トリニティの市民生活

 ラコネスで市民権を持っているものは、みな戦士としての教育を受け、生き残った少ないものたち以外は戦士として生きる。

 犬頭の獣人、パロパロもその中の1名であった。

「おい!パロパロ!ちゃんと仕事しろよ!」

 そういって、同じ班の仲間である男がパロパロを叱る。

「わかってますよ」

 パロパロはそういうと、自分の持ち場についた。

 今やっている野外授業は、森の伐採だ。

 このあたりの森には、危険な動物こそ生息してないが、たまに飛んでいる航路が近くにあるのか、迷い込んだドラゴンのような大型の生物が出ることがある。

 そのような危難から身を守るため、こうして定期的に木を切り倒しているのだ。

 そして、切り倒した木材を使って家を作ったり、薪にしたりする。

 今は冬のためあまり燃料が必要なわけではないが、暖をとるためにはやはり火が必要となる。

(めんどくせえ……早く終わらねえかな)

 パロパロは大きな斧を振るいながら心の中で愚痴った。

 だが、そんなことを口に出したら殴られることぐらいはわかっていた。だから、決して口に出したりしない。

 それにしても今日はよく晴れているなぁと思いながら空を見上げる。

 雲一つない青空が広がっている。

 しばらくすると作業が終わったのかみんな休憩に入ったようだ。

「おーしお前ら昼飯にするぞぉ!!」

 教官の掛け声とともに皆昼食をとり始めた。

 今日のメニューはパンと干し肉だった。

 食事を終えると再び作業が始まった。

 しかし、今度は丸太を運ぶのではなく、枝打ちをするらしい。

 枝打ちとはその名の通り木の枝を切ることだ。

 それが終わると、また丸太運びに戻った。日が落ち始めてきた頃ようやく作業が終了した。

 その後、解散になり各々が自分の家へ帰っていった。

 パロパロも家に帰り夕食をとったあと寝床に入り眠ろうとした。

(ああ……明日こそ何も起こらないといいなあ)

 などと考えつつ眠りにつくのであった。


 ヴェスティアの海賊にクウという女性がいた。

 彼女はすばしっこく、まるでサルのように身軽であった。

 ある日のことだ。クウはいつものように海賊として、船の間をぴょんぴょん跳ねていた。そんな時だ。彼女の足がマストを蹴った拍子で縄梯子がするりと落ちてしまったのだ。

 彼女はなんとかして登ろうとしたのだが、その様子では登れる見込みはなく、諦める他ない。彼女は下にいる海賊たちに助けを求めたが……

「クウ!危ねぇ!」

 と、誰かの声と共に上から何かが落ちてきた。それは彼女が登るはずだった縄梯子だった。そして落ちてくるそれを受け止めたのはなんと彼女より先に登っていたはずの海賊の男だった。男は彼女を庇って落ちたらしい。

 男はそのまま意識を失ってしまった。しかし、幸いにも命には別状がなかったようだ。それを聞いたクウはすぐに彼の元へ向かった。

 彼はベッドの上で寝ているようだったが、どうやらまだ眠っているようで目を閉じて静かに呼吸をしていた。

 クウは彼のそばに行くとその手を握った。すると彼が目を開ける。

「ここは……」

「よかったぁ……。もう大丈夫だよ」

 そう言って微笑む彼女につられて彼も笑顔になる。

「お前のおかげか?」

「えっ?あー違うよ。これはたまたまだから気にしないでいいからね」

「いや、それでも助けてくれたんだろ?ありがとよ」

 そう言う彼にクウは照れくさそうな顔をした。

 それから二人は仲良くなったらしく、よく一緒にいるところを見かけるようになったそうだ。


 ベルギカ在住のヨーゼフは市の林務課に勤める小役人である。

 仕事は市内外の木の健康管理。

 ある1点以外は特筆すべきことのない人生を送っていた。

 ただ、かれにはある奇癖があった。

 あらゆる建築物に

『ヨーゼフ来たる』

 と署名して回るのである。その行動は実に謎めいており、ヨーゼフ自身の言葉によれば

「建築を見ればそれが誰の手によって造られたか判る」

 というのだ。

 事実、ヨーゼフが建てた家は全て評判になり繁盛していたし、 建築家や職人の間では有名だった。

 しかしそれは彼の能力ではなく単なる趣味だと理解されており、また本人もそう言いふらしていたため誰も本気で相手にしていなかったのだが……。

 今年に入ってから、ある事件が起こりヨーゼフの能力は証明される運びとなった。

 2年ほど前になるだろうか。この都市に住むとある大商人が奇妙な噂を聞きつけた。

 市外れの森の奥にある古びた屋敷に、いつの間にかヨーゼフという男が住み着き、様々な建物を設計していると言うのである。しかもそれらはどれも素晴らしい出来で人気も高い。特に酒場や劇場などの娯楽施設はその機能性・利便性の高さから市民の話題になっていた。

 大金を持った市民の間でも噂になっておりヨーゼフは金持ち連中の間でもちょっとした有名人になっていたのだ。

 そしてその噂を耳に挟んだその大商人はさっそく森を調べさせヨーゼフを発見させた。しかし、その時はすでに遅かった。

 上役の林務課長は、ヨーゼフの能力を認めながらも

「あの男は信用できない。もしあの屋敷に住むようなことがあれば追い出させるように」

 と忠告をしたのだが……。その日、ヨーゼフの屋敷に火がついたのである。

 原因は分からない。放火魔の仕業とも思えるし何らかの事故で自然発火したという可能性も否定はできない。

 ただ言えることは、突然の出来事だったということだ。何の前触れもなく唐突に屋敷全体が炎に包まれたのだ。

 その火災の後、ヨーゼフを見たものはいない。


 ベルギカにある観覧車は全面白で、街並みに美しく溶け込んでいる。昼はベルギカの街を一望でき、夜は夜景も堪能できる。乗った者曰く

「空に浮かんでるみたいで楽しかった」そうである。

 いまでも、恋人たちはここをデートスポットとして活用しているらしい。

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