生命の樹

 わたしと父が、ニューラグーンにやって来て10年近くになる。父は最初は

「ここが第1歩だ。どこまで出世するかな?」

 と、意気揚々であったが、いまでは

「年寄りになったもんだ」

 と、卑下することが多くなった。


 彼女がヘラヘラ笑いながら、ぼくに向かってこう言った。

「よく、考えてみたら、あなたって、どこにでもいる、ふつうの男の子ですね」

「どこをどう、考えれば、そういう結論ににゃるんだ?」

「だって、わたしが好きにならなかったんだから」

「……そりゃ、どうも。光栄の至りにゃ」

 ぼくは舌打ちをした。


 ヌヴィエムは書類を確認している。そこには腐敗に立ち向かう女性市長について経歴が書かれている。

 彼女を仲間に加えるべきだ、とヌヴィエムは思った。

 ヌヴィエムは、共和国の中道政党である、民政党の幹部である。来るべき選挙に勝つために、候補者情報を集めているのだ。腐敗に立ち向かう女性市長。素晴らしいではないか。

 彼女なら、一緒に活動できるかもしれない。

 ヌヴィエムは市長室のドアをノックした。中から返事が聞こえる。彼女はドアを開いた。ヌヴィエムは、市長の執務机の前に立っていた。彼の前には、共和国議会の紋章がプリントされた旗が置かれている。女性市長は、書類にサインをしているところだった。

 彼女は、ペンを机に置くと、顔を上げた。ヌヴィエムと目が合う。彼女は微笑んだ。

「こんにちは、ヌヴィエム議員」

「こんにちは、市長」ヌヴィエムは握手をしながらあいさつした。「お会いできて光栄です」


 獣人の少年がシクシク泣いている。ある者が

「どうかしたのかい?」

 と、尋ねると、少年は

「うん。買い物に出たら、お金を落としちゃって、お財布が見つからなくて……それでお母さんが凄く心配しちゃって……ヒック……グス……」

「それは大変だね」

「確か、あの辺りだったよね」

 と、指さした場所を探すと……。

「あった!」

 と、少年の声が聞こえた。どうやら見つけたようだ。

「おじさん、ありがと!」

「うん、もう落とさないようにな」


 9月1日

 ボクが彼女にルームシェアを持ちかけられたのは、夏頃のことだった。

 関係性は大学の講義でたまに会う関係。

 そんなボクに

「いっしょに住まないっスか?」

 と、メガネかけた耳付きの女の子が誘ってくれたのだ。

「うん、良いよ?」

 とくに疑問に思わず、ボクは答えた。

 今。

 ボクは絵を描く以外は何も出来ない彼女のために、主夫みたいになってる。彼女曰く

「ウソは言ってないっスよ〜。いっしょに住もうはほんとだも〜ん!キミが『いいよ』って言ったんスよ!」」

 とのことだ。


 ミーシャは祈っている。

 かれは妻を失ってから荒んでいたが、娘だけがかろうじて世界とミーシャの接点であった。

 しかし、娘であるキムは死に至る病にかかっている。彼女は

「安心して、大丈夫にゃ」

 と、かれを安心させようとしたが、明らかに衰弱している。

 かれは今、寺院で神に祈っている。

「どうしたのです」

 背後から問うたのは『先生』と呼ばれる寺院の主人。

「先生、娘が……」

「……わかりました。わたしにも、できることがあります」

『先生』は何処かに連絡する。

 しばらく時間がたって、看護師がキムを連れて寺院にきた。

「先生!この子を治せるって」

「ええ、多少の心得はあります」

「先生!お願いしますにゃ!娘を治して下さい」

 ミーシャの縋りつくような哀願に、『先生』は頷いた」


 彼女がその男に出会ったのは、ニューラグーン大学の講堂を歩いているのを見たときだった。

 そのエキゾチックな顔をみて気になった彼女は、友だちに

「あの方、誰かしら?」

 と、訊いた。友だちは

「ええ、知らない?どっかの国の皇太子らしいよ」

 と、教えてくれた。

 次の日、食堂で昼食を食べてるらしいかれに彼女は話しかけた。

「皇太子様。ご機嫌いかがですか?」

 相手はちょっと驚いたようだったが、すぐににこやかに笑って、

「おかげさまで」

 と、答えた。


 オーベンドルフは騒乱が鎮圧されたばかりの喧騒の中を歩いている。

 かれは皇帝直属の衛兵隊出身であったが、任務に真面目すぎたために、ここグリッサの駐留軍司令官になった。

「反乱分子の鎮圧完了しました!」

 部下の報告にうなずいたオーベンドルフは、こう付け加える。

「ああ、あと、治安部隊の連中にちゃんとやれと言っておけ」

「了解しました!」


 ニューラグーンにある倉庫。

「手を挙げろ!」

 ガヤガヤとやってくるニューラグーン警察のSWATに犯罪者たちは白旗をあげる。

「目的はなんだ!」

 犯人のリーダーを囲んでいる中でかれらを追い詰めていた捜査官ロムが声をあらげる。

「この街の女達に地獄を見せようと思っただけです……」

 犯人たちはその手に赤いバラをもっていてその犯行内容を発表したのちにパトカーに乗せられていった。

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