中3編  佐藤の恋

 ある日の部活、


 佐藤『俺さ、最近好きな人できたんだよ。卓球部の天野さん。』


 田中『えっ天野さん?何で?』


 佐藤『いやぁー何かあんまりスポーツとか得意そうじゃ無いのにさ、一生懸命やってる感じとか。バレーボールのコートに卓球ボール転がって来た時恥ずかしそうに取りに来るのとか。あの細い腕、何か守ってあげないといけない気がする。』


 田中『何言ってんだよ笑』


 佐藤『それにクラス一緒で最近よく話す。何でだろうなどうでも良い女子とは、雑に話せるのに、天野さんにはすごい言葉選んじゃうんだよな〜』

『天野あおい、最近天野さんからあおいと呼ぶ様になったんだよ。』


 田中『えっもう名前呼んでるの?』


 佐藤『んーん頭の中でだけ笑』


 田中『キショー笑』


 佐藤『いつか現実のものになる日が来るから練習みたいなもんよ笑』


 田中はキショイという言葉で佐藤の妄想を片付けた。しかし田中は、高美さんの事を名前で読んだ事もそもそも高美さんと声をかけた事すら無かった。

 佐藤と天野さんの関係の方がよほど進んでいると思った。何と呼んで良いのか考えた事はあったが答えが出ずに何となく切り抜けている。


 佐藤『ピンポン、ピンポン、転がって来たぞ。』

『天野さーんはいこれ』


 そう言って体育館のセンターネットの隙間からピンポン玉を投げる。天野さんがありがとうを言ってお辞儀する。


 佐藤『本当いつもいい顔してるよな。彼氏いるのか気になるけど聞けないんだよな〜』


 田中『てか佐藤わざわざピンポン玉転がって来る場所でパスしてたのこの為か?』


 佐藤『当たり前!!』


 田中『いや当たり前って、そのうち好きなのバレるぞそんな事してたら。』


 佐藤『こっちが好意がある事バレてもいいじゃん。好きなんだし、むしろ気づいてもらいたい。』


 田中『いやそしたらフラれて終わってその後話せないぞ。』


 佐藤『今もまともに話せてないから、もっといろいろ知りたいし、誰かの彼女になるの嫌じゃん。』


 田中『お前よくそんな事普通に言えるな。笑』


 佐藤の言っている事も田中には良く理解できていた。自分の考えや気持ちを表に出す事が苦手な田中は、佐藤のように周りのリアクションを考えずに話せるのは凄いと思った。もちろん同意したのだが気持ちが分かると言うと好きな人がいるとバレると思い言わなかった。


 好きな人と一緒に居たい。自分の知らない事があると少し嫌だ。もっと知りたい。目で追ってしまう。など恋に落ちた人は考えるであろう事を、人に言う事は田中にとっては、他人にキモイと思われてしまう言動だと考えていた。

 キモイと思われない。人に引かれないように心掛けていた。


 佐藤『田中は好きな人いないの?』


 田中『いない。』


 田中は佐藤のように素直に言ってしまいたいと思ったが、素直に自分の胸の内を話す事に慣れていなかった。そうしてきた事がほとんど無かった。

 田中の今までの経験値ではそれが出来なかった。


 佐藤『えぇーつまんないなぁー』


 田中『つまんないの基準が分からん』


 佐藤『俺、夏の大会までに付き合って、天野さんに、いやっ…あおいに応援に来てもらうんだ。ダサいとこ見られたくないから練習する。』


 佐藤は普段ふざけているが、真面目な顔でそれを言ってバレーボールに集中し始めた。


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