失われたスケッチブック
夏緖は戸沢高等学校図書室の主である。
図書室の主である夏緖がなにものかというと、つまるところ、高校2年生の黒髪ロングに眼鏡という、一見ベタな読書少女に見える。
―でも、そんなに読書は好きじゃないんだよね
―じゃあ、なんで授業が終わったら図書室にこもるのかしら?
―まあ、暇だからじゃないかな
夏緖に雑談しに、生徒が訪れることがよくある。
―ねえ、夏緖さん聞いてくださいよ、たい焼きにカスタードなんて邪道ですよね、甘味のあるあんこが最高ですよね
―そもそも甘いものは嫌いでね
―ええ~
―夏緒ちゃん!私彼氏できたんだよー!
―そっかよかったじゃん。ところで君の名前は?
ニューラグーン郊外にある刑務所。
ある受刑者が仮釈放申請のための面接をしている。
―お名前は?
―○○です。仲間内からはダニーと呼ばれてますが
―2件の詐欺容疑で、当刑務所に収監されたのですね
―ええ、身内に不幸がありましてね
―この聴聞会は、あなたに再犯の可能性がないか確かめるためのものです。自分ではどう思いますか?
―はい、もう刑務所はコリゴリです、二度としません
―……以上で会見を終わります。質問をある方は挙手を
―
―はい、われわれとしては批准もやぶさかではないのですが、帝国側が歩み寄らないために決裂してしまいました
―
―その通りです。わたしたちは国際的な緊張を望んではいません
―
―はい、世界的なアニマを使用した兵器は将来的には廃絶しなければなりませんが、同時に抑止も考えないといけません
アニマ兵器禁止条約第一条
締約組織はいかなる状況においても次のことを実施しない。
(a)アニマ兵器あるいはその他の装置の開発、実験、製造、生産、あるいは獲得、保有、貯蔵
(b)アニマ兵器またはその管理権限の移譲
(c)使用、あるいはそれをちらつかせての威嚇
(d)本条約で禁止した活動に関与または支援
(e)領内あるいは管轄・支配が及ぶ場所において、アニマ兵器やその他の装置の配備、導入、展開の容認。
われわれは、アニマ兵器と共存できない
アニマ兵器禁止条約の順守問題は、メニューから好きなものを選択して守れば良いというものではない。アニマ兵器禁止条約の条項は1つ1つが、いついかなるときでも、法的拘束力を有すしているのである
思慮深く、明確な社会意識をもつ1群の人々が世界を変えうるということを決して疑ってはならない。世界を変えるのはそうした者たちだけである
―ねえねえ、なんで王子さまはあのとき心臓を差し出したのかな?
―知らないよ
―
―へえ、そんなもんかな?
―それ以外にないじゃない
―じゃあそうなんだろね
―
―もちろんニャ。現下の状況に素早く対応することが必要ニャ
―
―市は自由で民主的な体制にある。かれらとは対話できると考えるニャ。
―
―汚職や地域経済の不公正が影響してろと思うニャ。そういった街では多くの住民の心に不満が蓄積されてきたのだろう
―
―市の行政は住民の生から死までを扱い、市民にとって必要不可欠ニャ。占領されるべきではニャい
―いいか、我々の任務は、クリストファー島北部ホワイトヘッドに潜伏する武装集団の幹部たちを捕縛することだ。以降作戦名はメイヴと呼称する。質問は?
―ありません
―よし、出動!
―はっ!
―ほら、起きなよ
―むにゃむにゃ、もう食べられないよ……
―うんなベタな寝言言わんで
パン、という頬を鳴らす音が何回かした。
―いたーい
―ただいま、この飛行機は目的地に到着します
―ほら、起きて
―わかった、わかった
ある新聞の社説
『すべてのエコノミストや経済専門家が警告した「民衆の反乱」が起きてしまった。さまざまな警告や訴えがあったにも関わらず、政治的エリートたちはそれを無視して、いままでのやり方を繰り返した。いま、かれらは信条や政治基盤が違っても、民衆に包囲されて窒息しそうになっている。しかし、かれらはこれまでと同じやり方で、できるだけ問題を大きくしないようにしようとして、危機を引き延ばしているのである』
今年11月9日のブリー平和評議会議長の暗殺は、いわゆる『和平交渉』の破錠を白日の下に晒すものでした。今日、わたしたちは、アルルルドにおける和平交渉の仕切り直しの必要を迫られています。
実のところ、ブリー氏の関わってきたいわゆる和平交渉は外国軍の占領下においては不可能であるとして、ブラッドフォースが繰り返し、断固として拒否しており、また、アルルルド臨時政府や帝国初め国際社会もかれらを和平交渉のパートナーとして認知してなかったため、最初から失敗する運命でした。
したがって、わたしたちは、ブラッドフォースも含めた全く新しい枠組みを考慮する必要があるのです。
皇室家宰の柏木良房の上奏書
『皇帝陛下に申し上げます。デズモン卿は陛下に大功あるものです。罪が明らかになってないのに、罰しようというのはどう言うことでしょうか?もし、デズモン卿を罰するのであれば、任用していたわたしをまず罰するべきです』
ラウプホルツでラベールと姉コーディーは、郭一家と生活を続けていて、高校で学ぶための奨学金を授与された。少し前、アルルルドを出たことがなく、故郷を離れてからずっと会えなかった母が亡くなった。その知らせを受けたラベールの反応は、この勇敢な女の子とにとって、いつも通り。未だルネージュに残る父ともう1人の姉を救出し、ラウプホルツに連れてくるための努力を倍に増やしたのだ。
―ここに連れてきて、またいっしょに暮らすニャと、彼女は言った。―それが、あたしにとっていちばんの夢ニャの
猫の先生曰く。
―政治をするのににゃにもやらにゃいことをそういうやり方とすると、たとえば北に1つある星がその場にありながら、その周りの多くの星がそれに敬意を表すようにゃ
エリックとアイリーンの2名はブラッドフォースから帝国のスパイとして手配され、蒸気機関車で友だちたちと安全地帯へ移動しようとした。しかし、途中で2名の追跡者が蒸気機関車に乗り込んできた。かれらは追跡者が自分たちの車両にくると、ことさらブルジョワ風に澄ました態度をとった。追跡者たちは
―スパイつうのは、あんにゃ堂々としてにゃい。アイツらは違うだろ
と、見逃したという。
皇国の皇王が即位式のときに、神殿の自席の上で、まだ時間であることを知らされる前に、侍女を犯している際、ガタガタと音がしたので、近臣が
―如何なさりました?
と、訊いた。
―なんでもない
と、皇王は返したが、察した近臣は何も言わなかった。
即位式が終わったのち、近臣は昇給した。
皇王が即位して10日は、帝国や共和国国境で兵器を帯びたものは誰もいなかった。これは皇王の徳による感化が遠方にまで及んだ結果である。
『親戚』制度とは、帝国東部の一部で実施された政策のことである。
もともとはいわゆる社会的弱者に官吏が『親戚』となって支援する取り組みであったのだが、それが不穏分子を監視するための制度にもなってしまったのである。
ブッホ氏の遺言
―延命はしなくてよろしい。これが、命というものだ
ある遺書
『さらば、すべての友よ。いつか来る光を再び見ることができるように。わたしは、もう耐えることは出来ない。先に行く』
資源財団理事ハウゼリー氏の演説
―われわれはこのままではこの大陸を文字通り食いつくしてしまうだろう。だからこそ、貴族のような1部の選良されたものたちに、世界は運営されねばならない
―われわれはダイモンからも見ることができるほど、大きな勝利を収めた。帝都からもよく見えることだろう
現皇帝ローザは個人的に基金を拠出することをせず、金銭的救済が要求される場合は基金事務局を設けた。財務省は、提示された計画にしたがって年間14000ほどの支出を予定していたが、実際、事はそう順調には進まなかった。
―どのように見積もったら、14000という金額が31名の官吏が所属する部署に必要になるのかしら。予算作成したヤツが、多くの貧しいものたちより官吏を優遇したとしかおもえないわ
ローザが再計算してみると、まったくばかげた金額だったことが明らかになった。
―3700が確実に緊縮できるわ
さらに基金の管理が帝室の直属となり、さらに5000ほど節約できた。
そうしてローザ帝は彼女の言うところの『貧しいものへの神聖なる財産』つまり年間8700ほどを、官吏の自由にさせなかった。
ドミートリー・アナトーリ共和国大統領の『協定』安全保障理事会での発言。共和国の治安当局腐敗問題について
―実際問題、調査は分裂するでしょう。しかしこの世界はいままでも多くの分裂を経験したのであり、そしてそのことは、世界の自信回復にとって重大なことなのです
上記の発言について訊かれた大統領の後援者のコメント
―翔ぶ前にえいっというな
匿名の海軍士官の証言
―わたしの経験では、アニマ兵器を搭載可能な船はいずれもそれを携行していた。秋月国やその他の地の港に入港する際、積み下ろすことはない
帝国国務省に残されたアニマ軍縮に関するメモ
―以上のような利点についてわたしは長い間、理論的には指摘してきた。しかし、ここでの経験はこの考えに理があることを証明する最初の実験であった
―今日の主要な障害物となったのが、細部をつめることを躊躇してきた課題であったことは単なる偶然ではない。関係者の相違点について集中対処しないかぎり、問題を消し去ることにはつながらない
ブラッドフォースの幹部の妻の葬儀で、別の幹部の回想
―猛烈に働いた女性だった。彼女の生涯は楽しいこと、面白いことなどまったく無縁だったろう。勝利の日を信じて、彼女は夫を助けていた
皇国との境に領土がある諸侯の主張
―アニマ兵器を保有したからこそ、本国も、そして皇国も、われわれをやっとまともな交渉相手と認識するようになり、関係の改善・深化が進んでいるのだ
ある旅行者の証言
―蒸気バスに乗って帝国東部を移動してきたとき、突然昼間なのにピカッと光るモノを感じた。その後、バスの中を見渡すと同乗者たちが鼻血を流している。その光景は滑稽にさえ思えた。ところが、鼻に手を当てると自分も同じように血が出てることに気づいた。バスの中は騒然とした
あるアニマ兵器開発の発案者の公表された書簡より
『われわれが相対的に努力していることからして、実験再開は合理的ではない。あなたも、実験再開が、実験禁止をめぐる交渉に、そして来るべき軍縮、全世界における平和の確保の全事業に癒しがたい傷を与えるだろうことは、おわかりではないでしょうか』
セイヴェン市はエネルギー資源としてのアニマ精製工場がある帝国北部にかる小都市である。
―セイヴェン市公衆衛生課は今日、アニマ汚染されてない水を載せた20台の蒸気トラックを汚染区域に送り、また、帝都から80台以上の大型蒸気馬車を借り上げ、緊急事態に備えて市街地に待機させました。それに加えて、服どこいったんだろう。早く探して逃げなきゃ。お母さんのブローチどこ?それからオレのレコード、親父がプレゼントしてくれた。わたしが載ってる新聞は?ボクが、僕の、母さんの、ボクの、とにかくボクの、それから私の保険証、絶対に必要なの、持っていかなくちゃ、持っていかなきゃ。
そうして、すべて消え、沈黙だけが残った。
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