第32話

「先輩~。なんすかその包帯? 本当に中二病になったんすか?」

「中二病だったら…ましだったんだけどなぁ…。」

 中二病は、別にけがをしていないときに包帯を巻くのだから。

 そういえば、このケガの場所は非常に悪い。眼なら左目。腕は右手。中二病患者というのは、影響を与えるコンテンツ側で統一しているおかげで、左目と右手がうずき、そこに特別な力とか存在が隠れているという物語を共有している。だから左目に眼帯をつけ、右腕に包帯を巻くのだ。

 いちおう、右手に宿るなにがし、は聞いたことがあるが、右手に包帯を巻く中二病は聞いたことがない。

 とはいえ、ちょうど右手にけがをしてしまったことは、あらぬ誤解を招いてしまう。

「中二病じゃないとしたら、頭でも悪くしたんすか?」

「なんで手のケガが頭に結び付くんだよ!」

 頭と手に関係性を見出すだなんて、ツボ押しの謎論理みたいじゃないか。

「そうじゃなくて…その、ほら、何もないところで転んじゃってさ、コンクリートがこれまた運悪く平らじゃないところに手をついちゃって。そのせいでケガしたんだよ」

「なんすかそれ? 先輩はおっちょこちょいっすね~」

 そう言いながら、大宮は髪をいじって、くるくるさせた。

 ちなみにこの話は嘘ではない。ただし、僕が中学校だった時に、起こった事件だが。

 あの時もしばらく傷が元通りにならなくて苦労した。新しい皮膚に新陳代謝するまで、古い皮膚が腐ったにおいを発して、とても不快だった。しかも大きな絆創膏を使うほど、そのばんそうこうの下敷きになった皮膚がめくれ、どんどん被害が拡大したのだ。本当にひどい目に遭った。

 だから、こんな嘘を平気でつける。真実を混ぜることで、真実味が増した嘘を作れるのだ。


 今日一日、本当に大変だった。どうして利き手の方を犠牲にしてしまったのだろうか。愚かだとしか言いようがない。ペンは持ちづらいし、授業中に手を上げるのも恥ずかしい。見せびらかそうとしているのではと言われたらと考えるだけでもう嫌になる。(ちなみに鷲頭にはもう言われてしまった。)

 飯もこれほどまでに食べづらいとは! 箸がダメそうなのは朝食の時点で分かっていたので、今日は学食でカレーを注文したのだが、それでもスプーンが扱いづらい。僕は不器用だから、左手で食べることはもっと困難だった。

 踏んだり蹴ったりである。


 僕たちはただ、放課後の学校をぶらぶらとしていた。もうポスターは貼り終えた。これ以上印刷しても、効果はなさそうだった。だからまた、不思議な出会いがあったら、勧誘してみようと提案したのだ。大宮は

「また無駄になるだけっすよ~」

 と言って僕の気をそごうとしていたが、僕はまだ気力が残っていた。


 この学校には、変なスペースがいっぱいある。それがここ最近の学校探検の成果だ。僕のいた中学校ではこのようなことはなかった。ただひたすらに、生徒が詰め込まれているだけだった。

 だが、この学校は『ごちゃごちゃしつつ、ひろびろ』としている。まるでこの学校の生徒そのものではないか。

 資金が潤沢にあるからなのか、校舎は広く、教室は余分にあって、臨時の用にも対応できる。ところどころに何もない空間があって、そこに誰かが座り込んでいたり、または勝手に何かを置いている。

 そしてベンチだ。というよりは、ソファーが設置されているところがある。たまに近くに自動販売機があり、生徒の憩いの場になっている。

 そこは青春を謳歌せし者が集う場所。なにかと楽しそうである。


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