【Web版】なぜかS級美女達の話題に俺があがる件

脇岡こなつ(旧)ダブリューオーシー

沙羅パート

第1話 美女をなんか助けたみたい

 日曜日。

 いつもの様に赤崎晴也あかさきはるやは、ワックスにピアス、装飾品などなど。普段の学校生活では、お洒落な身なりになってから家を出る。


 晴也の高校はそれなりの進学校であるため、ワックスやピアスなどは校則で禁止されていて、してしまうと"悪目立ち"をしてしまうのだ。


 だから、お洒落をするなら、休日を狙ってするしかないのである。とは言っても、『校則で禁止とか言われたらやっちゃいたい』とか『普段のストレスを発散したい』、みたいな"自己満足的"な部分が大きいため、晴也はナルシストなどでは断じてない。最近は、オシャレに目覚めつつもあるのだが。


 そもそも目立つこと自体がそこまで得意ではないので、普段の学校生活では『ザ・根暗』といった"影の薄い男子の格好"をしている。それが、赤崎晴也あかさきはるやという男の実態だった。


「うわぁ……今日は人が多いな」


 デパートに向かう途中のこと。人ごみの多さを痛感しぼそりと一人つぶやく晴也。週末の日曜日ということもあってか、デパートの利用客が多いのだろう。人の数に圧倒され、思わず苦笑してしまう。


(これは……から行った方がいいな)


 脇道に逸れて人通りの少ない小道へと方向転換する。ほんの数日前、偶々たまたま晴也がデパートに向かう際に見つけた非正規の行き道、それが通称——"裏ルート"である。

まだ、"裏ルート"には慣れていないからか、小道の静けさには身体が馴染んでくれない。

 そわそわとしながら、小道を通っていくと何やら不穏な空気をすぐさま感じ取る。


「……嬢ちゃん、モデルぜっったいやった方がいいって。ホント、ホント」

「……い、いえ……け、結構ですから」


 前方で、女子校生らしき女の子と執拗に声をかけている一人の男が目に留まった。

 彼らを遠目に確認しながら、興味深そうに晴也はその光景を凝視する。


(……スカウト? いや、新手のナンパか?)


 漫画の中でしか見たことないようなシチュエーションに出くわした、と晴也は内心でときめいていた。


「そんなこと言わずにさぁ……ほら、詳しい話聞けば変わるって! だから近くの喫茶店にでも———」

「………きょ、興味ないですので」

「だからぁ〜」


 はたから冷静に状況を見るに、男の方があまりにもしつこかった。この様子では、引き下がる気配を全く感じない。

 だが、そのスカウト? なのかは怪しいところだが男の気持ちも晴也としても分からないではなかった。


 肩のラインで切り揃えられた亜麻色の髪は遠目から見てもサラサラであるし、肌も絹の様に白く、琥珀色の瞳は綺麗な宝石の様で、高貴さを伺わせるギャルっぽいかなりの美少女。

 『美しい』というよりは『可愛い系』で、繊細な美しさを保持している。


 彼女の容姿、が、晴也は助太刀に入ることを決めたようだ。


(さすがに……あの場面を素通りできるメンタルは俺にはないからな)


「……あ、あの」

「ん? なんだ、お前さんは」


トン、と男の肩に手を置くとイカつい顔が晴也の前に露わとなる。無造作に整えられた金髪に細みがかった双眸そうぼう


(……あぁ、これは怖いな)


 女の子が震える理由もよく分かる。この手の男に言い寄られれば、男の自分であっても震える自信が大いにあった。

 ビクビクと震えない様に気をつけながら、男の瞳を見つめ続ける。


「………………」

「………………」


 互いに見つめ合うこと数秒。女の子の視線は何故か自分にだけ降り注がれているものの、構わずに男の方に睨みを利かした。


(あぁ……やばい。しゃしゃりでたはいいけど、こういう時なんて言って追い返せばいいのか、全然分からない……)


 表情には出さないものの、内心で晴也は頭を抱えており、ちびりそうになっていた。

 自然とガクガク足腰が震えだすが、先に口を開いたのは男の方だった。

 それも、何やら震えた口調で————。


「ひっ……!?」

「???」


 途端、間抜けな声を出した男に晴也は不思議な感覚に陥る。


「お、男持ちならし、仕方がねぇよな〜。お、お許しを〜〜〜」


 何故かビクビクと震え出し、男の方はその場を退散していった。特に、何もしていない晴也は『ふぇっ?』と拍子が抜けてしまう。


(……どういうことだ? え、なにこれ。まさかドッキリとか?)


 すぐ直感するも、それは女の子の方から否定されることになる。


「あ、あの……ありがとうございました!」

「あ、あぁ……いや俺は全然何もしてないから」


 本来であれば、カッコつけて示しをつけたかったところだが、本当に何も出来なかった。

 自分でも情けなくなってしまう晴也である。

 が、女の子は何とも律儀な様でそんな晴也の発言を全否定してくるのだ。


「そんなことありません! あの……怖い人相手に臆せず、人殺しの様な目を向け続けられていたのですから……カッコよかったです」

「えっ………あ、あはは」


 実際のところ、男相手にビビり散らかしていただけなのであるが、こんな風に褒められては素直になることも出来ず、晴也は愛想笑いを振り撒く。


「……私、女子校上がりで本当は男の人がすっごく苦手なんですけど、その……貴方の様な方もいるんですね」


 ボソリ、とそう呟く女の子。何だか大げさな気がしてすぐに否定する。


「いえいえ、俺なんて大したやつじゃないんで、ホント」

「……っ」

「こんな狭い脇道を、可愛い女の子が一人通ってたら危ないから……気をつけてくださいね」

「……は、はいっ!」


 女の子は大きく頷いて、『ぺこり』と頭を下げてきた。晴也はそんな彼女に苦笑しながらもその場を後にする。


 もう彼女と関わることはないだろうが、何というか気恥ずかしさだけが残った。


(でも、あの子……どっかで見たことある気もするんだよなぁ……)


 頬を少し赤らめ、そんな既視感に襲われながらも、晴也はデパートへと向かい出す。


 だが、ゆくゆく晴也は知ることになるのだ。

 今日、半ば中途半端に助けた『彼女』が同じクラスの一軍女子……『姫川沙羅』であることを。

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