ある宇宙生命体の日常

 1つの星が滅んだ。その星に住んでいた肉体のない精神だけの生命体も1体を除き滅んだ。

「この娘だけは、助けなくては……」

 小型宇宙船に少女の精神体が乗せられ、飛び立った。

 幾億光年を超えて、少女はニューラグーンという都市の郊外に降り立った。

 彼女は、親に捨てられたか、事故でそこに落ちたのかわからないが、宇宙船の近くにいた赤ん坊に取り付く。

「なんだ、これ」

「子どものいないわたしたちにコウノトリがきたのよ」

「そうか、そうだな」

 たまたま、良い老夫婦に発見された少女はサラと名付けられる。

 やがて彼女には、家を持ち上げる怪力や思考を読むことができるなど、特殊な力があることが分かったが、老父が

「力を過信しすぎると傲慢になる。できる限り抑えなさい」

 と言われ、できる限り制御することを覚える。

 そうやってサラはすくすく育ち、今はニューラグーンタイムズという新聞社に記者見習いとしてアルバイトしながら、エスカレーター式のニューラグーン大学高等部に通っている。

 今日も、学校から帰る途中だ。

「ねえ、聞いた? 例の噂!」

 サラが友人のシャーロットに声をかけられる。

「ううん、知らない。何?」

「ほら、今、この辺りで行方不明事件が多発してるじゃない。それで警察が血眼になって捜査しててさ、それで行方不明者が出たらすぐ報道されるのよ。でも、報道されない人もいるんだって」

「えっ!? それって……どうなるの?」

「それがね、突然消えた人はどこを探しても見つかんないんだけど、突然現れた人がいるんだって! それも結構な人数」

「どういうこと?」

「だからね、ある日突然消えたけど、しばらくしたら戻ってくるらしいの」

「あー! あるよね、そういう話。私もそういう噂を聞いたことがあるわ」

「でしょ?だからさ、実は行方不明事件はもう解決したんじゃないかとか言われているんだよね」

「じゃあ、そのうちニュースにも出るんじゃない?」

「そうなんだけどさ、不思議なことに全然ニュースにならないんだよ。まあ、まだニュースになるほど件数がないだけかもしれないけど」

「へぇ、そんな話があるんだぁ」

 そんな話をしていると、また行方不明者が見つかったとの速報が入った。

「おっ、今度は男だってさ」

「よかったね」

「いやぁ、やっぱり未解決事件のニュースなんてこりごりだよ。平和が一番だね」

 シャーロットが言う。その時、突然強い風が吹いて彼女のスカートをめくった。

「きゃあっ!!……って、あれ? 誰も見てなかったかな?」

 彼女は周囲をキョロキョロ見渡す。

 だが、周囲には誰もいなかった。

「気のせいだったみたい。ふぅ……」

 彼女はホッとしたような顔をする。その頃、サラは1人で考え事をしていた。

(シャーロットの話だと、人が消える時は誰にも見つからないように消えないといけないのよね)

 そして、先ほどの強風を思い出す。

(もし誰かに見られたとしても、すぐに風が吹き消してくれる。……ということは、まさか)

 彼女はある可能性を思いつく。

 それは突拍子もないことだった。しかし、一度思いついてしまえば、それを振り払うことができない。

 彼女はその思いをシャーロットにぶつけることにした。

「ねぇ、シャーロット。ちょっと聞きたいことがあるんだけどいい?」

「ん? なに?」

「もしもだけど、ある日突然あなたが姿を消したらどう思う?」

「はぁ?……いきなり何を言ってるのよ?」

「例えばの話よ。どんなことを思っても構わないから」

「そりゃあ寂しいでしょうね。親友がいなくなるわけだし。でも、いなくなったものは仕方ないし、そのうち忘れるかしら」

「そっか……」

 サラは考えていた。もしかすると、これは自分の力が必要なのではないか? 彼女は決意を固めた。

 そして、数日後。

 サラは学校が終わるとすぐに帰宅し、自室に籠もっていた。

 いつもなら友人たちと寄り道をしたり、喫茶店でおしゃべりしたりもするが、今日だけは違う。

(これで本当にうまくいくのかわからないけれど、やってみよう)

 そう考えて彼女は行動を開始した。

 まず最初にやったことは、自宅周辺に住む人々の思考を読み取ることだ。

 そして、彼女が考えた仮説が正しいかどうかを確認するために実行したのが、近所で起こる連続失踪事件に自分が加わることであった。

 事件が起こる前日、サラはその日、アルバイト先の新聞社で記事の下書きをしていた。

「サラちゃん、ちょっと休憩したら?」

「ありがとうございます。じゃあ、そうしますね」

 新聞社には他にも記者がいるが、彼らはサラの能力を知らない。そのため、彼女に対して優しく接してくれていた。

「ふう……。よし、続きを始めますか!」

 彼女は自分に気合を入れると、再びキーボードを叩き始めた。

 サラの仕事ぶりはとても真面目で、他の記者たちにも認められており、新聞に載せるための下書きを任せられることも多くなっていた。

 彼女は集中して作業を進めると、夕方になって新聞社を出る。

「じゃあ、お先に失礼します!」

「おう、サラちゃん。また明日な!」

「はい!」

 サラは帰り道を歩く。そして、思考を読むことも怠らない。

「……特におかしなことはないわね」

 サラは自分の考えすぎではないかと思ったが、念のためだ。

 自宅まであと少しというところで事件が起こった。

 突如として激しい頭痛に襲われたのだ。

「くっ! 頭が痛い!」

 彼女はその場でうずくまると意識を失った。

 しばらくして、目が覚める。だが、そこは見知らぬ場所であった。

「ここはどこ?」

 起き上がってみると、どうやら洞窟の中のようだ。

 周りを見ると、そこには大量の死体が転がっている。

「うっ!……気持ち悪い。一体何があったの?」

 彼女は混乱しながらも立ち上がると出口を探すため、その場を離れようとした。その時、声が聞こえた。

「おい、お前」

「誰!? そこにいるの!?」

「ほう、まだ生きているとは、やっぱりな」

 その声は、洞窟の奥から聞こえる。やがて、黒い影が現れる。

「あなたは?」

「オレの名前はガイスト。あんたのお仲間さ」

「じゃあ、誘拐事件も……」

「そう、オレが犯人だよ」

「どうしてこんなことを?」

「この星を手に入れるために邪魔な連中を排除するのさ」

「なんですって!?」

「ああ、そうだ。だからこの肉体もただの器に過ぎない」

「それで、みんなを殺したの?」

「ああ、そうだ」

「なぜ、わたしだけ生かしたの?」

「簡単さ。お前も死んでいるはずなのにこうして動いている。つまり、お前も『精神生命体』なんじゃないかと思ってな。だから試してみたのさ」

「そう……」

「さて、せっかくだし、色々教えてくれないか? オレはこの星のヤツラに復讐をしたいんだ」

「無理よ。私はあなたの味方じゃないもの」

「そうかい。それなら殺すしかないな」

「残念だけど、殺されるつもりはないわ」

「ほぉ……やってみろよ」

 サラは能力を解放した。

「やれるもんならね」

「へぇ……これは驚いた。面白いじゃないか」

「覚悟しなさい」

 彼女は能力を使って攻撃する。だが、それは簡単に防がれてしまう。

「なかなかの威力だ。だが、それだけだぜ?」

「まだまだ!」

 彼女はその後も何度も攻撃を仕掛けるが、全てかわされてしまう。

「どうやら無駄のようだな。……じゃあ、こっちからもいくぞ!!」

 そう言うと、彼は手から衝撃波を放つ。サラはそれをギリギリで回避する。

(このままじゃあ、いつか追い詰められる。……だったら)

 彼女は一か八か賭けに出ることにした。そして、相手の隙を狙って一気に詰め寄る。そして至近距離で全力の一撃を放った。

「喰らいなさい!」

 しかし、相手はそれさえも避けてしまった。

(嘘でしょ!?)

 そして、今度はこちらに狙いを定めてきた。彼女は慌てて逃げる。

「おっと、逃がさないぜ」

 サラはすぐに追いつかれそうになる。

「……きゃあっ!」

 逃げ切れずに攻撃を受けそうになった時、突然ガイストの動きが止まった。

「なんだ……体が動かん!」

 サラは咄嵯の判断で、自身の能力を使い、相手の動きを止めることに成功したのだ。

「よしっ!」

 彼女は渾身の一撃を放つと、ついに相手を倒すことができた。そしてその後、急いでその場を後にするのであった。

(危なかった……)

 あの様子ならしばらく動くことはできないだろうと判断しての行動だったのだが、その読みは当たっていたようだ。なんとか逃げ切ることに成功するのだった。


 それからしばらくして、サラは自宅に戻ってきていた。

(やっぱり、あれは私の能力じゃなかった。もしかすると他にも私と同じような人がいるかもしれない)

 彼女はふと考えてしまう。

(あの力はどこから来るんだろう?なぜ私だけが使えるんだろう?それにどうして私のように考えることができる人はいないのだろう?)

 そんな謎を解くにはどうしたらいいのか考えても答えが出ないままであった。

 ともあれ、ガイストをなんとかしないと。


 翌日、洞窟に来たサラが見たのは、ガイストの死骸であった。

「まさか、あんな強いヤツを倒したやつが?」

 サラは死んだはずのガイストが動き出すのではないかと身構えたが、もう動くことはなかった。

「終わったのね……」

 彼女はほっとした表情を浮かべた。そして、自宅に戻ろうとしたその時である。彼女を呼ぶ声が聞こえた気がしたのだ。サラは声がした方向へ行ってみようと思ったのだった。

(一体、誰の声かしら)

 もうずっと聞いていないような気がする声だった。

 その声がどこから聞こえてくるのかまではわからなかった。ただ直感に従った彼女は、声がする方へと向かった。

 洞窟の中を歩いていくと、次第にその声が強くなっていくのがわかる。そして、洞窟を出るとそこは森の中であった。

(こんな場所に来たかしら?)

 そう思って振り返るとそこには遺跡のようなものが存在していた。恐る恐る中に入っていくと、そこには多くの石像が建てられていることに気づく。さらに奥に進むと大きな扉があった。サラが入るかどうかためらっていると突然後ろから声をかけられた。振り向くとそこには黒い人影が見えた。

「まだ来るべきときではない」

 その声と同時にサラの意識は遠のいていった。


 そうして、サラと周囲は日常を取り戻した。

 サラはいつか仲間と出会える日を楽しみに待っている。

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