キングズ・ロー管理区
キングズ・ローは帝国領内にある資源財団の自治都市の1つであり、その周辺地域を行政区画とした管理区である。
10月3日午後2時ちょうど。キングズ・ロー市庁舎。
「はい、ご用件はなんでしょうか?」
「下水道が破裂したみたいなんだ、確かめてくれ」
「承りました」
そうして市の職員たちが、下水道を調べることになった。そして彼らは、すぐに原因を突き止めたのだった。
「これは……! 大変ですにゃ!」
「どうした!?」
「下水管に亀裂が入っていたようですにゃ。そこから水が漏れて、それがマンホールを押し上げてしまったんですにゃね」
「なっ……!」
「このままでは危険ですにゃ。今すぐ修理しましょうにゃ」
「あぁ、頼むぞ」
こうして市は水道局に連絡を取り、職員を派遣してもらった。
そのおかげで無事に下水道の修理が完了し、市民の生活を守ったのであった。
10月4日正午。東ハイツ5号室。
「ああ、まったくもう」
グチる翔子をみて、カナエは訊いた。
「どおったの?」
「……またフラれたよ。あー、なんでだよ!」
「またかぁ……」
カナエはため息をつく。
「今度はなにしたん? 翔子ちゃんがフるとこなんて想像できないんだけどぉ」
「べつにフッたわけじゃねーし! たださ……あいつらわたしと付き合っても面白くないって言うんだぜ!? 意味わかんねぇ!!」
「う~む、そう言われてもぉ……。じゃあ逆に訊くけどさぁ、翔子ちゃんには『付き合った相手と一緒にやりたいこと』とかあるのかなぁ?」
カナエの問いに翔子は少し考えて答える。
「えっ……それはやっぱり……買い物したり映画みたり……まぁ遊園地でも行って観覧車に乗って景色みたりとかさ。あと海行ったり花火見たりお祭りに行ったり……とにかくいろいろしてみたいじゃんかよ。せっかく彼氏がいるならさぁ」
「それってつまりぃ、『相手の男の人がしたいことを一緒にしたいっ!』てことだよねぇ?」
「そ、そうだよ……なんか文句あんのかよ?」
「いやいや、別にいいと思うよぉ。ただそれがどうしてダメなのかなって思っただけだよぉ」
「だってそんなんじゃつまんなくないか? 男が行きたいところに行ってもつまらないだろ? だったらお互い楽しめるところがよくないか?」
「ふぅん……それでぇ、その男どもはどこに行きたかったわけぇ?」
「えっと……まずゲーセン行こうって言われたから行ったんだよ。んでクレーンゲームやってたら急に帰ろうって言い出してさ。そんで次に映画館行くぞって言ってチケット買おうとしたら金がないっていうしさ。だからお金貸そうとしたら断られちゃったんだよ。それから昼飯食おうと思ってファミレス入ったらメニュー見てばっかで注文しないしさ。結局何も食べずに出てきたよ。最後に花火大会があるから見ていこうって話になったんだけど、着いてみれば人多すぎだし屋台はあるし花火全然見えなくてさ。おまけに終電逃すし最悪だったよマジで。もうほんと散々だったよ」
一気にまくしたてる翔子にカナエは苦笑する。
「なるほどねぇ。確かにそういうこともあるかもだけどぉ、それでもきっと楽しいことはあったはずだよねぇ? それに気づかなかっただけでさぁ」
「……まぁ……そりゃそうかもしれないけど……」
「うんうん、わかればよろしい♪」
「……あのなぁ、お前なに様だよホントに……」
「神様ですけど何か?」
「……あっそ」
「ちなみにアタシとしてはぁ、翔子ちゃんのデートプランを採点すると70点くらいだと思うなぁ。まだまだ改善の余地ありだよぉ」
「けっこう厳しいなオイ……」
「厳しくないと神様じゃないもん」
「はいはい、わかったよ」
10月4日午前11時10分。郊外の公民館。
「はい、問題です。慣用句でジャマをするときには『引っ張る』……」
ポーン!
「はい、ロジャースさん」
「足、かの?」
「正解です!ロジャースさん、お年なのに早押しが上手いですね」
司会に褒められたロジャース氏はハニカミながら返す。
「まだ、若いモンには負ける気はないからのう」
10月5日午後9時50分。路線蒸気バスの中。
『次は市立サーニー体育館前。体育館とカフェジリリにご用の方はここでお降りください』
ポーン
『次、止まります』
ブザーが鳴り、蒸気バスが停車する。
「着いた」
「やっとにゃ」
「はやく行こーぜ!」
バスを降りるとそこはもう夜の街だった。
街灯や店の看板から放たれる光で辺り一面が明るく照らされている。
「うわぁ……すっげぇなあ……」
「きれいだね〜」
「ああ、そうだにゃ」
見渡す限り人だらけだが、むしろとても幻想的に見える。まるでイルミネーションのようだ。バスから降りた3名はそんな光景に見惚れながら歩いていく。
すると、目の前に大きな建物が見えてきた。
「ここがサーニー体育館?」
「そうっぽいね〜。入ってみよっか〜」
「おう!行こうにゃ!」
3名で中に入っていく。
中にはバスケコートがあったり卓球台があったりと様々なスポーツが出来るようになっているらしい。
「人が全然いないな」
「貸切状態ってことかな?やったじゃん!」
「ラッキーだにゃ。よし、早速始めようにゃ!」
というわけで3名は1時間ほどバスケをして遊んだ後、帰宅したのであった。
「楽しかったね〜」
「久しぶりに運動したら疲れたな。また今度みんなで来ような!」
「今度はバレーもやりたいにゃ!」
10月10日。キングズ・ロー市立図書館。
むかしのはなしです。
世界は悪いドラゴンに脅かされていました。
そしてドラゴンを倒すために勇者が志願して、いま決戦のときです。ドラゴンはとても強くて勇者の攻撃ではなかなか倒せません。でも何度も攻撃をすると少しずつ体力を奪えました。
「うおおお!」
勇者も攻撃しながらどんどん疲れていきます。
でもがんばって戦い続けます。なぜなら勇者にとってこれは使命だから。
この世界のすべての生き物を救いたい、それが勇者の夢でした。
そんなとき勇者はあることに気づきました。なんと悪いドラゴンの身体から小さな子供の声が聞こえてきたのです。その声はこんなことを言っています。
「お腹空いたよ」
どうやらこのドラゴンは悪いことする代わりに食べ物を欲しがっているようでした。しかしドラゴンはたくさん食べるのですぐに食べ物は無くなってしまいます。だから仕方なく他の人を襲います。
それを聞いて勇者は泣きそうになりました。
勇者だって生まれたときは普通の人間だったんです。誰かを食べたりなんてできるはずがない。
だから思い切って尋ねてみることにして、ドラゴンに近づきます。そして剣を捨て話しかけようとしました。ところが……。
ガブリ! いきなりドラゴンに食べられてしまいました。それでも必死にもがきながら叫びます。
「おいらは食べても美味しくないぞー!!」
こうしてドラゴンを倒して世界に平和が訪れました。
それからというもの、この世界の全ての人は困ったことがあったり、悩みがある時は空を見上げるようになりました。それは勇者が自分の命を犠牲にしてもみんなを守りたいという想いが伝わってきて勇気づけられるからだと言われています。
おしまい
「……なんだこれ、ヘンなハナシ」
絵本を読みながら、首を傾げる少年に母親が声をかける。
「ほら、帰るわよ」
「はあい」
10月11日午後1時半。郊外の公民館。
「はい、では次の問題。ボラやブリ、スズキのように……」
ポーン!
「マリさん、お答えください」
「出世魚にゃ!」
「正解!マリさん、1抜けです」
司会に褒められて、マリという猫は飛び上がって喜ぶ。
「やったにゃあ!!!」
10月12日午前11時20分。キングズ・ロー郊外。
「ここですか?」
「はい、ここです」
制服警官に尋ねられた少女はうなずく。彼女は黒いキャップをかぶった頭をかしげてあたりを見回した。まわりにあるのは高い塀と広い敷地だけ。この大きな建物が何かも教えてもらっていない。
「中に入るには許可証が必要ですよね? どこで発行してもらえますか?」
そう訊いたときだった。建物の奥から白衣を着た男がやってきた。そして彼女に手を差し出す。男は帽子を取って頭を下げた。
「ようこそいらっしゃいました。許可証は必要ありませんよ……」
かれは顔を上げる。
そのとき、少女が被っていたキャップが脱げてしまった。栗色の長い髪が広がる。それを目にして男の笑顔が崩れた。大きく見開かれた目、わななく唇……まるで幽霊でも見たような表情だ。かれは少女の手を握る自分の手に力を込めたあと、そっと手を離した。そして深呼吸する。だがその動作にもまだ驚きが残っているようだ。それでもかれは気を取り直して言った。
「あなたが……」
「あ……」
少女は思わず息を飲む。そんな彼女を見て男は微笑んだ。そして今度はゆっくりと握手を求める。少女は一瞬戸惑ったがかれの笑顔に安心したように握り返した。
「すいません、彼女は迷子になったようで、家に帰そうとしたら、ここに案内されたのです。……どうやら顔見知りのようですね、よかった」
制服警官は安堵と不安の入り混じった表情で、そう説明した。
お互いの手が離れた後、少女は再び男を見た。すると今度はかれが目を伏せる番だった。彼女の顔をまともに見られない様子で口を開く。
「失礼しました……。わたしが案内します。こちらへどうぞ」
「はい」
男は背筋を伸ばし、先に立って歩き出した。
10月14日午後2時45分。キングズ・ロー市立図書館の読み聞かせ会。
…… むかしむかしのことです。おじいさんとおばあさんがいました。
おじいさんは山へ柴刈りに、おばあさんはその帰りを待ちながらお米のとぎ汁で布巾をしぼっていました。
「おい、婆さんや。」
おばあさんがしぼったばかりの布巾をお日様に当てて乾かしている時でした。突然、おじいさんが大きな斧を持ったまま家に帰ってきたのです。おばあさんが振り返るとおじいさんの足元には薪に使う小枝が落ちていました。
「爺さん、どうしたんだい?」
不思議そうに首を傾げるおばあさんに、おじいさんは何事もなかったかのように笑います。
「ああ、すまんなぁ、驚かせて……少しこの森の様子がおかしいと思ってな。ちょっと気になって来てみたんだよ。まぁでも大丈夫だろ、ほら帰るぞ。」
「え?もう帰るのかい?」
おばあさんの手を引き、家路に向かうおじいさんの顔からはさっきのような笑みは消えており、その目は鋭く尖っていました。そんなことを知らないおばあさんは何もないところでつまずくと持っていた籠を落としてしまいます。
ドサッ。地面に落ちた籠から飛び出た野菜を見ておじいさんは大きくため息をつくと言いました。
「やっぱりな……。今日はこのへんにしとこう。」
「どういうことだい?」
不思議そうな顔をするおばあさんの問いにおじいさんはただ笑っていました。それから数日、おじいさんは朝早くに起きて朝食もそこそこに出かけて行ってしまいました。そして夜遅くまで帰ってきません。そんな日々が続き、次第に二人の距離は開いていきました。ある日のこと、おじいさんは大きな麻袋を担いで家に帰る途中でした。
「おう、ばっちゃん元気だったか!」
大きな声で呼びかけるおじいさんの姿を見るとおばあさんの目が大きく開きました。そこにはいつものように元気な姿で荷物を運ぶ自分の姿が写っていたのです。しかしそれは一瞬にして暗闇に包まれたように消え去ってしまいました。
ドサッドサッ。目の前に現れたのは自分の変わり果てた姿です。
おばあさんは自分の体に目を見やり、驚き声も出せずにいます。その様子を見たおじいさんはニヤリと笑いました。するとおじいさんの周りから真っ黒なものが現れおばあさんを包み込んで行きます。
……ここまで読んだ司書が顔を上げると、聴いていた子どもや親が、ドン引きした顔でこちらを見ている。
「あら、どうかしました?」
たまたまその様子を見ていた同僚がツッコむ。
「いや、普通わかるでしょ」
10月15日午前11時40分。郊外の公民館。
「はい、では次の問題。顕微鏡の接眼レンズと対物レンズ、先に……」
ポーン!
「レヘンディさん」
「…‥接眼レンズ?」
「正解、レヘンディさん3抜けです!」
司会にこう言われたレヘンディは深く息を吐きながら、こう安堵する。
「ふう、よかったあ」
10月20日午前10時半。街路樹のゴミ拾い。
市の職員たちがゴミ袋2つほどのゴミを集めている。
「ふう、疲れたなあ」
「ほんとだねえ。このごろ寒いしさあ」
などとぼやきながら作業をしているのだが……。
「おーい! ちょっと来てくれ!」
突然、上司に呼ばれた。
「なんですか?」
「これを見ろよ」
見ると、歩道脇の木の下に、大きな穴があるではないか。底には土が見えていた。
「これは何ですかね? 昨日はこんなものなかったんですけどね……」
「ああ……そうですねえ」
「これじゃ掃除した意味がないですよ。どうしてくれるんだって話だよ」
「まあまあ、そんなこと言わないでくださいよ。また埋めときますから」
「頼むぜ。ちゃんとしてくれよ」
「はいはい」
というわけで、またもや作業開始である。
「まったくもう……。こんなんじゃ仕事にならないじゃないのさぁ~」
「文句言っててもしょうがないよ。早く終わらせちゃいましょ」
「うん……」
しかし作業はなかなか進まない。なぜならば、穴の中に何かが落ちていて、それをどかさないと穴を埋めることができないからだ。
「うっひゃ~。なんだこりゃ!?」
それは巨大な木片だった。表面をざっと見た感じでは、やはり木材らしい。
「いったいなんでこんなものが落ちてるのかしらねぇ」
「さっぱりわからないよねぇ」
と言いつつ、とりあえずその辺にあった棒切れを使って持ち上げてみる。ズシリとした重みを感じた。
「よいせッ!」
渾身の力を込めて引っ張ると、ようやく持ち上がった。そしてそのまま引きずっていく。
「ふうぅ……重いぃ~」
「がんばりなさいよぉ」
「わかってらぁ」
とは言ったものの、かなりの重労働である。汗びっしょりになりながらも、なんとか穴まで運び終えた。
「ふむぅ……あとはこれをどかせばいいだけだけど……どうやってどかすかなぁ?」
「んー、そうだねえ……」
考え込む2名だったが、やがて妙案を思いついたようだ。
「よし! それじゃまず私がやってみるから見ていてちょうだい」
「オッケー」
その職員はおもむろにしゃがみこむと、
「ふんぬぅ!!」
というかけ声とともに両腕を振り上げた。すると次の瞬間……
メキィ!! という音を立てて、木片が真っ二つに引き裂かれたのだ。
「おおおっ!?」
これには見ていた方の職員も思わず目を丸くするしかなかった。
「ほれみろ。やっぱり私の方がパワーあるじゃん」
「そっかぁ。でもあんまり無理しない方がいいと思うよ」
「大丈夫だってぇ」
「そうかい? ならいいんだけど……」
とはいえ、まだ心配だったので一応注意しておいたのだが、結局無駄になってしまった。
それからさらに数回チャレンジし、ついにすべての木片を取り除くことに成功したのであった。
「やったぁ!」
「おめでとうございます!」
二人はハイタッチを交わした。
10月25日正午。キングズ・ロー市立図書館。
むかしむかしのはなしです。
女神様がある者を召喚しました。
その名は勇者と言いました。
しかし勇者は召喚されてすぐに死んでしまいました。その原因は魔王に呪いをかけられたせいだったのです。
勇者の死体を前にして、女神は嘆き悲しみました。
「ああ!なんという悲劇!」
次に異世界から強そうな者を召喚しました。しかしその者もすぐに死してしまいます。女神はその者の死体の前で涙を流しながら叫びます。
「ああ……なんて事でしょう!!」
そうして勇者と似たような者を見つけては殺させてを繰り返すこと10万回。ついにその勇者を召喚した時の女神は疲れ果てていました。
そんな彼女をみて神は言いました。
「お前ももう休め」
女神は何も言わずただ静かに涙を流すだけでした。そしてそのまま倒れ込むように眠りについたのです。
100000回の召喚で女神の魔力はほぼ尽きており、彼女が次に目を覚ます時はきっと自分が死んだ後だろうと悟りながら。しかし彼女の願いは届きませんでした。
女神が死んだ瞬間、世界の全てが消えてしまったからです。何故ならば、彼女が救おうとした世界は彼女が創った世界だからです。創造主が死んだので、創造された世界も消えてしまいました。召喚される者は死に、召喚される事のない者が生きる世界。それは言うなれば輪廻転生そのものと言える世界でした。
……ここまで読んだ少女はあることに気づいて思わず激昂する。
「にゃによ、ここから先のページ破られてて、おはなし終わってるじゃにゃい!」
「しー、図書館は静かに」
「あ、ごめんなさいにゃ」
10月29日午後3時45分。郊外の公民館。
「はい、では最後の問題。間口が狭く……」
ポーン!
「パトリツィアさん、どうぞ」
「ウナギの寝床」
「正解です。優勝はパトリツィアさん!」
大勢の喚声の中、パトリツィアと呼ばれた女性は、ゆっくりガッツポーズをとった。
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