子校生、小日向凛こひなたりん。セミロングの長さである桃色の髪を揺らしながら、いつも色恋話を二人に問うてくるのだ。


「……まぁ私はさっきの話でいいとして、沙羅はどうなの?」

「………え、わ、私っですか?」


 結奈に話を振られあわあわと慌て出す彼女は、姫川沙羅ひめかわさら。亜麻色の髪と琥珀色の瞳が特徴的でポンコツ気質なところがある女の子である。


「でも沙羅ちんは、女子校上がりだからまだ男の人苦手なんだもんね」

「え、う、うん……」

「そうみたいだけど、気になる男子とかいないの?」

「そうそう!」


 凛、結奈の双方から問い詰められる沙羅。結奈は『答えたくないなら答えないでいい』といった乗り気ではない感じであるものの、凛は食い気味に身を乗り出して聞いてくる。


「……べ、別に気になるお、男の人なんて」


 唇をすぼめ人差し指をツンツンと合わせながら、視線を逸らす沙羅。本人としては隠しているつもりなのだろうが、あまりにも分かりやすい反応である。人の恋バナには目がない、凛が黙っているはずもなく————。


「え、気になる男の人できたの!? 沙羅ちん!?」

「これは驚いた……あの沙羅が……」


 凛と結奈、二人ともが目を見開いて固まる。

 それだけ驚くべき内容だったのだ。あの男苦手な沙羅に気になる男ができたというのが。


「初耳なんだけど……え、いつ!? いつのこと!?」

「落ち着きなって……凛、はしゃぎすぎだから」


 桜色の瞳を星の様に輝かせる凛を、気怠そうになだめる結奈。『落ち着いたタイミングで話出していいからね』と、眠そうな黒目を沙羅に送る。


「……うぅ。私、まだ何も言ってないです……けど」


 白い頬を赤らめ唸る沙羅だが、先程の反応は誰が見ても分かりやすい反応だった。こういうところからもポンコツさが伺える沙羅である。


「いや、さっきの反応はもう答えいってる様なもんでしょ……」

「ホントホント! 沙羅ちんって嘘とかつけないタイプだよね〜。あまりにも初心うぶで分かりやすいっていうかさ〜」


『そういうところが沙羅ちんの可愛いところなんだけど』と付け加えて、凛は笑う。

 二人に看破されたことで沙羅は逃げ場をなくしてしまったのだろう。彼女は気恥ずかしそうに口を開くのだ。


「じ、実は昨日のことなんですけど……」

「……すごい直近だね」

「うんうん、それでそれで!!」


 空気を読んでいるのか、凛は興奮しながらも控えめな態度で聞きに徹している。


「デパートに服でも買いに行こうと思ってて……でも、そこで怖い男の人に声をかけられたんです」

「……うわぁ、嫌なやつだ」

「え、大丈夫だったの!?」


 詳しくは聞かないものの、凛と結奈、双方はすぐさま察する。沙羅はナンパされたのだ、と。彼女たちもそういった経験があるため、沙羅の気持ちは痛いほど理解できるものだった。


「かなりしつこい方だったんですけど……ちょっと小道のところで人目に入りづらくて……その、助けを呼べる状況でもなかったんです……」

「悪質だね、そういう猿……恥ずかしくないのかな」

「沙羅ちん、大変だったね」


 暗い話で雲行きが怪しくなってくる。話を聞いている凛と結奈は心配する様に、沙羅の顔を見つめていた。


「うん、ですけど……困ってた矢先、その怖い男の人をカッコいい方が撃退してくれて……」


 途端、沙羅は口を両手で覆って、顔を真っ赤にさせる。思い返すのは言うまでもないが、昨日の出来事である。


「な、なにそれ……少女漫画みたい」

「え〜〜、いいな〜」


 一度は女子が夢見ること。それは、軽薄な男からイケメン男子が自分を守ってくれるというものだ。顔を赤く染め上げている沙羅を見ると、凛は羨ましそうに声を上げた。


「それに……。私を守る、といった意思を強く感じました。その後のフォローも優しくて……ホントカッコいい方でした」


 饒舌になって、一人乙女モードになる沙羅。

 その様子はまるで、恋する乙女そのもの。想像以上の話だったために、凛と結奈はびっくりする。


「連絡先とか聞かなかったの!? 助けてくれた上にカッコよかったなんて……それってもう運命の人でしょ!」

「凛ちゃん……あの時はそこまで頭回らなかったです」


 しょぼんと、肩を落とす沙羅。『何してるのよー!?』と顔で訴える凛だが、すかさず静かに聞いていた結奈がフォローに回った。


「まぁ、でもまた会えるんじゃない? 運命の人なら、ね。もしかしたら、

「そうだね〜。歳も近そうだったの? 沙羅ちん!」

「……うん、多分……近いと思います」


 助けてくれたイケメン男子の顔を思い浮かべれば、『プシュ〜』と頭の上から蒸気が出るほど顔を真っ赤とさせる沙羅である。その姿を認めると、凛と結奈は直感するのだ。


「沙羅ちん、恋してるね〜これは」

「そうだね、上手くいくこと願ってる」


 沙羅は口には出さないが、態度からもう滲み出ているのである。好き、という気持ちが。


「……わ、私はそこまで軽い女じゃないです」


「ふふっ。まぁそういうことにしておいてあげるけど……でもいいなぁ〜。私も沙羅ちんみたいな出会いした〜い。恋した〜い。ねぇ、結奈りん」

「そうだね……身体目当てとか、碌な男しか出会ってないから、良い男の人がいればいいけど」


 沙羅に当てがわられて、強烈に羨む凛と多少なりとも羨ましがる結奈。


 こうして凛と結奈の二人は"運命の出会い"を羨むのだが、沙羅を助けた男と出会い恋することになるのは———先のはなし。


 は、知らず知らずのうちに美女達を攻略してしまうことになるのである。

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