第2話 故郷への長い旅 ②
「シャトルベイですらでかい」
リオの感嘆もごもっともで、誘導ビーコンに従って案内されたガリヴァーのシャトルベイは溜息が出るほど大きかった。おそらくデッキ一つをまるまる使っているのだろう。
そうこうしてる内にシャトルベイの減圧が終わったらしい。
「念の為に出るのは俺だけにする。ヒデさんは、もしここの人達が悪い人だった時の事を考えて直ぐ逃げれるように」
「わかった」
そうしてリオだけがシャトルから降りて応対する事にした。
シャトルから降りておよそ二分、シャトルベイのドアが開いてドローンのような光る物体が入ってきた。人の頭ぐらいの大きさの球体型をしており、丸いという以外は外見上の特徴は無い。とりあえずドローンと呼称しておく。
「あんたが出迎え?」
そう尋ねたが、ドローンからの反応は無い。いや、話す機能は無いのかもしれない。
ドローンはリオの周りを一周した後、ドアまで移動して振り返った。
「付いて来いと?」
ドローンは上下に揺れてからドアを開けた。どうやら本当に付いて来いという意味だったらしい。
振り返ってシャトルを見れば、ちょうどヒデとドクターが降りるところだった。
「待ってろと言ったろ」
「そうは言うがな、シャトルの燃料があまり無いんだ。このまま飛んでも無事に済むかわかんねぇぞ」
「それに、リオさんを一人で行かせるのも不安なので」
「三人いりゃ何とかなんだろ」
「わかったよ、一緒に行こう」
こうして三人並んでシャトルベイを出てドローンを追いかける。通路に出た瞬間、三人の鼻腔をむせっかえるような不快な匂いが突き刺さる。鉄が混じった汚泥の匂いというべきか、とにかく気持ちの良いものではない。
また匂いの原因が直ぐに判明したのも不快感に拍車をかけていた。
「これ、この船のクルーの死体か?」
通路のそこかしこに死体が散乱しているのだ。
「ざっと見た感じ、鋭い刃物で切り裂かれたみたいですね」
「それにこいつらアルファース人でも地球人でもねぇ」
まず間違い無かった。ここにある死体はどれもアルファースや地球にいるどの種族とも一致しない。全く未知の種族だった。
殺され方が残忍なのはこの種族の特徴なのだろうか。ある死体は首が無かった、ある死体は上半身と下半身が分かれていて内蔵が周囲に撒き散らされていた。ある死体は足が、ある死体は左右で。
といった感じで五体満足な綺麗な死体は一つも無かった。
「何があったんだこの船で……もしかしてこいつらを殺した奴がまだいるんじゃないだろうな?」
「ありえるな、あのドローンも何かの罠って可能性もあるぜ」
「とにかく慎重に行きましょう」
死体を見たことでより気を引き締めた三人、ドローンに付いて移動する事数分、エレベーターシャフトのようなもので艦内を高速で移動した先に目的地があった。
そこに辿り着いたらドローンは壁に貼り付いて動かなくなった。
「ここは、ブリッジか」
シャフトを出て直ぐ視界に広がる空間、二段構造になっており一段目は操舵席と思われる席や火器操作盤らしきものが見える。二段目にはおそらく情報処理や索敵等のオペレーションシステムが配置されているよう。
おそらくそうなのだろうと予想がつくだけで、実際のところどうなのかはわからない。
ただ一つだけ確信を持って言える事があり、それは一段目と二段目の間に椅子が三つ並んでおり、真ん中の椅子だけ他よりも頑丈そうに作られている。間違いなくこれが艦長席だ。
「おかしい、ブリッジなのに誰もいない?」
リオ達が出て来たシャフトは二段目の隅、ブリッジの後ろだ。そこからでは座っている人が見えないのもあるが、ざっとみた限りでは人の気配がしない。
おそるおそる一段目まで移動し、更にギョッとする。
ほんとに人がいないのだ。どの席にも人が見当たらない。だが一つだけ、艦長席だけは違った。そこには立派な髭を蓄えた年配の男性がいたのだ。
シルエットが人の形をしているので地球人に近い生理をしていると思われるが、額に隆起があるのでやはり地球人ではない。アルフォース人でも無い。
「あんたが、この艦の艦長か?」
「……ああ、間に合ってくれたか」
どうやらリオが話しかけるまでブリッジへ入って来たことに気付かなかったらしい。瞼を開けて虚ろな瞳でリオを見つめる。
なにやら様子がおかしいぞと思い、ゆっくり近づくと理由がわかった。彼の口から緑色の液体が溢れていたからだ。
「あんた、それ……血……か?」
「あぁ」
「ドクター! 怪我人だ!」
「はい!」
ドクターが駆け寄り艦長の診察を始める。アナライズ魔法で身体を調べ、治癒魔法をかけて治そうと試みるが、直ぐにドクターが首を横に振ってしまった。
「ダメです、ボクの知らない身体構造をしているのでどう治療すればいいのか」
「見た感じ人間にみえるけど」
「内蔵が全然違うんです。肺も六つありますし、用途のわからない臓器が三つもあります。下手に治療すれば悪影響を与えて死期を早めてしまうかもしれません」
「気に……しないでくれ、どの道長くはもたない……うっ、ゴホッゴホッ」
「喋らないでください」
「いや、早くしなくては……見たところ、君が代表かな」
緑の血反吐を吐きながら、光の失せかけた瞳で艦長はリオを見つめる。
代表のつもりは無い、どうしようかと年長のヒデに視線を送ると、彼は無言で首を横に振る。ドクターは艦長を何とか治そうと集中している。そうするしかないらしい。
だからリオは覚悟を込めて「そうだ」と返した。
「名前は?」
「リオ……進藤」
「そうか、リオ……ゴホッ……君にこの艦を託す」
「なんだって!?」
「艦長権限により……はぁ、はぁ……リオ……シンドーに全権を委譲する」
「おい待ってくれ! 俺は軍人じゃない! 士官訓練なんて受けていないぞ」
『承認されました。これより艦長はリオ・シンドーです』
否定するも束の間、どこからか機械的な音声がそのような文句を発した。どうやら本当に民間人のリオが艦長に選ばれてしまったらしい。
「嘘だろ」
「押し付けてしまって、すまない、だが良かった……間に合っ」
それだけ呟いて、艦長はぐったりと力を失ってしまった。誰が見てもわかる、彼はもう死んでしまったのだ。
わけもわからないまま艦長になってしまったリオ、正直戸惑いが先にきて頭の中がぐちゃぐちゃしてしまって冷静になれない。
「なんなんだ一体、俺達は何に巻き込まれたんだよ」
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