三都市物語
トリニティの来歴
大陸東側の共和国よりの海岸部に3つの都市があった。すなわち『ヴェスティア』『ベルギカ』『ラコネス』である。
ヴェスティアはかつて帝国と互角の戦いをしたという海洋国家が作った都市である。海上交易や観光地・海水浴場として、また海賊団の棲家としてしられている。
この地は一代の英傑静海の出身地であり、この都市の力を背景に静海とその一族は大陸中に雄飛していった。しかし、その繋がりのために、静海死去とその一族の没落の影響をもろに被ってしまう。
そうしてヴェスティアに攻めてきた帝国軍を鷹目と呼ばれた耳付きの海賊が、たった1名で倒してしまう。
無数のATを生身で退けたかれに市民たちは歓呼の声を上げたが、鷹目自身は
「そんなめんどくさいこと、勘弁してもらいたい」
と、英雄ではなく1市民として過ごしたという。
このあたりでは、独自の音楽文化があったというが、いわゆる三国時代に入ったこの時点では消えかかっていた。それに危機感を覚えたロドルフ男爵というものが楽団を作り、また『ヴェスティア音楽の理論と実践』を著した。それでこの地の音楽は残っているのである。
さて、帝国襲来後の混乱を治めたのは、ローリングスのいうもので、もともとは軍士官であったが、静海に批判的であったため収監されていた。
その後、混乱の最中、解放されたローリングスは、ヴェスティア革命評議会議長に就任し、静海に群がっていたものたちを処罰していった。曰く
「これは改革ではにゃい。わたしが求めているのは、この街を根本から変革していく、革命そのものである」
不思議なことに、鷹目とローリングスは生涯盟友であったという。
鷹目はその印象的な瞳で、世間の女性たちを魅了していたという。それがどれほどであったかは、ヴェスティア中でかれの瞳の色であった青みがかったグレーが当時の流行色となったことに表れていた。
ベルギカは帝国と共和国の緩衝地帯に存在している都市で、両者から任命された代官が市政に関わらない象徴的君主として存在している珍しい都市である。
この都市が知られるようになったキッカケは、アルトウェルペン氏を隊長とした南極探検であろう。乗っていたジェルラシ号が氷に閉じ込められるなどの危難に合いながら、ペンギンやクジラを観察したり、初めて南極近辺の地図を作るなどの偉業を成し遂げたのである。
この都市出身者として悪名高いのはロウアイというもので、この女たらしの行状については、ベルギカのある官吏の述懐がすべてあらわしているだろう。
「このものの大きな存在感には滑稽な一面があった。ハナシをこしらえることができたばかりか、思いがけない出来事が起こるたびに、それに即興で合わせて、結論を自分のものにしていくことができた。がさつな話ぶりに機知のようなものがなかった訳ではない。かれがその場にあらわれると、きっといい気晴らしになるぞと、みなが思うのだ」
ベルギカの市外にある小さな集落の住民は傭兵として知られていた。最盛期には50名ほどいたともいう。かれらはいわゆるスナイプ能力に長けていたため、3都市を中心に重宝されていた。
ラコネスへ戦火から逃げてきたものが、ラコネス市民に助けを求めて、自分たちの困窮ぶりに見合った長さの口上を述べた。それに対して、ラコネス市民たちは
「ハナシが長い。最初は忘れたし、後半はわからん」
と、返答した。戦火から逃れたものはすると、からっぽのフクロを指差し
「このフクロには食料が入ってない」
と、言った。ラコネス市民は
「わかった、援助しましょう。それにしても、『このフクロ』は冗長すぎる」
と、述べた。
ラコネスは、このようなある種の簡潔さとムング教徒としての厳格さがあった。これらのシステムを作ったのは、
かれらの生活を支えていたのは、市外民の労働と、アニマの採掘地の近くにあったことからの、アニマ資源による富であった。
この地になぜムング教徒が根を張ったかというと、もともとムング教徒はその数を増やしつつも迫害されてきたが、あるとき、とうとう帝都にあった大きな寺院を燃やされる事態が起き、ラコネスに移転せざるえなくなる。マクシミリアン帝の時代に講和が成立し、ムング教ラコネス派と呼ばれたかれらは繁栄していくことになる。そして、ムング教と市行政は共存共栄の関係となった。ラコネス派の伸長と市の繁栄が一致したのである。
帝国東部は伝統的に帝都や帝室との仲が悪かったのだが、ヴェスティア、ベルギカ、ラコネスの3都市は例外で、帝国による東部や南洋諸島の統治もトリニティとも呼ばれるこの3都市を通して行われていた。その統治範囲はさらに広がり、宇宙開拓の帝国側代理人となる。そして、グラリス帝の頃には、トリニティは協定諸勢力の宇宙開発のために作られた
それらのことについて、ヴェスティア市長だったガイオス氏はこのように語っている。
「われわれは帝国諸侯の中でも小さく、外国軍隊を受け入れた地域であった。しかし、他の地域と違い、われわれはそれを隠そうとも思わない」
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