第12話 星域に破壊が満ちる時 ②

「ヒデさんはどうなの?」

「なんだやぶからぼうに」

 

 昨日実家の事をドクターに話したからか、朝起きてからドクターとヒデの故郷はどんな感じなのかと気になってしまったのだ。

 ヒデはドワーフなので、アルファース中の技術者が集まる工業都市とかに住んでいそうだ。もしくはファンタジーモノの設定でよくある鉱山地帯とかに。

 

「ヒデさんの故郷てどんなところかなて」

「俺の住んでるところか、あそこは活気があってな、何より飯が美味い!」

「へぇー、割とイメージ通りだな」

「久しぶりに食いてぇなあ、台湾料理」

「台湾在住だったかぁ」

 

 途端にファンタジー感が無くなってしまった。アルファースと交流を始めてから既に百年が経とうとしているので、地球にはアルファースから移住してきた人がそれなりにいるゆえ珍しい話ではない。

 ただ、それでも夢は見たかった。

 

「というわけでドクターの故郷はどんなとこ?」

 

 気を取り直して今度はドクターに尋ねる。この時間は医療室にいるので、医療用のコスチュームを着ている。薄い水色のチュニックでドクターの髪色とよく合っていて可愛いらしい。

 

「ボクの故郷ですか?」

 

 変な期待はせず成り行きを見守る。

 

「家はアルファースの錬金都市コフィーにあるんですけど」

「おお錬金都市! ファンタジー感あるぅ」

「でもあんまり帰れてないんですよねぇ、ほらボクって輸送船や定期便の常駐ドクターなので」

「確かに大変だなあ」

「だからボクの故郷は、職場の船ともいえるかもしれませんね」

 

 こうして聞いてみると皆普通に過ごしてきたんだなあと改めて実感する。意外と近くに住んでたヒデに、職場が故郷のドクター、農家出身のリオ、三人とも大して名声のある人生を送って来てもなければ接点も無い。

 ただ、たまたま同じ定期便に乗り合わせただけの間柄だ。

 

「ところでリオ艦長」

「うわあ! びっくりした!」

 

 不思議な縁もあるもんだなあとしみじみしながら廊下を歩いてると、いつもの如く副長が前触れもなく現れて声をかけたのだ。

 

「どうしたの副長?」

「いえ、私の故郷の話はいいのかと思いまして」

「あぁ……じゃあ聞こうかな、どんなところ?」

「この船です」

 

 知ってた。

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 

 武装惑星デルニアまであと五日程といったところ、広域センサーで探査したらベクターや他の艦船の反応は無いので、久しぶりに四人でラウンジに集まって勉強会をする事にした。

 

「以上がガリヴァーのエンジンシステムだ、簡単にまとめると周辺のエーテルを集めてリアクターでパワーに変換してるってところだ」

 

 機関士長ヒデのエンジン講座が終わった。基本構造はやはり地球からアルファース間で使われるエーテル船のエンジンと変わらないらしい。

 ドクターの講座もヒデの前に終わったのだが、エーテル船で使ってた医療機器と同じ物や、申請待ちの新しい医療機器まで揃っているという。思っていたよりもエンシワ連盟の技術は地球とアルファースに流れていたという事だろう。

 

「じゃあ大トリを勤めさせていただくグレートティーチャーリオです」

「早くしろー」「そうだそうだー」

 

 野次がうるさい。

 

「俺の講座はこれ、ベクターだ」

 

 プロジェクターでホワイトボードにベクターの写真が表示される。現在表示されているのは先月定期船を襲った超小型ベクターだ。

 見た目はコガネムシのような丸っこいボディ、三メートル程の大きさで前脚には刀のように鋭い爪が付いていた。副長に聞いたところによれば、前クルーを殺害したのもこの個体と同型種らしい。

 

「ベクターの種類は判明してるだけで五種類、まずは俺達が最初に観た超小型ベクター。名前はコガネムシベクターで俺が名付けた」

「まんまじゃねぇか」

「わかりやすくていいだろ!」

「リオさん、ちなみに犬を飼うとしたらどんな名前をつけますか?」

「オスならワン太、メスならワン子」

 

 二人揃って「「あぁ〜」」と呆れ果てたような溜息を吐いた。全くもって失礼である、ワン太とワン子のネーミングセンスはカッコイイだろうに。

 続けて二種類目のベクターを表示する。

 今の所最も多く接敵している小型ベクターだ。アブのような外観、二枚羽根を持ち口に大きな針が付いている。細い足は見た目に反してパワーがあり、小さな船なら簡単に潰してしまう。大きさは五十メートルから大きいもので一〇〇メートル、一番多い個体がこのベクターとの事だ。

 

「名前はアブベクター、あまりにも数が多いから怖いやつらだ!」

「少しいいか? こいつら倒すために一々魔砲を使うのも手間だし機関砲みたいなのが欲しいんだが、作っていいか?」

「いや機関砲はちゃんとあるんだけど、人手が足りなくて使えない状況なんだよな。一応副長と相談してみるね」

「おう」

 

 三種類目のベクターを表示する。こないだ初めて遭遇した中型ベクターのタガメベクターだ。

 大きな甲羅と触覚のようなハサミ、大きさは三〇〇メートルから五〇〇メートルもあり、戦艦キラーと呼ばれる程恐れられている。

 また図体に似合わず機動力は全ベクターで一番あり捕らえるのは至難、前回奇襲でまとめて殲滅したのは正しい戦術らしかった。

 

「さっきヒデさんが言ってた機関砲だけど、出力を上げてこのタガメベクターを倒せるぐらいにできないかな、人手は後で考えるとして」

「やってみる」

 

 四種類目、これはまだ出会った事のない大型ベクターだ。リオが付けた名前はベクターマンティス、その名の通りカマキリのような外観をしている。

 全長は七〇〇メートルから一キロメートル、ガリヴァーより大きい。

 細長い顔から除く瞳は獲物を射抜くような錯覚すらある、胴体はカマキリとは似て非なるものでかなり太いが、耐久はタガメベクター以下との事。

 但し両手の鎌は現状防ぐ手立てがなく、光子魔砲で展開したバリアをいとも容易く突破する。つまり一撃必殺の武器を持った敵という事だ。

 

「こいつは見つけ次第真っ先に始末しないといけない」

 

 といったところで最後。最もヤバいベクターこと超大型ベクター、全長十五キロメートルもある災害モンスター。見た目は女王蜂そのもの、リオが付けた名前はベクタークイーン。

 このベクタークイーンの恐ろしいところは何もサイズだけではない、なんとこのベクタークイーンは魔砲を使うのだ、フレアブラスターと同等かそれ以上の火力をもつ破壊光線を放つ事ができ、それで蹂躙された惑星の数は両の手で数えられない。

 

「魔砲を使うベクターか」

「そう、優秀な前クルーが命を捨てるしかないのも理解できるよな」

「しかも心臓を少し抉られてもピンピンしてるんですよね」

 

 異常なサイズと強靭な生命力、そして惑星を蹂躙する火力をもつ魔砲。

 もし今ベクタークイーンと出会ってしまったらまず生き残れないだろう。

 

「さ、講座はここまでにして持ち場に戻ろう。もうすぐ武装惑星デルニアだ」

 

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