第三章
第11話 星域に破壊が満ちる時 ①
超大型ベクターに戦々恐々としつつも自分達のやる事は変わらない、変える訳には行かない。彼等は旅を続ける事を決めたのだった。
物資の積み込みを終えて間もなく、W.E.Sガリヴァーはキュービックを出港してエーテル界の旅に戻る。
その目的地は。
「武装惑星デルニア?」
「はい、ここから約三〇〇光年の所にある星です。エンシワ連盟軍の前線基地がありますので、まずはそこを目指すのが宜しいと思われます」
「途中で連絡もつくかもだしな、どれくらいで到着するんだ?」
「順調にいけば一ヶ月後ぐらいかと」
進路を定めて自動運転を設定する。
「ドロイド達の稼働状況はどうだ?」
「問題ありません、仕様書通りまるまる二年フル稼働しても大丈夫でしょう」
「流石はキュービックの機械だな」
キュービックで仕入れた物資の中にドロイドという物があった。大きさは一メートル半ぐらいで、ドラム缶に手足が生えたような見た目をしている。
これは人手不足を危惧した前クルーが用意してくれた物で、起動するだけでガリヴァー内のあらゆる部署へ駆けつけて仕事をこなしてくれた。
納品された数は二十体。ブリッジに二体、医務室に一体、残り全てを機関室に配属した。
ひとまずヒデが過労死する事は避けられそうでホッとしている。
「さて、じゃあちょっとブリッジを離れるわ。あとを頼む」
「はいかしこまりました、艦長はどちらへ?」
「厨房へ、料理しに!」
もうゲテモノをゲテモノのまま食べたくない!
そんな思いを抱えてリオは今、必死に料理を勉強している。食材を無駄にしたくないのでほぼイメージトレーニングだが。
本日のゲテモノ食材は。
「えぇと何何? ミジェリモ草というのか、ふむふむミネラルやビタミンが豊富なのか。まずは茹でて調味料を掛けて食べるところから始めよう」
このミジェリモ草、かなり厳重に封をされており開けるのに一苦労する。なんでこんなに厳重なのかと訝しみつつ、やっとの思いで開封した瞬間。
「くっっっっっさあああああああ!」
シュールストレミングというものがある、生物兵器と称される程の臭さを誇る食べ物だ。狭い室内で開けるとあまりの臭気に耐えられず気絶するらしい。
あいにくリオはシュールストレミングを食べたことはないが、きっと同じくらい酷い匂いなのだろう。
リオはその場で気絶した。
――――――――――――――――――――
武装惑星デルニアへ向けて旅を初めて早くも三週間が経過した。この間に何か特別な事は起きていないが、ちょうど三週間が経過した今日、ついにベクターと遭遇してしまった。
出てきたのは全長四〇〇メールの中型ベクター、甲羅のようなものを背中にもち、頭にはハサミのような鋭利なものが生えていた。シルエットだけみたらタガメのように見える。
「火炎魔砲フレアブラスター発射!」
タガメベクターの群れに向けて放たれる炎の濁流は、周辺の隕石片もまとめて燃やし尽くしていく。相変わらずエゲツない火力を再認識しつつ、生き残ったベクターがいないかを確認してから再び進路を武装惑星デルニアへ向けて速度を上げる。
「ふぅ、まさかこのタイミングでベクターがでるなんてなあ」
「この辺りにも奴らの群れがあるのでしょう」
「さっきのやつはタガメベクターと名付けよう」
「そのまんまですね」
「分かりやすくていいだろ? てか連盟の方でも名前ついてたりするのか?」
「連盟では小型や大型などザックリとサイズで分けています」
「なーる。そろそろデルニアと連絡つくんじゃないか?」
「それが、既にデルニアの通信圏内に入っているのですが、さっきから繋がらないのです」
「ふむ、何かあったのかな」
嫌な予感はするが、ひとまず警戒体制を解いて気を緩める。通信は定期的に試みるよう副長に頼んでから損傷箇所の確認を行う、今日は寝るのが遅くなりそうだ。
一通り確認作業を終えて休もうとする頃には夜も更け……とは言ってもエーテル界はどれだけ時間が経とうが濃紺色なので変化はない。時計の数字で判断しているだけだ。
寝室へ戻らず、エーテル界を見渡せるラウンジでボーと星々を眺めていると、パジャマ姿のドクターとバッタリ出会った。
「お疲れ様ですリオさん、何してるんですか?」
「いやちょっと考え事してただけ、ドクターは?」
「ボクは小腹が空いたのでおつまみに」
「未開封のミジェリモ草が残ってるよ」
「それは勘弁してください」
勘弁してやろう。調理するために匂いを完全シャットアウトする専用のボックスを用意したのだから今ミジェリモ草が無くなるのはやはり避けたい。あとボックスを早く試したい。
「リオさんは何を考えてたんですか?」
「まあ大した事じゃないんだけど、家の事を考えてた」
「家ですか」
「俺の実家はブドウ農家やっててさ、そろそろ摘粒の時期かなあて」
「へぇ、農家の息子さんだったんですね」
「田舎の方だから結構大きいんだぜ、従業員も二十人くらいいるし」
「じゃあ将来は家を継ぐんですか?」
「いや、兄貴が継ぐ事になっててさ。今は確か東京の大学で経営を勉強してるって言ってたかな」
「リオさんて日本の人だったんですか、初めて知りました」
「名前でわかると思うんだけど、まあ日本だと名字が先だしな。普段は周りに合わせてリオ・シンドーと名乗ってるけど、日本だと俺の名は『進藤 理雄』ていうんだ」
ガラスにハァと息を吐いて曇らせて、そこに指で進藤理雄と書いてみせた。
画数多くて書くとイライラするなあと改めて思った。
「おお、漢字ってカッコイイですねー」
「そうなのか? そういやドクターには名前無いんだっけ?」
「ボクはノーム族なので名前が無いんですよ、普段は役職や番号で呼ばれたりしますね」
「へぇ、じゃあドクターに名前を付けてみたりしたり」
「ちなみにノーム族に名前をつける事は求婚を意味しますよ」
「あっぶねぇ名前つけるところだった!」
「ボクは別にリオさんだったら結婚してもいいですよ、農家の嫁っていいじゃないですか。ブドウも食べられますし」
「後半が本音かよ。だから継がないって、田舎だから何も娯楽が無いし変わり映えの無い日々だし、それが嫌で魔法留学をして家を飛び出したのに」
「今は、帰りたいですか?」
「そうだな……うん、帰りたい」
「帰りましょう、みんなで」
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