大戦期の記憶

概略

 帝国の長きにわたる内乱(いわゆる大戦期)で争いに倦んだ諸侯は、皇国や共和国を巻き込んで、不戦条約を結ぶことにした。そのとき諸侯の一員であったフェルナンド子爵は、これが戦争自体の抑止力にはなり得ないと看破して、こう呟いた。

「これは平和ではにゃい、ただの20年の休戦にすぎにゃい」

 その予言は、実際当たっていた。この不戦条約の結果、屈辱的な譲歩(それまでえていた権益がなくなり、負債が増えた)を強いられた帝国の南東部では、『不当にも奪われたものを取り戻す』と主張したシャドウのいう指導者が諸侯や民衆の支持を集める。かれは条約を撤廃し、『再軍備』をはじめる。しかし、他勢力の反応は鈍かった。

 それというのも、不戦条約を取り仕切っていたカンタールが、皇室の家宰として帝国内での実権を得て、独裁者としての顔を出し始めたので、そちらを警戒していたのである。

 こうして、帝国内乱の最終局面である『大戦』が、皇帝家の家宰であるカンタール、東方で勢力を伸ばすシャドウとかれと同盟を結ぶ境域開拓団と秋月国を始めとした南洋諸島内の反共有主義者の軍人たち、そしてかれらの威勢を不安視する学園都市・資源財団と諸侯といった面々で戦われることになった。


 そのころ、共和国でも内乱が発生しており、南北で争っていた。南側の指導部はシャドウに支援を要請し、かれはカーとよばれる実験部隊を派遣した。対して北側はカンタールが極秘裏に実験部隊を派遣していた。両者の新型機械歩兵や蒸機飛行機が次々とこのに派遣され、とくにシャドウと東国領域政府軍の面々にとって、強大な帝国本軍と互角に戦える自軍の兵器に自信を持った。

 そののち、シャドウは東方諸侯の併合に動いたが、帝国西方諸侯の有力者ギュフィ公と資源財団在帝国代理人エドムンドは共和国での東方領域政府軍の脅威に及び腰となっていた。エドムンドはギュフィに

「もし、キミが東方の騒ぎに介入して、戦争になってもわたしたちの支援は期待しないでもらいたい」

と、秘密裡に通告した。

 その結果、かれらとシャドウの間で、これ以上の侵攻をしないことと引き換えに、東方領域政府の行為を容認する協定が調印される。帝都の資源財団事務所に帰還したエドムンドは

「名誉ある平和が、東方から帝都に持ち帰られたニャ」

と、アピール。

 しかし、その平和は、東方領域政府軍の帝国中東部のガレーナ侵攻で砕け散る。

 ガレーナ駐留軍は10日ほど耐えたが、西側からカンタールが侵攻。挟み撃ちにあったガレーナ駐留軍首脳部は、帝都に撤退。

 ガレーナ分割後、カンタールは帝国北方に領土拡張を図るも、予想外に苦戦。資源財団は援軍を計画したが、それを危惧したシャドウも参戦。ガレーナのように占領はしなかったものの、シャドウは自軍を駐留できたし、カンタールもおおむね要求通りの和平条約を北方諸侯と結んだ。

 一連の失敗によってエドムンドは解任され、チャールズが新たに資源財団在帝国代理人となった。


 そして5月10日、とうとう東方領域政府軍が西方に侵攻。ギュフィ公ふくむ西方諸侯を蹂躙した。大戦期最大の戦争、『大戦』の始まりである。

 西方諸侯は占領された北部さらの侵攻を想定して、そこに戦力を集中したが、東方領域政府軍はその裏をかいて、ユーリット湖近辺の移動困難な森や小さな山のある地域を走破し、東方領域政府の勢力圏から直接侵攻した。ギュフィ公はたまらず降伏。しかし、資源財団は単独で8月までキングズ・ローという街にこもって抗戦。一方、境域開拓団のグレミーはシャドウが唯一の覇者になることを恐れ、オーグル地方へ侵攻するも、開拓地での反乱で疲弊し、大半が旧式の軍備であったため苦戦。東方領域政府軍は資源財団の攻撃を中止して、救援に向かった。

 一方カンタールは、シャドウの関心が西方侵攻に向けられている状況に乗じて、北部での支配圏確保に動いていた。


 戦争2年目の6月22日、とうとうカンタールとシャドウが開戦、南洋諸島でも秋月国の新シャドウ派が学園都市の施設を攻撃、学園都市が資源財団とカンタールに新兵器と膨大な物資を供給。戦争は2つの陣営で戦う構図になった。

 戦況は序盤こそ東方領域政府軍が優勢であったが、フォーゲラング大反攻でカンタール側が優位に立つ。一方、資源財団と学園都市も境域開拓団を破り、ギュフィ公領を解放、結果として挟み撃ちで東方へ侵攻、東方領域政府軍は何度か起死回生の反撃を試みるも失敗。とうとうシャドウの本拠地であるケイハームへ総攻撃が始まる。

 混乱の中、シャドウは自害、戦争開始6年目の5月8日、東方領域政府の代表者が、無条件降伏文書に調印した。グレミーも4月28日、部下の少女に裏切られ、レジスタンスに射殺される。その死体は翌日、ティタノの街の中心部で晒し者にされた。


 これが『大戦』の概要である。


付記:『大戦』後の世界

 以下補足として。

 カンタールは『大戦』のを終わりを確認すると、念願の皇国侵攻を開始する。カンタールの更なる栄光となるはずのそれは、皇国の驍将メトロノーゼの最後の晴れ舞台となり、帝国の威信に致命的な傷をおわせた。皇国遠征は結局、カンタールの死によって中止される。


 カンタールの死後、政権の実力者であるてんきょういんはるとカンタールの腹心ルッグの間で衝突がおき、猫ヶ原にて春見が勝利。カンタール政権は崩壊した。

 そのころ、皇国ではメトロノーゼから息子ホウトウと腹心プリムローズへ世代交代。

 共和国では『8月革命』により、境域開拓団の影響を排除し、南北統一をはたした。

 その境域開拓団と資源財団の力は弱まり、代わって学園都市の影響力が増大。

 そして春見の3男で、あとを継いだあきただによって大陸内外の治安維持を目的とした連合警察が設立。

 かくてが始まる。

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